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- Date:2024年11月23日
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ジャンル無差別乱発
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朝起きたら女になっていた。
ガイが真っ青になったり真っ赤になっていた。(おれのインナーぎりぎりだもんな、いろんな意味で。)
ジェイドが珍しく本気で驚いてた。(眼鏡の奥の目が、くりくりしてた。)
ナタリアが口に手を宛てて、 「まあ!」 とか言ってたけど、ちょっと嬉しそうだった。(おれは知ってる。ナタリアはおれの長かった髪をいじるのが好きだった。)
ティアは少し頬を染めてそっと視線をそらした。(なに、なんで?)
アニスはおもいっきり目を見開いた後、なにそれ!と叫んでいた。(普通な反応だと思ったら、 「むかつくその胸!」 が後についた。)
とにかく、原因はジェイドの脳味噌を以ってしても解決にいたらなかった。前例は全くないらしい(こんな馬鹿な現象、前例と言えどあってほしくなんかない)。
「とりあえず下着ね」
ティアが言った。
「やだやだやだやだ!ぜってー嫌!」
「まあルーク!足を上げて暴れないで下さいまし!はしたないですわよ!」
「だって、下着って、下着って何だよ!」
「だからって今のままじゃ困るでしょう?」
「困んねぇ!今のでいい!」
「ルーク!今のあなたは女の子なのよ!」
「元は男だっつーの!そんで男やめる気もねぇ!」
「ルーク!!」
結局押し切られて、上だけでもと下着を着せられた。さすがにいろいろついてたのは止めてもらったけど(フリル?レース?どうせ見えないのに女って何でそんなとこまで着飾んの?)。
胸が苦しくて重くて、ガイが言うにはちょっとなで肩になった、らしい(お前何でそんなことわかんの。アニスが白い目で見てたぞ)。
それってつまり、見掛けは華奢になったってことだろ。
それってつまり、
( 、)
戦うことも前のようにいかなくなった。
ただ腕を振り上げるだけで、脇腹のあたりの皮が突っ張る。胸が重りになる。腕を振るうのに邪魔になる。そんな小さな差異、と侮っていたけど、戦いってそういう感覚がけっこう大事で、いつもなら負わない傷もたくさん負った。顔に傷がつこうものなら、ティアが率先してファーストエイド(どんな最優遇っぷりだ)。いつもよりもすぐに腕が疲れた。
体力もなくなってるみたいで、声がちょっとだけ高くなってて、体のどこもかしこも柔らかくて、本当に女になってるのだと思うと、泣きそうになった。
腫れた胸が嫌で、ジェイドは渋ったけど、下着の上からジェイドにもらったサラシを巻いた。やっぱり少しは筋肉があるようで、締めたら固くなった。
しばらくはこれで過ごそう。そうしよう。
アッシュがきた。
ジェイドと難しい話をして、置き土産が如くおれをなじっていった。
毎回恒例になりかけてて、普段のおれならきっとそれは例えば暴言混じりだったとしても正論だと思うから、凹みつつもそうなんだろうなと納得するんだろう。
だってあいつは被験者でおれはそのコピーで、あいつがおれに苛立ちとか憤りとかをぶつけるのは正当であって、甘んじて受けるのがおれの義務だ。
だからいつも通りに真に受けて馬鹿みたいにしょぼくれていれば良かった。なのに、今日に限って(いや、今日だからこそ)理不尽さに沸き立った私憤を抑え込めなかったのは、多分、女になったことで機微に変化があったからなのだろう。
気が付いたらおれはヒステリックに叫びながらアッシュに切りかかっていた。
まあ、ボコにされたわけなんだけど。
やっぱり男と女は絶対的に何かが違っていて、それは思考なり体型なり体力なりときっと変えようのないもので。悔しくて悔しくて、あまりに悔しくて気が済まなかったから、叩き落とされた剣なんか見向きもせずに殴りかかって、それでもやっぱり顔が腫れるまで殴り返されて。
「何しやがる、この劣化レプリカが!」
アッシュの言葉に、耳の奥からぶつっと何かが切れる音がして、唇を噛んで堪える暇もなくおれの目から熱い涙が、
「う、る、せぇ」
つまるところ、今のおれに劣化だとかレプリカだとか、そういう差別的な暴言は鬼門なのだ。
だって普通の人間、同じ種族の胎から生まれてきたオリジナルは、恐らくこんなことにはならない。生きていく過程で、性別が変わるなど。
「お…っ、おれはレプリカで、アッシュの複写人間で、人間じゃなくて、わかってるよ、わかってんだよ、んなこと自分が一番さぁ…っ! だけど、複製だけど心臓だって動いてるし、息だって、吸わなきゃしんじまう。おれだって、おれだって、人間って思いたいのに、好きでこんな体になりたくなんか……っ!」
「は?」
お前何言って…と言いかけたアッシュの目線が、へたれ込んだおれの胸あたりで止まった。
何じろじろ見てんだこの変態。見物料とるぞコラ。
そんな文句は出るはずもなく、わんわん喚き泣くおれを見るみんなの顔はどこか気まずい。
わかってるよ、また卑屈だとおれをたしなめるんだろ。だけどお前らだって、こんな風になってみろ、泣き言のひとつだって言いたくもなる。
そしていい加減ここが往来の場だと気付け。
結論から言うと、泣き疲れて腐丁寝したおれは、次の日男に戻っていた。
声だってばっちり低いし、胸で揺れる脂肪の塊だってない。あってたまるか。
みんながおれに気を遣ってくれたのか、一人部屋で起きた朝は爽快だった。今日ほど神様に感謝した日はない。
おれが起きたのを見計らったのか、程なくしてアッシュがきた。おれが勝手に暴れただけだから(その自覚くらいある)、またぞろ振り回されて迷惑被ったことをガイあたりにちくちく嫌味や悪口を言いながら帰ったと思ったおれは、居心地悪そうに視線を彷徨させているアッシュを珍しげに見た。
「………悪かったな」
……え、
「はい?」
今日の天気はところによりインディグネイションだ。そうに違いない。
あの、人(おれ人じゃないけど)を見下しまくって鼻で笑ってたアッシュが、あのアッシュが、自分より劣ってると思ってる奴に、あやまった!
感激を通り越して恐怖を感じたおれであるが、しかし何について謝られているのか、わからない。
「…だからっ、…不安定なお前に…っ、くそっ、もういい!」
いや、勝手に完結されても困るんだけど。
その後何故か、おれが男に戻ったと知るや否や、アッシュは顔を真っ赤にしておれを殴った。
【とある意識集合体の嘆き】
ああ、このままでは彼の意識が消えてしまう。あの誰よりも生きたいと強く願う哀れな子供は、望み叶わず過去生きた記憶だけを残して消えてしまう。
どうすればいい。どうしたらいい。
…ああ、同じでなければ良いのだ。被験者と同じでなければ、あの子供は消えなくて済むやもしれぬ。
同じでなければ………