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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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ザックス+クラウド

FF7:真エンディングより


いろいろ捏造。ジェノバ云々とか。
多分続かない。
AC・CCのネタバレあり。


タイトル拝借『狼傷年』

目が覚めた。
清々しいほどの真っ青な空が目の前にある。ついでに言うと、手や背中の下には荒々しい土くれの感触まである。


「……え?」


確か、自分は疾うに死におおせたはずだ。最愛の友人を守り、気になっていたあの子に祈りを捧げ、凶弾に倒れた、はずだった。でなければあの痛みは、最後に正気を取り戻した友人の顔を見て感じたあの安堵は、一体何だったというのだ。
体を起こせば痛みは走らなかった。掌を広げれば血の跡もないし、何よりあれだけソルジャーを死に至らしめたほどたくさんの傷が、ない。
服装はいつもの首が短いタートルネックの半袖に重たい軍靴。ショルダーガードとホルスターがない丸腰のままで、ほとんど生前と変わらぬ格好。何の冗談かと疑ってしまうが、生憎照り付ける太陽の暖かさや風のちょっとした冷たさは本物で、ザックスは肩を落としてうめいた。
これは一体なんなんだ。
そろそろと後ろを振り向けば、ちょうど自分が死んだ場所らしい小高い丘の上で、譲り渡したバスターソードが墓標のように刺さって真っ直ぐ天に伸びている。渡した相手──クラウドが立てかけてくれたのだろう。しかし、武器としては使えないくらい、とんでもなく古びている。その向こうにそびえる天下のミッドガルは………


「そりゃないだろ………」


瓦礫の山と化し、荒れ果て、深緑に包まれ、人の気配がない。遠目からでも栄えていた様子が、見る影もない。しかしあれをミッドガルと納得できる象徴である神羅会社の建物が、やはり倒壊しかけだがそこに佇んでいた。


「マジでか」


応える者はいないが、ザックスはなんとなく現状把握を終えた。夢であって欲しいが、どうやら今はミッドガルが廃れて樹木が立派になれるだけの時が経っているらしい。
ようやく立ち直りかけ、今後の算段をつけようにも全く人気がないあの街に食糧のあてを見出せず、丸腰よりも不得手だが魔法が使えればとマテリアを探しても見つからず、途方に暮れる。


「何でか知らねぇけど、生き返ったのに餓死予定? 冗談じゃねぇっつーの。とりあえず人見つけて……お」


バイクのエンジン音が遠くからやってくる。土煙が乾いた大地に上がっているのも見えた。


「ラッキー! 少なくとも人間が絶滅したとかいうオチはなくなったな」


もっとも、そんな冗句など笑いものにもならないけれど。
ザックスは早々に立ち上がってバスターソードを背中に担いだ。モンスターを叩き潰すのにでも使えるだろう。運良くこちらに向かってくる土煙めがけて、急勾配の斜面をかけおりる。


「すんませーん! ちょーっと聞きたいことがあるんですけどぉー」
「うわっ!」


もうもうとあがる土煙でさぞ視界が悪かっただろうに、いきなりタイヤの頭に人が降ってくるなど予想できなかったに違いない。
車体ごと横倒しになり滑りながら足を軸に勢いを殺しつつのドリフトで何とかザックスを撥ね飛ばさずには済んだらしいが、心臓には悪い。少し離れたところで停車した人間を見やりながら、ザックスは少し驚いた。骨っこい外見のわりに、ずいぶんと強引な荒業をやってのけたものだ。普通の人間がやったなら間違いなく足を折っているだろう。車体と慣性の力に負けずに踏ん張った足の置き場所は、相当の圧力でえぐれている。
落ち着いたのか、えっちらおっちら車体を戻す人間の髪は、多少粉っぽいものの、見事に綺麗な金色だった。だれがしかを思い出して、ちょっと胸が痛む。


「いやぁ、いきなりですんません。普通に止めたんじゃそのまま素通りされそうだったんで…」
「だからと言って猛スピードで走るバイクの上に降ってくるな! 死にたいのか!」


あ、声までそっくり。ちょっと涙出てきそう。
ゴーグルを毟り取った怒りの形相は、ますますクラウドに似て──瞳の色まで魔晄の碧とは、念の入った擬態の仕様──


「…ザックス?」
「え?」


あれ?


