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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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Missing reminiscence [7]

FF:7→8


混迷してます。そして大して進んでないという。

 ヴィンセントは膝に乗っかる子供をそのままに、向かいのカウチに深々と座り、手紙を広げるクラウドを眺めた。
 依頼でないのは、クラウドの若干嬉しそうな目元でわかる。口まで弧を描き、珍しく本当に嬉しそうだ。先日SeeDなる輩が来てからしばらく、遊んでくれとせがむ有象無象を相手に少し手加減を忘れて刀を持ったほど不機嫌だったというのに、それほどの良きことが書いてあったのか。


「ヴィンセント」
「何だ」
「子供が生まれたってさ」


 ヴィンセントはいい加減膝から下ろそうと抱えた子供を危うく落としかけた。ヴィンセントの胸中も知らず、子供は新しい遊びか何かと勘違いをして、高らかに笑う。


「俺、数日エスタに行くよ」
「ちょっと待てクラウド」
「子供たちのこと、よろしく頼むな」
「クラウド」


 無情にもクラウドは、さっさと身支度を終え、デイトナで駆けていった。旅慣れするとこういうことが素早くなって困る。
 木を蹴倒す音だけが長々と残り、ヴィンセントはしばらくカウチに沈んでいた。

 

 

 

 

「そうですか、そのクラウドという方が……」
「ええ、明らかに情報を持っている様子でしたが、その…戦争屋は嫌いだと………」


 報告を受けたイデアが、憂い顔で視線をデスクの上の書類に落とす。
 ゲリラと政府が衝突することはあれど、大まかな戦争が終結したのに、SeeDを戦争屋と憎む人間は今も絶えない。前はそういう面が占めていたので否定すべくもないが、これからはガーデンを普通の養育学校として運営して行きたいと願うイデアの気持ちを知っているだけに、今回の酷評を報告するのは少し辛かった。


「ガルバディア軍との交戦は仕方ないとしても、子供たちの行方は、教えてもらえなかったのですね…」
「シスターが依頼をしたことを開示したことが、向こうにとっての最大の譲歩ではないかと」


 仕方なくバラムガーデンまで同行してきたサイファーが言うのには、クラウドらしき人間が教会から子供を連れていったとのこと。もしかしたらシスターの依頼は、クラウドに教会の子供をどこかへ運んでもらうことだったのではないか、と。
 情報が前後してしまい、何故もっと早く言わなかったのかと思いもしたが、それも後の祭。
 どのみちエスタとガルバディアの勢力争いを厭う彼が、エスタの政権近くに位置するスコールたちに、素直に子供たちをどこへ連れていったかなど教えるとは思えない。ずいぶん警戒されてしまって、これでは後々また彼らを訪れたところで成果が挙がるかも怪しいと、スコールは僅かに肩を落とした。
 そんなスコールにイデアは優しく笑って言う。


「ご苦労様でした。これだけでも大きな進歩です」
「いいえ、大したことは、何も…」


 消沈したスコールを見遣り、イデアは首を傾げる。


「帰ってから、あなたも、キスティスやゼルも難しい顔をしていますが、何かひっかかることでもあるのですか?」
「いえ、ただ………」


 スコールたちの目の前で、森を凍りつかせるブリザガを一瞬で放ち、たかが初級魔法のサンダーで車を大破させ消し炭に変えた男と、己の知らない、攻撃を強固にはねつける盾の魔法で、近くで発動された凄まじいブリザガの余波を防ぎきった男。彼らは、スコールたちの知らない方法で魔法を行使するという。
 話を聞いたイデアは、目を丸くした。


「セトラ、かもしれませんね、その方々は」
「せとら?」
「G.F.を使う今の人たちとは違い、古代種と呼ばれる古くからを生きる人たちは、わたしたちにはない不思議な力が使えるそうです。わたしも今まで話に聞くだけで、会ったことはありませんが…」
「その、魔女、とは違うんですか」
「ええ」


