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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

仔犬のワルツ

TOA:アリエッタみたいにモンスターに育てられたルーク


ネタ消化。
けっこうかわいい感じになったので満足。
じぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。
穴があくほど、音が聞こえるほど、ルークはアッシュを見た。
四足歩行から、ようやく不格好ながらも立って歩けるくらいには足がしっかりしてきたが、腕を前に投げ出して、今にもまた獣スタイルで走り出しそうである。
身長は同じはずだが、ろくに食べていないらしいルークは骨と皮と腕や足の筋肉しかついていない様子で、痩せぎすもいところだ。チーグルの森でライガクイーンを迎えにきたらしいこいつにジェイドが会わなければ、きっとその存在も知らず二度と会わなかっただろう、己のレプリカ。
しかしアッシュはルークに対してレプリカと呼ぶことを禁じられていた。
獣に育てられたらしいルークを最近やっと人間と認識させることに成功したのに、レプリカなんてまだ理解できないだろうに惑わせるようなことを言うな、と。当人はどちらにせよ、気にしそうにないが。


「…なんだ」
「かみ」
「紙?」
「それ」


わしっと掴んだのは、アッシュの髪だった。


「冷たい」
「当然だろう」
「まっかだから、熱いとおもったのに」


不服そうに唇を尖らせ、ルークは言う。


「さいきん、やっと、火とのつきあいかたがわかってきたんだ。むかしはもっと怖かったけど、でも、ちかづきすぎなきゃ、暖かいんだな」


長い間獣に育てられたルークは、表情のバリエーションが乏しい。けれど、感嘆を表す声はある。
うれしそうな声に、アッシュは後ろめたいやらなにやらだ。
この髪のせいで、二つ名は鮮血だった。誰から見ても、血を連想する色を、ルークは火と思い違いをした。火の色は、その言葉はルークの髪にこそふさわしいと思ったのに。


「まだ、ふぉーく? とか、こわくて使えないし、焼いた肉はたべられないけど」


丸い目がふと細くなる。


「おれ、人間、なんだよな」


当然じゃないかという言葉は呑み込んだ。その当然というのは今まで仲間がやっと教え込んで培ったものだ。まだ不安なのだろう。


「……ルーク」
「う? おれ、ルーク」
「お前は人間だ。一人前のな」
「うん」


ルークはアッシュの肩に顎を乗せて、首筋をぐりぐり擦りつけた。喉が鳴っている。懐かれたようだ。
しかし、やおら何かに反応して、ぱっと駆けてしまう。それを追いかける声がひとつ。


「ルーク!」


ガイだった。後ろにはジェイドもいる。


「ああ、また逃げちまった。やっぱり旦那は当分無理だな」
「仕方ないですね」
「…お前たちでも、まだアレは懐かんのか」


ガイが苦笑をこぼす。


「どうもあいつ、ジェイドの目の色が珍しかったらしくてな。言葉もまだ知らなかったころだし、どうしても触れようとして、つい、な」


雷を食らったのか。文字通りに。


「噛みつき癖もようやく治ってきたし、服も着るようになったが、魔物捌いて生肉でも平気で口に入れるし、青い実も消化しちまう。丈夫なのが救いなんだけどなー」


ガイも、ジェイドがいないときでないと寄り付きもしないらしい。
火が恐ろしかったときなど、その光が届かないところまで逃げて行って、夜中はずっと追いかけっこに興じていたらしい。


「マーキングはされたんだが」
「マーキング?」
「獣の習性ですよ。匂いをつけてテリトリーを主張するんです。耳の後ろにある汗腺から出るにおいですが、まだ、獣の性分が抜けていないようですね」
「でもかわいいじゃないか」


ジェイドが恨めしそうにガイを見る。


「さっきのあれか」
「へえ、お前にもついに。じゃあ後はジェイドだけだな」
「遠慮します」
「かわいいぞー。側で丸まって寝られると、本当に犬か何かに思えちまう」
「あなたはルークを人間復帰させたくないのですか」
「まさか」


でも可愛いものは可愛い。と開き直って笑うガイを、アッシュもジェイドもあきれたように見る。
確かに不器用なりに二足歩行する彼は見ていて飽きないが、にしても、人の生活ができないというのは今後も困るだろう。本来ならば数日居をかまえて生活臭をつけるのだが、彼の落ち着きがない性格と旅に関するもろもろの事情で、それも叶わない。いっそ見なかったことにして野生に返してしまえというにも、半端に人間を覚えてしまった今では、ちゃんと獣たちの間で生きていけるかどうか。
ちょうど、帰ってきた彼は口にピヨピヨを銜えていて、そのままむしゃむしゃ貪り食い始めた。
町の人間が遠巻きに怖いもの見たさでそれを見物する。


「ルーク! そんなスプラッタを人前でさらすな!」


口の端から血の滴る臓物をぶらさげたルークは、駆け付けたガイに唸った。


「おれの!」
「取らないから! 食っていいから! けど散らかしたら片付ける人が大変だろう? 森で解体しなさい」
「とらない?」
「ああ。だから、森で食べなさい」


ルークは頷き、グロテスクに血まみれなピヨピヨを引きずって茂みに入っていった。
意思疎通が言葉によって可能になり、本当に助かった。通訳していたのはミュウだったが、 「うるせえええ! ですの!」 「くんじゃねえ人間ども! ですの!」 では聞く方もなんだか気が抜けてしまう。


「全く。空飛ぶ魔物なんて、どうやって獲るんでしょうね」
「この前フレスベルグと乱闘したのを見たときは、さすがに肝が冷えたぜ」
「…つっこまんぞ」


というか普通に生肉を食わせていいのか。


「くだしたことがないから、大丈夫じゃないか?」
「そういう問題か!」


その後、あまりに遅いルークを探しに森に入ったら、ライガと抱き合って鼻面をくっつけながら寝転がっているのを見つけた。
出戻りすらも怪しい。
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