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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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三行詩より愛を込めて

ファフナー:一騎と総士


見たよ記念。二人はいつもすれ違ってるイメージがある。


title:浮世座

いつも自己嫌悪に苛まれていた。
あの日の、目から湧き出る泉のようにとめどなく溢れていた血が、蠢く未知の生き物がごとく思えすらして、気持ち悪かった。血に染まった虚ろな目が、奥深い洞を覗き込んだときの暗闇のようで、恐ろしかった。痛い、痛いと叫ぶささくれた声に喉を絞められている気がして、どうしようもなく苦しかった。
あいつは己を糾弾する理由があるのに、誰にも告げ口をしなかった。そのことがわからなくて、怖かった。何より、鋭利な傷を彼の小綺麗な顔に遺した自分の存在が、かつてなく疎ましかった。
俺はいつ彼から明確な拒絶を受けるかに怯え、いつでも己を消したいと、良心の呵責に潰されそうになっていたのだ。

 


*

 


ひとつになりたかった。
ひとつになって、自己すら消滅して、相手との境界線がうやむやになったまま気持ち良くなりたかった。
離れたくなかったのだ。
差し出した手のひらから淡く輝く結晶を突き出す幼い己。それを見て異物を排斥する色に目を変える、やはり幼い彼。本能的に、個人の意志で交感することの消失を恐れた、賢い彼。
ひとつになってしまったら、彼と僕は『私たち』という内包された個体になる。恐怖も歓喜も、分かち合うことなく同調でしかなされない未到の虚しさを、まだ知らないけれども。今の自分にとっては、それは身震いするほどの恐怖を伴うものだ。
彼が島を飛び出したときに感じた失望は、そんな恐怖を忘れた己の傲慢そのものだった。
時期が悪かったのか、はたまたそれが契機だったのか、ファフナーとパイロットたる友人らを秤にかけるような挑戦的な質疑を吐いた彼の望んだであろう答えを言ってやれなかった僕に何も告げず、代わりとばかりに遠見へ何らかの言葉を遺して、彼は島を飛び出した。彼の言葉に感じ入ることがあったらしい彼女は、彼の言葉を誰もが聞こうともしなかったくせに勝手なことばかり言わないでくれと苦しげに言った。消えそうな彼女の慟哭はまさしく、失踪の心当たりに何ひとつ思い当たらなかった父の真壁司令を始めとする大人たちの驕りと、自身の傲慢を鋭く射抜く剣である。結局、彼が彼女に何を言ったのか教えてもらえずじまいだったけれど、戦争の渦中ではない、ありのままの彼の言葉だったのだろう。それに勝る信頼を得られなかったのは、彼との距離が昔よりもずいぶんと開き、お互いの見るものがもう違っていたから。


一騎くんと、少しでも話そうと思った?


彼女の恨みがましい目が、追いかけてくる。
だって、仕方ないじゃないか。彼と僕は、今まで同じ道を歩いてきたと思っていた。あの日、彼が僕の左目を奪ったあの日からずっと。
クロッシングで、彼が何を考え、何を感じたかを知ったという僕に、彼女は冷たく毒を吐く。機械を通して、人の心がわかるわけないじゃない。彼女はすぐにしおらしく顔を伏せて謝ったが、僕はその冷たさに瞬きも忘れた。僕の傲慢と怠惰のその結果が、彼のいなくなったこの島だと。
何のために、僕らは言葉を交わせる口を持っているのだろうか。

 


*

 


話がしたかった。
あいつと、もう一度だけでもいいから、話がしたかった。
話をして、いつの間にか噛み合わなかった何かの齟齬を、修正したかった。だから島の外に広がる外の世界──あいつが見た世界と同じものを見て、近づきたいと思ったのに。
どこで間違えたかな。


あなたは、そこにいますか


響く声に、空へ消えた翔子と、それに嘆き悲しみ、今は茫洋とした視線で宙を眺める物言わぬ甲洋を思い出し、最後に左目から赤黒い血を流すあいつを思い出した。
ああ、今までずっと、消え失せたいと願っていた。自分さえいなければ、あいつがファフナーに乗れずにまんじりともせず、翔子が死ぬことも、甲洋が生きながら死ぬこともなかったかもしれない。そう思うと、息ができなくなって、喉をかきむしりたくなる。
だけれど、もう一度あいつと話がしたい。もっとちゃんと、あいつと向き合いたい。
帰って、ちゃんと…。

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