 それ以上、イデアは多くを語らなかった。困ったような笑みをスコールに向けるイデアに、スコールは未だに燻る猜疑を一先ず忘れ、応接室を出た。


「あれ、はんちょ!」


 あれから一食も摂っていないスコールが食堂へ向かおうとしていたところへ、セルフィとアーヴァインが声をかけてきた。二人とも、G.F.をジャンクションして、薬や諸々を装備している。


「任務入っちった」
「入れ違いだな」
「そうなんだよー。モンスターの討伐。なんか、突然凶暴化したのが出てきたらしくてさァ」
「……それはどの辺りだ?」
「ガルバディアの北西にある村の近く」


 唇を突き出して不満を露にするセルフィ。しかしスコールは怪訝に思った。
 最近、やけにガルバディアという名前を聞く。杞憂であれば良いが、残念ながら看過するには胸騒ぎが大きい。


「…気をつけろよ」
「大丈夫大丈夫! あたしとアービンならチョロいって!」
「セフィ一人じゃ、心配だからね」


 にこやかに笑う二人はスコールの言葉に頷く。車に乗り込む二人を見送って、スコールは食堂に向かった。

 

 

 

 

 サイファーはエスタにいた。
 相変わらずの活気に辟易しつつも、結局ガーデンに戻った自分に自己嫌悪する毎日だった。サイファーが見つかったという知らせに沸いたガーデンに、正直居心地の悪さが増しただけのような気がしたのだ。
 丸め込まれたという形と言えど、まだバラムガーデンのSeeDとして在籍を許され、風神や雷神が密やかに喜んでいたのを知っている。けれど、こちとらSeeDを敵に回すと決め、殺すつもりで攻撃したのだ。変わらず賑やかに日々を過ごすあそこで、サイファーは言ってやりたかった。
 俺はテメェらの敵だったんだぞ!
 まあ、軽くいなされそうで、言うに言えずにエスタまで逃げるようにやってきたのだけれど。
 しかしそこでも、魔女アルティミシアの騎士として方々に被害を撒き散らしたことさえ若気の至りと言われ、どこぞのご老体に青春だと笑われながら肩を叩かれては、本格的にサイファーの立つ瀬がない。
 街は晴れていることもあってか、オープンテラスでカフェを展げる店には、家族連れやら恋人やらで賑わっている。それをやっかむ気はないとは言わない。平和ボケしやがってとお門違いな悪態を吐く。
 サイファーは何だか腐りたくなった。


「思ったより大きいな」
「クラウド、忙しいでしょう? あんまり呼び立てるのも悪いと思ったし、外に連れて歩けるくらいに人慣れしないと、こんなところへは来れないの。ごめんね」


 聞き覚えのある固有名詞に、足早に通り抜けようとしたサイファーの足が止まる。


「仕事なんか、どうせ不定期だし、気にしなくていいさ。お前と子供の方が、よっぽど大事」


 色の濃いサングラスをかけた、サイファーより金髪らしい金髪の男は、カフェテラスに腰かけ、向かいに座る女性が抱える乳幼児を覗き込んでいた。子供が手を伸ばし、サングラスに指をかけるのへ、慌てて制する。


「こら、もう」
「興味があるんだろうな。研究者気質かもしれないぞ」
「やめてよクラウド、この子は普通に育てるんだから」


 お前、妻帯者かよ!
 仲睦まじい様子の彼らを、サイファーは凝視した。
 てっきりクラウドは自分の少し上くらいの年齢かと思いきや、妙齢の女性との間に子供をこさえて養う甲斐性があったらしい。己はもうすぐ二十歳を迎えるというのに、傭兵としてではあるが、ガーデンに籍を置くことが、尚更いけないことのように思う。
 子供を囲んで幸せそうに笑う女性と、子供にしか向けないと思ったクラウドの柔らかい表情をなんとなく見ていられなくて、サイファーはさっさと混雑した街の中へ足を入れた。

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