嘘つきの最後。
──────────────

 

 

 

フェンリルを駆り、猛然と進むクラウドの後ろに、ザックスはいた。
何でこうなったんだろうと空を見上げるが、土煙のせいで霞がかっているだけで、さっきとそんなに変わらない。
どんな改造を施したのやら、バイクの腹から刀がたくさん飛び出し、肝が冷えあがるドラテクと共に襲いくるモンスターをばったばったと張り倒すクラウドは、自分の知る頃よりも垢抜けはしたものの、まだ自分より小さい。


「なー、クラウドー」
「どうでもいいが、上向いたまま喋ると口の中に砂が入るぞ。あんたはゴーグルしてないんだから、ついでに目と口両方閉じてろ」
「……………はい」


とても男前に育ったみたいだ。お兄さん惚れちゃいそう。
じゃなくて。


「俺さっき目が覚めたんだけどさ、これどういうこと?」
「……………」
「俺生き返ってるし、ミッドガルが緑地公園みたいになってるし、神羅はないみたいだし、クラウドは男前だし」
「……………」
「なんか返事くれよ」
「……わからない」


わりかし深刻そうな声でクラウドは返した。
ちなみにバイクのギアは入れたままで、一度もブレーキなど踏んでいない。こいついつかバイクで事故って死ぬんじゃ、と危惧するザックス。


「神羅は200年前に事実上プレジデントが死んで、いろいろあって解体した。それ以降ミッドガルから徐々に人が流れていき、住む人間もいなくなった」
「は? ちょ、200年前!? じゃあ俺が死んだのって……」
「──今から205年前だな」
「マジかよ…」


205年。人が何世代か営みを繰り返すのに相当する。気が遠くなりそうだ。
だとしたら、何故クラウドはまだ生きているのだろう。魔晄を浴びたとて所詮ソルジャーも人の身。寿命が来れば朽ちる体は変わらない。ならばザックスと同じように生き返ったのだろうか。


「俺の話は別にして、問題はあんただ。正直俺もあんたが何で生き返ったかわからない。例外を除いてライフストリームに溶けた人間が記憶を持ったまま形作るなんて…、」
「え、ライフ…なに?」
「とにかく、それを調べるために行く必要がある」
「行くって、どこに」
「コスモキャニオン」


どこだよそれ。
一人で話し、一人で納得し、一人で押し黙ったクラウドに、これ以上は今聞くべきでないと判断したザックスは、移り変わる景色をぼうっと眺めた。
長いときを挟んだからだろうか、周りのものに現実味が持てない。クラウドも、過去にはもっとわかり易い表情をして、もっと笑っていた。能面のように無表情で突っぱねた拒絶の声音ではなかった。ザックスを認識して、喜ぶよりもまごついた。瞳に戸惑いの色があった。


(もしかして俺、生き返るべきじゃなかったのかなぁ)


自分の意思でないとしても、拾った命は嬉しかった。いろいろ思うこともあるが、それは二の次三の次の話である。クラウドは、そうではないのだろうか。


(なんか、暗くなった?)


神羅にいたときもそれなりに悩みがありそうな顔をしていたが、今みたいに重荷に潰されそうな雰囲気はなかったのに。
自分がいなかった間、何かあったと思うより他ない。
わだかまりを残して、ザックスはクラウドの腰を強く抱いて頭に顎を乗せた。直後、邪魔だと見事な肘鉄が入った。


死ぬのが怖かった、生きるのはしんどかった
──────────────

 

 

 

山間の更に奥、木々を蹴倒し樹木を割り、自然に優しくない運転で山道を登り下りしてそろそろザックスの尻が限界に近付いている頃に、バイクが急停止した。油断したザックスはクラウドの頭に鼻面をしこたまぶつける。


「いってぇ! 何すんだ!」
「…静かだ」
「へ?」
「これぐらいホバリングがうるさいバイクで来たのに、ナナキが来ない」


バイクを隅に寄せ、刀を全て引きずり出してから、クラウドは眉をひそめた。周りを警戒しながらそれらを組み立て、ザックスのバスターソードのような大剣にする。それをザックスに押し付けた。


