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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

ウロボロスの輪

DMC:ネロくんのはじめましてシリーズ


ギルバVer.
グロ注意。
気が向いたら増える。
鏡に映りこんだようにそっくりな、癖のない銀髪を下ろした子供が二人、遠くも近くもない中途半端な距離を保ちながら並んでいた。どちらも柔らかそうな銀の髪に藍青の眸は、最近知り合った中年に似ているが、ひどく不安定で冷たい目をしている。


お前ら、なにしてる。


床も天井も壁もない暗闇の中で、自分と同じく色素が白と青しかない子供は、あぶれたように浮いている。
子供は自分を無視し、そして向かい合って互いの首を絞め始めた。圧迫された首はみるみるうちにむくみ、死相がその白い顔をじわじわと蝕む。やめろという声は、出なかった。
ぎりぎり、ぎりぎりと首の骨がしなる音が間近に聞こえる。見ている間に、とうとう首が折れた。


ぼくり、


折れた首は頭の重みに耐えられず、首の皮を引き裂いてゆっくりもげてゆく。びきっ、みち、と嫌な音を立てて首が落ちた。転がる首を手に持ったのは、あの中年だった。からかうような笑みはなく、知らない人間のように見えた。
彼は首を拾い上げて眼のあたりまで持ち上げ、矯めつ眇めつして、静かにその額にキスを落とす。
夢は醒めた。









むなくその悪い夢がどうにも頭から離れないまま、ネロはダンテと買い物に出ていた。
朝日の中で見たダンテは相変わらず陽気な鬚面で、しかし夢はあくまで夢なのだと割り切るには、あれは些か度が過ぎた。暗澹とする胸のしこりを抱いたまま、ネロはからかってくるダンテ(それが彼なりの気遣いだと、残念ながらネロは知らない)におざなりな返事をして、さっさと事務所に続く扉を開ける。
真正面に構えるマホガニーの文机と使い古された椅子には、家主ではない人物が座っていた。


―?


頭頂部から爪の先まで包帯でかたく巻かれている異様な格好と包帯の合間から覗く理知的な鋭すぎる目は、いくら奇抜な悪魔を見慣れているネロでも少し腰が引けた。足を机の上に乗せて行儀悪く椅子にもたれているダンテとは別にして、どこか気品すら感じさせるしぐさで優雅に痩身の足と長い指を組んで、扉で立ち往生しているネロを見た。


「奴の子供…ではないな。あいつにそんな甲斐性があるとは思えん。しかし血縁がいるとは聞いたことがないが」
「……」


偶然とは思えないほど特徴が合致していると自覚のあるネロは、しかしダンテとの血のつながりを感じたくない。


「ネロ? 立ち止まられちゃ俺が入れないんだが…これは新手の反抗期か?」


後ろでダンテの声がすると、包帯男は笑みを浮かべた。


「ひさしぶりだな『トニー』」


ネロを押しのけて入ったダンテが、包帯男を見てかたまる。


「………ギルバ…」
「会いたかったよ、おれを殺した男」


目を見開いて先刻のネロと同じく戸口で立ち竦んでいるダンテに、ギルバと呼ばれた男は深く笑み、ネロはそれに眉を寄せた。
本名と違う名前で反応したダンテ。ダンテに殺されたらしいのに目の前にいる男。
ネロと知りあう前の、ダンテが刻んできた時の流れを感じさせられる。



「フォウトゥナに行ったらしいな」
「今回は出てこないと思ったら、重役出勤か。時間にルーズなんて珍しいな」
「おっさん、こいつ、誰」


腕がわずかに鳴る。人間ではない。トリッシュも人工的に造られたとはいえ、悪魔である。彼もそのたぐいだろうか。
警戒するネロに今気づいたとばかりのダンテは少し気が抜けたように笑った。


