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- Date:2024年11月23日
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ジャンル無差別乱発
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FF:現代パロ10710
珍しくCPになりました。
しかし、少女漫画の影響で書き始めたのに、なぜか出来上がったのは幸せのしの字も見当たらない破局しかけの二人。
かてて加えて破局の危機を回避できてない。
title thanx:誰花
ただいまと、玄関の方から声が聞こえて、ティーダはテレビから視線を外してそちらに目を向けた。引きずるような足音と大きなため息。今日も疲れているようだ。
「おかえり」
「ん。まだ起きてたのか」
精彩を欠いた疲れ目でつけっぱなしだったテレビのバラエティー番組を見るこの人は、家族じゃなくてティーダの好きな人だ。学生のティーダより6つも年上で、ちゃんと毎日遅くまで仕事して、疲れて帰ってくる。
電車の中でうたた寝したのだろう、涙のあとが少し乾いていた。上着を脱いでソファの背もたれに投げ、やはり引きずるような足取りで洗面所に顔を洗いに行く彼の後ろ姿へ、本当はお疲れ様と抱きつきたかった。けれども疲れた相手に追い討ちをかけることはできず、ソファでくったりしている上着のフェイクファーを指でつついて遊ぶだけに留めた。
クラウドの誕生日にと、奮発してティーダが買った上着。夏生まれの人間になんてもの贈るんだよと笑われ、しばらくの間萎んだ財布に悲しい気持ちになったのを今でも思い出せる。
「ティーダ、あんた夕飯は」
「家で食ってきたッス」
「ふうん」
「あ、スコールから、残りモン預かってきたからさ、良かったら食って」
「ああ。礼を言っておいてくれ」
そう言って台所に消えていく彼。きっとそこで立ち食いする腹積もりなのだろう。こっちに来ればいいものを、避けられているのではないかと勘ぐってしまう。
言ったら多分、一緒に座ってくれる。でも、彼は早々に休みたいと思っているはずだからわがままは言えない。彼は年上で、しかもティーダはまだ高校生だから、余計に子供扱いはされたくないのだ。
上着を抱くと彼の匂いがしてひどく安心する。今日も、これで、我慢。
こういうとき、料理がてんで駄目な情けない自分に腹が立つ。父と別に住んでいるスコールは、ティーダと同い年なのに自分の食事を一人で作るに飽きたらず、何でか接点のあるティーダの想い人にまで夕飯を分けている。悔しくないはずがない。
「ティーダ」
「んー? なんスか、クラウド」
「あんた、明日は学校だろう。用意は」
「あー、持ってきてないッス…」
「なら、今日はもう帰った方がいい。車回すから、準備しておけ」
「え」
彼が帰ってきてから、まだ一時間も経ってない。それなのに、もう帰れなんて、邪魔になってしまったのだろうか。
ティーダは上着をいっそう強く抱え込んだ。
「やだ」
「やだって…」
めったに揺らがない声が、珍しく困惑気味に揺れた。振り返ると、歯ブラシを持ったクラウドが愁眉でティーダを見ていた。ティーダを送った後、風呂に入ってすぐ寝入るつもりだったようだ。その算段に、とてつもない寂しさが湧く。
できればずっと一緒にいたい。特別なことなんかしなくても、だらだら家でテレビを見たり、いっそ抱き合って眠ってしまっても、それだけでティーダの心は満たされる。
けれど生活サイクルが根本的に違う学生であることを理由に、社会人のクラウドはティーダをとても気遣っている。彼曰わく、後になれば学生だった頃が一番充実していると気づくのだと。色恋もけっこうだが、友達との関わりをもっと大事にすべきだと。恋人はいつまでも共にいられないけど、友達は得難いものだから。そう、クラウドはことあるごとにティーダを諭すのだ。
ティーダに言わせればクラウドのそれは、過去に冒した失敗による臆病だ。そして、いくら唇や体を重ねても埋まらない隔たりだ。クラウドが画する一線を消したくて遮二無二足掻くティーダを嘲笑うかのような。
「…俺、クラウドのこと優先したいッス。わがままは言わないし、一緒に暮らしたいなんて言わない。けど、じゃあせめて、できるだけ一緒にいさせてくれよ」
今日だけいいから、泊めて欲しい。
無理に付き合わなくていい。疲れたら休んでいいからさ。それだけが俺のわがまま。
ティーダの告解に、クラウドは苦しげなため息を吐いた。
嫌われてしまったかな。けど、これは決して不満じゃないんだ。
きっと疲弊した渋面で駄目だと言われても、じゃあさよならとは簡単に告げられない。それほどにティーダはクラウドが好きなのだ。
クラウドは歯ブラシを洗面台へ戻し、ティーダがぎゅうぎゅうに抱きしめていた上着をさっさと取り上げて衣紋かけにかける。そしてティーダの隣へ拳一個分空けて、ソファに座った。
「……俺、最初に会ったときのティーダの方が、好きだったな」
「………っ、」
「遠慮なくて、こっちの都合なんか考えもしなくてさ」
