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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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つぶやきは異口同音に重なった

TOA:逆行ルク

本編(外郭大地編)
オリジナルルーク視点


いろいろおかしいのはスルーの方向で。
「で、あなた方と一緒に、確かもう一人いましたよね」


いけ好かない眼鏡のあのマルクト軍人が、眼鏡を押し上げながらルークらを見て、そうのたまった。
次にチーグルを見たら容赦なく噛み砕くと物騒な言葉を言い捨てて、ライガは去っていった。脅迫混じりの譲歩だが、戦闘するまでにややこしくなった事態の収拾に、これ以上ないほど丸いものだと思う。
あの男は上で旋回していた鳥を呼び寄せ(フレスベルグ、と言ったか)、何頭かのライガに干し肉を渡し、荷と入れ違いに、こちらが何かを言う隙も与えず飛んでいった。名前も髪や目の色も結局わからぬまま、そして冒頭に戻る。
少し前まで、タルタロスへ捕縛という任意同行で連れてこられたルークらは、案内された一室の椅子に座っていた。曰く、和平が目的だというのに、相手国の王族をこんな扱いにするこの眼鏡の神経は心底理解できないが、もっと理解できないのが神託の盾騎士団だ(あいつら導師がいると知って尚、タルタロスを襲いやがった!侵略行為だぞ!)。とりあえず左舷のハッチから脱出し、導師を奪還しなおし、セントビナーへ向かう途中の野営の最中であった。


「は、生憎俺はあんな奴診たことなんざねぇな。そっちの女は知らねぇけどよ」
「わ、私だって知らないわっ!それに私は女じゃなくて、ティアだって言ったでしょ?」
「ではイオン様は?」
「………………」
「イオン様?」
「あ…すみませんジェイド。顔もよく見えなかったのではっきりとは言えませんが…」


何かを思い出すような、考え込むような顔でイオンは視線を地に落とす。


「教団員ですか?」
「わかりません…けれど、彼に似た人を確かにダアトで見た気がするのです」
「それにしては教団と導師を思い切りこき下ろしてましたねぇ」


やっぱり聞いてたんじゃねぇかと心中苦く思う。しかし彼は、少し魔物寄りの思考だが、あくまで正論を言っていた。チーグルがエンゲーブの食糧を盗まなければ、この件に人間が関わったのはもっと後だったに違いない。弱いとされるチーグルを、責任の在り処も吟味せずに擁護した隣の女よりはずっと理に適った弁を述べていた。
焚いた火から少し外れて、去った後姿を思い浮かべる。


「あいつ…」
「あいつって誰だ?」
「ガイ…」


途中、不利になりかけた形勢を持ち直した今回の功労者。時折素っ気ないけれど、音機関や譜業が好きで、ルークが記憶を失ってからも一緒にいてくれた面倒見の良い兄貴分である。屋敷での身分は使用人だが。


「……お前、ずいぶんタイミングよく助けに入ったな」


じろりと睨むと、ガイは肩を竦めて苦笑した。


「それがさ、中に入ってみたはいいんだが誰もいなかったんだ」
「何?」
「誰もいなかったっていうか…いや、明らかに何か閉じ込めてますよーって感じの扉があってよ」
「…開けたのか?」
「溶接されてた」


何だそれは。


「仕方ないから中をうろついてたら、いきなりこっちだって連れてってくれる奴がいてな」
「ほぅ、なかなか面白い話ですね」
「うわっ」


目の前に、いつの間にかマルクト軍人が佇んでた。焚き火の光で縁が輝く眼鏡をゆっくり上げるその顔は、逆光でよく見えない。嫌な目をしている。


「あそこには六神将のほかに彼らの部下と百余名の私の部下がいたはずですが。誰もいなかったと言っていましたね。本当に? 妖獣のアリエッタが使役していた魔物も?」
「あ、ああ。いや、もう息のないものはそのままになっていた」


体が勝手に震える。タルタロス内で、ティア・グランツが歌った眠りの譜歌の効力が切れた敵を貫いた、剣の生々しい感触が甦る。徐々に広がる赤の色と、胸が詰められるような臭気の記憶に、食べたばかりの食事がせり上がる。そっと口元に手を添えたルークを冷たい目で一瞥し、ジェイドはガイへ向き直った。


「その者の特徴は覚えていますか?」
「ん? ああ、そんなに寒くはないのに、黒いコートとフードを着てたなァ」


どこか最近に見たような格好だ。思い切り顔をしかめたルークは、僅かに眉を寄せたジェイドに視線を送る。


「…どう思う」
「何故彼がタルタロスにいたか。何故タルタロスに誰もいなかったのか。何故ガイを案内したのか、ですね」
「ガイがくる寸前まで俺たちは戦闘をしていたのだから、誰もいなかったというのは些か疑問が残る。奴がそれに関係あるのか、結びつけるには尚早だと思うが……なんだその気持ち悪い顔は」
「いえいえ。和平を結ぶ相手国の次期国王殿が、聡明な方で、何よりだと思っただけですよ」


死霊遣いと恐れられる軍人は、得体の知れない何かを内包した目を、うっそりと細める。鳥肌がたった。


「まあ、彼が六神将ならば、そう簡単には引き下がらないでしょうから、またどこかで会えるでしょう」


会いたくはないですがね、と空を僅かに仰ぐジェイドに、吐き気の治まったルークは話の通じていないガイに如何に説明すべきかを考えあぐねてうんざりした。どうも自分は説明が上手くないらしい。
奇しくも彼の言の通り、件の人間にあったのは数日後の話、馬車の荷に隠れて敵に見つかることなく入ったセントビナーから離れる算段をつける中で、未だ検問のように荷馬車を検閲していた兵士の向こうで、塊として集まっていた六神将の後ろでひっそりと佇んでいるのを見つけたときであった。
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