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- Date:2024年11月27日
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ジャンル無差別乱発
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DFF:現代パロ5+7+8
「終わりの幕間から愛を込めて」「今はまだ子供のままで」と同設定。
精神的に弱くて共倒れしそうな二人と傍観するしかなかった少年。
title thanx:Aコース
ふと、何とはなしに目を向けた公園。雨上がりのせいか人はおらず、冷たく湿った空気が這う新春の午前中、その日のスコールは試験期間で学校が早く終わり、図書館で勉強しようとしていたところへそこを通りかかった。
区内の図書館は手狭で蔵書の数も少ないせいか、人があまり留まることはない。しかし勉強に疲れて息抜きするのに眺める景色はなかなか良くて、長時間居座るのには向いているため、一人で勉強するときはそこを利用していたのである。騒がしい友人とは、来れないだろう。
その公園は、小さな商店が建ち並ぶ道の間にひっそりとあった。遊具は一台のブランコや滑り台、それとスコールより頭二つ分ほど高いジャングルジムと幅の狭いベンチだけ。子供が遊ぶにしたって少々物足りないと感じるに違いない、本当に小さな公園だった。けれどスコールはそこに懐旧を覚えて立ち止まったわけではない。見知った人間が、手持ち無沙汰に暇を持て余している様子で、ベンチに座っていたのだ。
スーツ姿の彼は脇に白い箱を置いてぼうっとしていた。白い箱は見た目にも頑丈な紙の箱らしく、どうやらそれには洋菓子を入れてあるようだ。荷物はそれだけで、だというのにスコールより小柄なはずの彼と併せて、もうベンチにスペースはない。
おかしいな、とスコールは思う。彼とは一応顔見知り以上の関係だが、彼は確かどこかの企業に勤めていると聞いた。只今の時刻は十時半。昼休みには早すぎる。スーツを着ているくせに公園で時間を潰すその様は、解雇を家族にひた隠しするサラリーマンのようだった。しかし、何度も腕のごつい時計を確認しているのを見れば、それも見当違いだとわかる。でばがめの趣味はないが、何故だか気になったスコールは、ベンチの後ろの木陰にそっと身を寄せた。
彼は今一度時計をあらため、ため息を吐くようにして肩を落としている。うっかり盗み見しようとしている自分に恥じたスコールが声をかけようとした頃、彼の待ち人はきた。
「クラウドー!」
待ち人は、茶髪を短く刈った男だった。背は、およそスコールの友人と同じほど。クラウドと呼ばれた、スコールの知り合いよりほんの僅かに高い。
待ち人が男だと知って、スコールは俄かにぎくりとした。
スコールの友人はクラウドを好いている。電車で何度か乗り合わせて顔を覚え、今まで見たことがないくらい必死に根回しをして、何とか都合が合う日は一緒に遊ぶまで親密さを発展させたほど、熱烈に。
自分も相手も男だからと悩む段階を疾うに過ぎたらしい友人の相談を何とはなしに繰り返し聞いているうちに、付き合ってやっていたスコールまでクラウドを注視するようになったのだ。クラウドはまだ会社に勤め始めて二年目のひよっこで、数少ない休みはたいてい寝て過ごすタイプのようだ。たまにストレスが溜まると自慢の大型バイクで遠出をすると言っていた。けれど、高校や大学の付き合いはそれとなく話題を逸らし、決して口にしようとしないのに、友人もスコールも気づいていることを彼は知っているだろうか。
クラウドは駆けてきた男を迎えんとベンチから立ち上がり、悠然と構えた。男はクラウドに駆け寄り、一度躊躇いを見せて、手を伸ばす。
がっしと抱き合ったその二人にショックを感じたのは、スコールだ。彼女らしい女性と会っているわけではないのに、何故か胸騒ぎが止まない。友愛を感じさせるしっかりした抱擁ではなく、互いにすがるようにしなだれかかっているからだろうか。クラウドが、長い間焦がれていたかのように眉根を寄せて、切なそうに顔を歪めているからだろうか。まるでクラウドの恋愛対象が、女性に限らないと見せつけられているようだった。
しばらく抱き寄せていた手を男は放して、人懐っこい、しかしクラウドと同じく何かを惜しむみたいな目で笑った。
「久しぶりだな」
クラウドも頷き返す。
「ああ、久しぶり」
「就職したんだってな。おめでとう」
「もう二年目だ馬鹿。あんたも、今就活なんだって?」
「ああ、もう履歴書とか自己アピールとか、面倒くさいよ」
旧友と交わす会話にしては、ごくごく一般的な言葉。けれど、二人はどこかぎこちない。
男はクラウドを窺うように上目で見やり、おずおずと口を開く。
「香水…変えた?」