「それは切れないだろ。あんたはこれを使え」
「お前は?」
「俺は召喚獣とマスターマテリアがある。剣もあることにはあるしな」
「ふうん」


よく使い込まれた刀だ。くるりと回して、バスターソードをバイクの傍に突き立てた。代わりにそれを背中に負う。
轟音が響いた。


「ナナキ!」


叫ぶクラウドを尻目に、ザックスが先行して走る。
そこは小さな村だった。しかし荒らされ、屋根の際を巨鳥が掠める。手負いの赤い獣が、追いすがる。


「ナナキ!」
「クラウド! 子供が一人やられた!」
「お前はみんなを誘導しろ。女子供を囲んで進め! ザックス!」
「ああ!」


獣が口を利いたことに瞠目したが、今はそんな悠長にしていられない。クラウドとナナキと呼ばれる獣と散って、胴だけで小さな家の母屋ほどある鳥を斬りつける。
死ぬ寸前も混戦だったが、生き返ってからすぐ刀を振るうとは思わなかった。こんな混戦で魔法を連発してやしないだろうなと目に入ったクラウドを見れば、いつの間にか刃がガラスか何かでできた刀を握っていた。闘気というよりも寧ろ鬼気すら纏い、鳥を叩き伏せるその背中に彼の英雄がちらついた。
粗方片付き、ナナキも戻ってきた。何でも、最近根城を近くに構えてきたものらしい。怪我人にケアルの大盤振る舞いをするクラウドの背を見ながら、ザックスはナナキの鬣を撫でつけた。


「なあ」
「なに」
「クラウドの背中、血だらけなんだけど」
「大丈夫だよ。もう塞がってると思うから」
「塞がってる?」


ザックスが眉を寄せると、のそりと立ち上がって歩き出したナナキがこちらを向いて頷いた(つくづく人間らしい仕草をするものだ)。


「あれ、クラウドから聞いてないの?」


今度はナナキが眉を寄せた。
聞くも何も、俺は別にして、と明らかに話題を摩り替えた(?)のは当の本人だ。
オイラが話すことじゃないよと意外にひょうきんな一人称のナナキは、行方不明者の確認に走る。
入れ替わるようにして、クラウドが歩いてきた。その足取りは怪我人とは思えないほどしっかりしている。仕方ないので、不意打ちで服を剥いでみた。
傷を、既に薄皮が覆っている。まだ皮を透けて見える傷は、ザックスが見ているうちに肉が盛り上がり、埋めていく。


「なに、これ」
「ジェノバ細胞。知らないか? 魔晄照射された奴はみんな、知らない内に注入されてるらしいんだが」
「え、じゃあ俺も?」
「多分な。宿主に命の危険があれば、宿主の精神を食い尽してでも回復する。ソルジャーの凡人ずれした体の仕組みも、セフィロスがおかしくなったのもジェノバのせいだ」


思わぬところで思わぬ名前が出てきたため、ザックスは言葉が詰まった。クラウドは不機嫌そうにしている。


「ザックスが死んで五年後、セフィロスが今のあんたと同じように復活したんだ。やっと苦労して倒したのに、その二年後にも出てくるし」


クラウドの話をかい摘めば、ジェノバの狂気に晒され、世界に絶望し、復讐しようとしたらしい。言葉だけを取るならば、アンジールやジェネシスと同じだ。あれも片側の背中に翼が生えたそうだ。
となると、少なくとも二回はあの英雄を退けたのか。それは逞しくなるはずだ。


「それに俺も死ねなくなった」
「え、」
「何度か致命傷を負ったりしてみても駄目だった。21歳の体の細胞を、ジェノバがコピーし続けるせいで年も取れない。細胞のほとんどが、もうジェノバの細胞だろうな」
「狂いそうか?」
「まさか。こんなことで狂えるなら、とっくにそうなってる」


クラウドはようやく笑った。ニヒルにではあるが。
馬鹿な遺言染みた言葉の通り、クラウドは二人分の生を過ごして余りある時間に流されてきたのだ。知り合いの全てがいずれも己より早く死に絶え、朽ちるのを見る気持ちは一体どんなだろう。
今は俺がいるとは、迂濶に言えない。一度死んだ身だし、ジェノバがこの身にいるともしれないのに、軽々しく口になど、できない。
安易な期待はさせないでくれと、その背中が静かに語っていた。


救ってほしかったなんて言えるわけない

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