[PR]
- Category:
- Date:2024年11月23日
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ジャンル無差別乱発
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
腹にものを入れて人心地ついたスコールは、再び呼び出しを受けた。場所は応接室ではなく理事長のシドの元で、任務の通達だということはすぐ知れた。
「今回のあなたの報告を加味し、検討を重ねた結果、クラウド・ストライフなる人間は、交渉次第では有力な情報を得られると判断されました。次の任務は、彼へその交渉にあたって欲しいとのことです」
シドの言葉に、スコールは僅かに眉を歪め、難色を示した。
確かにクラウドが請けたという、依頼の内容を詳しく知るだけでも、ずいぶんと事態の展望が望めるだろう。けれど、あれだけ強固にスコールたちを突っぱねたクラウドを懐柔するだけの交渉材料を、こちらが持っているとも限らない。
尋問ではなく、腹の探り合いと話術を必要とする話し合いが少し苦手なスコールに、イデアは控え目に笑った。
「本音を言えば、モンスターの住む危険な森ではなく、安全な街に移っていただきたいのです。聞けばその森は先の大戦前には存在していなかったのでしょう? 何か影響がないともわかりませんし…」
そして、クラウドたちが移動した後に、速やかな調査が行われるのだろう。異常な速度で繁盛した木々は、時を超えてやってきたアルティミシアの影響かもしれないことを考えれば、早々にどこか別の場所へ移動してもらった方が良いに決まっている。
「帰ってまたすぐにというのは心苦しいのですが」
「わかりました。班員の編成はこちらで考慮しても構わないでしょうか」
「いいえ。今回はあなた一人でお願いしたいのです」
「一人…ですか?」
一人であの森を抜けるのは、些か無謀な気がする。
イデアも申し訳なさそうにうつむいた。
「ゼルには、連れて行かれた子供たちにガルバディアが関与しているか、リノアや大佐を通して動きを探ってもらいます。キスティスには、サイファーの様子を見ていて欲しいのです」
スコールは短く息を呑んだ。
サイファーの立場の不味さは、少なからずガーデンにも余波を与える。それを承知でガーデンに引き留めたいというイデアの希望が叶ったのは、バラムガーデンという檻を用意して、監視体制を取ると宣った両国への打診が主な理由である。
正直言って、戦犯のサイファーを権力に物言わせて殺すのは容易い。それをしないのは、スコールやクレイマー夫妻といった、現在機能する唯一のガーデンの台頭に対する抑止力に使えると踏んだからだ。バラムガーデンの指揮官と同等の力を持ったサイファーに気を揉んでいる内は、まだ、脅威にはなりきらないと、うがった考えがいずこかに少なかれあるということは、暗黙の了解だった。その空気をなんとなく察して、サイファーがガーデンに馴染まないのも、理解できる。
「……了解しました」
スコールは不承ながら頷くしかなかった。
↑↓
〈ピッ………ガガ、……ガ、………サンプル逃走………ガガッ………Type-B…ガッ、……ピピッ〉
↑↓
クラウドは、柔らかい毛(髪というより、どちらかと言えばそれに近い)に包まれた赤子の頭を優しく撫でた。
昼下がりのテラス、小春日和な暖かい日差しを日傘が遮るそこで、クラウドは一組の母子と対面していた。
「久しぶりだな、ゆっくりこっちにいるの」
「いつもお仕事なの?」
「最近、ひとつ終わらせたばかりだ。けど、他の仕事はまだ入ってない」
「みんな元気?」
「やんちゃで困る。そっちはどうだ?」
「うん、みんな元気よ。一人エスタから引っ越しちゃったけど、みんな、元気」
ふと女性が顔を曇らせた。何かをまぎらわすように赤子を抱いている腕を揺すってあやす。
「ごめんね、クラウド。まだ、旦那を紹介できなくて」
「気にするな」
「旦那も、私がお世話になったなら挨拶しないとっていつも言ってるけど…」
「お前が嫌なら黙っていれば良いさ。説明したって理解できないときもあるし」
「クラウド………」
赤子の頭をもう一撫でして、クラウドはコーヒーを口に含む。ほろ苦いコーヒーを燕下すると、頼んだバケットを小さく千切り、首を傾げた。
「……その子にまだパンは、無理か…」
「まだよ。離乳食を最近やっと始めたばかりなのに。クラウド、そんなんでよく私たちを育てられたのねぇ」
「ほとんどがヴィンセント頼みだ。あいつ、顔に似合わず子育て慣れしてるからな」
「イン兄さんにも会いたいなぁ…全然会いに来てくれないもの」
「あの通り悪目立ちするとか何とか言って、ずっと隠ってる。……誰も彼も、まともに名前を発音しないから、あいつ自分の名前を呼ばれると少し喜ぶようになってきたぞ」
女性は相好を崩して笑うが、また目を伏せてしまった。
「ねぇクラウド」
「…」
「エスタに、越してくる気はない?」
「……?」
「私、クラウドに育ててもらって、本当に感謝してるの。あのままクラウドに拾われなかったら、きっと生きてなかったとも思う。けど、だけど、預かってる子供たち、もっと広い環境で育てた方が良いんじゃないかって…」
クラウドはサングラスの下で静かに目を細めた。
子を生んで、子供を育てるのに環境へ注意を払うようになったのだろう。彼女の言いたいことは、子供たちにとって、良いことだとはわかっている。けれど、クラウドはその身の内にある事情で、十年と同じ場所にはとどまれない。各地を転々とできるほど子供たちも心身共に身軽ではない。
何より、クラウドはあの森から離れてはならないのだ。
女性は、沈黙を徹すクラウドを、悲しげに見た。
「子供たちが、人を怖がってるのはわかってるし、私も昔はそうだった。クラウドの事情は知ってるつもり、だけど…」
「いや、いつかはそうしなければいけないことは俺も考えてた。でも、今は少し、エスタもガルバディアもきな臭いんだ」
「また戦争が、始まるの…?」
恐れるような密やかな声に、クラウドは女性の頭を撫でる。彼女がまだ子供だったいつかに、何度かしてやった仕草。
女性は小さく息を吐いた。
「私ったら、クラウドも大変なのに……」
「心配してくれるのは有難いよ。ありがとう。でも、俺はお前たち家族が幸せにしていてくれたら、嬉しい」
「ずるいのね」
恨めしげな視線を、クラウドは気づかないふりをした。