ときどき、朝に乗り合わせる電車の中で見かける顔だと、覚えていた。地味なスーツ姿のくせにやたら美しい金髪で、立っていても座っていても手元に持った資料らしい紙束に目を向けていたのがとても気になった。
一目惚れだったのだ。
当時はただただ知り合いになりたくて、気持ちを打ち明けたくて、何でもいいから声をかける機会を窺っていた。偲ぶ恋なんて柄じゃない。そう言って、渋い顔をして辟易したスコールが匙を投げるほど、ずっと見ていた。
何とか繋ぎを取った後は、自分のしたいこと、してあげたいことをやってきた。クラウドは、ティーダのやることなすことに振り回されてもいたが、年下に慕われているのだと思ったようで、大人らしい苦笑いひとつで済ませていたように思う。
それが変わったのはいつの頃だったろうか。
ちょうど気持ちが通じて有頂天でいた頃、ひどく疲れたクラウドにタイミング悪く構いすぎたときだろう。怒りはしなかったものの、いつもの苦笑すらなく、クラウドが眉根を寄せてため息を吐いたのに、嫌われたのかと恐怖を感じた。もしかしたら今までしてきたことは、クラウドが甘んじて受け入れてくれていただけで、クラウドの迷惑にしかならなかったのではないかと怖くなったのだ。
それから、嫌われたくない一心でクラウドの顔色を伺うようになった。なるべく何もねだらないように、負担にならないようにと。寂しかったし、あまりの辛さに泣かなかったわけでもないが、嫌われたり見損なわれたりするよりはずっといい。
そうして我慢していたのに、クラウドはそれも嫌だと言うのか。
「今のあんた、ずいぶんひどい顔だ。自覚あるか?」
「え…?」
「泣くの、頑張って踏みとどまってる感じ。最近よく見る顔だけど、今日は特にひどいな」
俺がそうさせてるんだろうけど。
クラウドはティーダから目を逸らし、俯いた。滲む悲しみ、切なさ、それを溶かすには拳一個分の距離が遠い。
「なあ」
「…なに?」
「別れたかったら、いつでも言っていいからな」
「なん、」
「正直な話、俺は少しあんたに甘えすぎた。あんたに気を遣わせた。あんたに年上として義務ばかり押し付けて、俺はあんたの望むこと、何もしてやれてない」
「そんなこと、」
「だってそうだろ。あんたはまだ十七で、色々持て余す時期だ。相当不満は溜まってるはずなのに、あんた、何も言ってこないじゃないか」
セックスなんて、何日してないか。
ティーダはどきりとした。ティーダはまだ、性に関する何がしかへの気恥ずかしさを拭えないでいる。けれどやっぱり、体の快楽を求めるのは、いつだってティーダからなのだ。それを考えると今まで独り善がりだったと責められても仕方ない。
ティーダは上着を取り上げられて持て余した手で膝の上に拳を作った。
「…クラウドは、甘えてなんかないじゃないッスか」
「どこが」
「仕事で忙しいときも、俺に会ってくれるし。俺が馬鹿やっても怒んないじゃん」
「それは、」
「それとも何? クラウド、俺と別れたいの?」
クラウドの眉間にぐっと皺が寄る。半ば挑戦的に言った言葉だが、内心肯定されたらどうしようと戦々恐々だったティーダは、彼の様子に息を吐いた。しかしクラウドはティーダの安堵を読んだが如く、更に不機嫌な顔をする。それでも不満は腹に溜めたらしく、無言でふと目を逸らした。ティーダが一番嫌いな仕草だった。
「ほら、そうやって飲み込む。俺に文句あんなら、ちゃんと口で言ったらいいじゃないッスか!」
「ちが、俺は…」
「違わない!」
「俺は年上だから、」
「年上でもクラウドはクラウドッス! 不満をため込まなきゃいけない理由にはなんないだろ?」
「でも、お前はまだ、未成年なんだ。自分で判断できるかもしれないが、法的に保護者が必要な年齢なんだぞ。なのに、お前は遅くまで家で俺を待ってるし…」
顔を覆ったクラウドは、指の間から細く掠れた声で謝る。すまない、そういうことが言いたいわけじゃないのに、またお前に押し付けて。
ティーダは、自己嫌悪で震えるクラウドの足元にぽたりと涙が落ちるのを見て、ひとつの間違いに気づいた。
お互い、相手に際限ない遠慮をしている。ティーダは疲れたクラウドの負担になりたくなくて、いつの間にかひっきりなしに喚いていた自分の気持ちを伝えるのをやめていた。あんなに大好きだと言っていた言葉を最後に口にしたのが、もう、ずいぶん以前のことのように思えた。特別気持ちを口にしないクラウドが、知らず知らずの内にしがらみに追い詰められていたのにも気づかず。それは相手を思いやる気遣いではないのに。
ティーダはクラウドの肩を抱いた。同じ背丈の体格なのに、縮こまったクラウドはすっかり消沈していて、小さくなっている。
ティーダは言う。
「今日はもう、寝よう。クラウド」
「…………」
「俺、今日は帰るから。でも明日も来るッス。クラウドが帰ってくるの、ずっと待ってる」
「…………」
「な?」
「…………いい」
クラウドは、涙を拭い鼻を啜って、俯いていた顔を上げる。目の端が赤く充血していた。
「いい。明日、お前の家まで送るから。だから、いい」
「…それ、今日は泊まって良いってことッスか?」
いらえの代わりか、視線を落としたままのクラウドの碧眼から涙が滑り落ちる。
ティーダはひとつの間違いを冒していた。
抱きしめるべきはずっと前から、彼の温もりに縋るための上着などではなく、隣で泣いている上着の持ち主だったのに。