「あ、ん…ああ」
スコールは見た。クラウドの眉が、頬が、強張った。
男はそのままクラウドの首筋に鼻を近づけて言う。
「戻さないの?」
「あれは、…そうだな。戻さない」
「何で?」
「何でって…」
「俺、あれがいいな。クラウドの匂い、あれがいい」
「おい…」
「やだよ。この間実家に帰ったんだけどさ、いつの間にかボコの奴、死んじゃっててさ、……やだ、やだよ、お前もいなくなるのか、クラウド」
会話の雲行きが急に怪しくなった。男はクラウドの首筋にかじりつき、取り縋っている。今にも崩れそうな声音でやだやだとぶつぶつ呟きだした男が、卒然として病の臭いを醸し始めた。一線を越えたら、あっという間にクラウドの首をくびりそうなほどのほの暗い雰囲気に、出ていくべきだろうかと迷うスコールの意識を再び引きつけるがごとく、クラウドの静かな声が響く。
「その鳥に、お別れは言えたか?」
「…ん」
「そうか、偉いなバッツ」
「…」
抱きつく男の腰を叩くクラウドから、不満顔の男が頭をもたげる。まるで拗ねた子供のようだ。
「あしらうのが、上手くなったな」
「必要になったからな」
スコールの脳裏には、構われたがる犬のように、彼にじゃれつく友人が思い浮かんだ。男の方も、クラウドが自分の及ばない交友関係を持っているのだと悟ったらしい。時間の流れに嫉妬したって、どうしようもないことはわかっているようだけれど。
むっとした顔のまま、男はクラウドを見ている。クラウドは、ベンチに置いていた白い箱を男に差し出した。
「ほら、土産だ。社内食堂のだけど」
「ケーキ?」
「いや、エクレアだよ。美味いって評判なんだぞ」
小さいけどな、と微笑むクラウドは、スコールが見たことのないほど穏やかな顔をしている。恐らく、こんな表情はスコールの友人も見たことがないに違いない。
けれど、スコールは、あんなに脆い雰囲気の男を立ち直らせたクラウドの空気が、ほんの少し男の纏う病的なものと似通っていたのが気にかかった。男の顔が襟刳りに近づいたときは怯えすら見せたのに、男の逼迫した言葉には、何の動揺もしなかったクラウドが。
「どうせ就活で疲れたときはすぐ寝付くんだろ。たまには甘いものでも食べたらどうだ?」
「さーんきゅ。でも、これからどっか食いに行かねえかって、誘おうとしたんだけどさ」
「馬鹿か。俺は今から会社だ。今日は昼からの予定」
「俺のために予定空けてくれたわけ?」
「はっ、」
どう見たって一笑されたのに、男は自分の都合が良いように捉えることにしたらしい。ありがとなーとクラウドの肩を抱く男は、会ったばかりのときのぎこちなさなどすっかりなくなってしまっている。
「じゃあ遊びに行けないのかー」
「またの機会にな」
「俺クラウドのアドレス知らないんだけど? 携帯は? セシルもクラウドの番号知らないって、悲しそうにしてたぞ」
「あ…そういえば一昨年壊れて、新しいのに変えたんだ。今は会社用のしか持ってない」
「ちぇ、俺の携帯も、セシルに取り上げられたまんま。きっと忘れてんだぜ、セシルの奴」
病院じゃ携帯使うなってよー、と唇を尖らせる男の言葉にスコールが首を傾げている間も、クラウドはそっと視線を逸らしながらも当たり前だろと続ける。その後ろめたげなクラウドの様子に、またもほの暗い雰囲気を察したスコールは、いよいよ我慢ができなくなって木陰から飛び出そうかとあぐねていたが、相手の男は、さも興味が失せたというように、クラウドに背を向けた。
「まあいいや。セシルに会ったらまた聞いてみる。もし都合がついたら遊ぼうな。じゃまた、クラウド」
「ああ」
歩きだした男に手を振るクラウドは、真っ直ぐ立っているように見えるのに、とても危うげだった。こんな状態の彼をそのまま捨て置くには冷ややかではないスコールは、男が最初の街角を曲がって姿が見えなくなるのを待って、木陰から走り寄った。
「クラウド!」
スコールが声をかけるとクラウドは肩を竦ませ、こちらを振り向いて眉をしかめた。
「スコール…? お前、学校は」
「ティーダに聞かなかったのか。今は試験期間中で、俺もティーダも学校は早く終わる」
「…あ、あ…なんか、聞いた気もするな…」
些かぼんやりしたいらえだったが、スコールは、友人の 「クラウドったら、しばらく試験で会えないって何度言っても上の空ッス」 とのぼやきをいくらか聞かされたのだ。人の話をひとまずは必ず聞くクラウドのこんな曖昧な返事は、普段の彼らしくない。
夢心地な様子のクラウドの気を何とか引きたくて、スコールは静かに、力強くクラウドの名を呼ぶ。
「大丈夫か、クラウド」
「ああ……ああ、心配するな。ちょっと疲れただけだから………」
スコールから目をそらし、ゆるゆると首を振るクラウドは、本当に疲れたように悄然とした様子で瞬きを繰り返して、万感の思いがこもっていそうなため息を、深く、重く吐き出した。