「坊やは知らねえな。こいつはギルバっつって元は俺の相棒だったやつだ。ギルバ、こいつはネロ。フォルトゥナ出身で愛しの嬢ちゃん故郷に残してきた憎いやつさ」
「き、キリエはそんなんじゃねえ!」


彼女は家族だ。孤児だった己を彼女の兄と共に慈しんで育ててくれたひと。


「…スパーダの家系か?」
「さあな。単純だからたらしこむなよ」
「ふん。見たところお前より腕が立たんようだ。お前の寝首を掻かせることもできんだろうな」
「あ、ん、た、ら……!」


ダンテはともかく、初対面の者にまでとやかく貶められる謂れはない。言っていることは尤もだが、自覚があるぶん他から再度指摘されるのは我慢ならなかった。


「それで? 地獄まで行ったアンタが今更何の用だ? またぞろパーフェクトアミュレットでも欲しがるのか?」
「だとしたらどうする。俺はまだ力を欲することを諦めたわけではない」


――力。
キリエを守れなかった無力感と虚無感の中で、ネロが歯を食い縛りばがら欲したもの。
力があればクレドを死なせることもなかった。
力があればキリエを守り通せた。
力があれば。
ダンテの元にきてしばらく経って、遊ぶように悪魔を斃してゆくダンテの背を追いかけることしかできなかったと半ば口癖のようになっていたネロに、珍しくダンテは顔をゆがめて言った。


『欲しがるだけじゃお子様と同じだぜ坊や。力をどう使うか、いるのはそれを考える頭だろ』


頭が冷えるようだった。


「なに、このあたりもだいぶ変わったようだからな。まさかお前が事務所を持つとは思わなかった。いち賞金稼ぎだったお前が、」
「昔とそんなに変わらねえさ。気に入らない仕事は蹴る」
「扶養者がそれではこのガキも苦労を強いられることだろうな」


ふと、ネロに視線をうつしたギルバの目が、ネロの右手に止まった。
気がついたらあった悪魔の右腕。力を渇望する声はいつもここから聞こえる。
少し呆然とsていたギルバは、ネロの右腕を見て言った。


「閻魔刀…」


右腕から何かが引きずり出される形容しがたい感覚にネロの背中が粟立ったときには、緩やかな曲線が美しいフォルムの日本刀が顕現していた。ギルバの呼びかけに、刀が反応したのである。
手を伸ばせばそこが定位置だとばかりにそこへ納まった刀に、今度はネロの方が呆然とした。


「…ダンテ」
「お、トニー呼ばわりは満足か?」
「なぜこれがここにある」
「ああ、何でも、ア、ア、アゴナス? とかアンタと同じくスパーダの力がどうのとか言ってた連中その一派が研究してたのを、坊やの右腕が取り込んだんだとさ」


家族の形見だとネロに渡すのを渋っていたわりに、何やら彼に対する刀の認識がぞんざいだ。


「…おっさん」
「あ?」
「トニーって…」
「偽名だ。一時期仕事で使ってた、な」
「ダンテ」
「なんだよどいつもこいつも」
「興が削がれた。今日はひきあげる」
「そうか。地獄にいる俺嫌いの連中に、いつでも遊んでやるぜと言っておいてくれ。最近暇なんだ」
「知るか」


ギルバは刀をネロに投げ渡し、さっさと出ていった。
ネロは、やっと出ていきやがったと大義そうに椅子に座るダンテを見る。


「いいのか?」


ダンテの家族の形見であるという刀がギルバに呼応した。ダンテが彼を元相棒だと言っていたけれど、彼がダンテを「トニー」と呼ばなくなってから、少し相好が崩れたのにネロは気づいている。
ギルバがなぜダンテの前に現れたのかは知らないが、何となくネロは、ギルバが誰かを理解した。
ダンテは笑う。


「いいさ。せいぜい俺の暇つぶしに一役買ってくれればな」


その笑顔がやけに物悲しく見え、ネロは夢に見たダンテを思い出した。
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