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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

誰のためにも死にたくない

TOA:逆行ルク


本編(崩落編)
アニス視点
シェリダンにて。


いろいろおかしいのはスルーの方向で。
睨みあうキムラスカ軍から目をそらすこともできず、しかしこのままでは大地そのものが沈んでしまうという板挟みに二進も三進も行かなくなってしまったセントビナーを救うため、アルビオールという音機関を借り受けにシェリダンへ赴いた一向は、そこで見知った後姿を見つけた。


「アッシュ…それにディストも?」


穏やかそうな男女(の内、男の方は松葉杖をついていた)の傍らに、服こそこの街に見合うものになっているが、相も変わらず顔を遮る仮面をつけている青年がいる。


「私のカイザーディストがあの老人たちに分解された!? わ、私の最高傑作に何ということをっ!」
「俺が許可した。ノエルの方は後から材料がくるとして、ギンジさんの方の修理は早い方がいい」
「あなた! こうなることわかってましたね!」
「音機関の町に興味を持ったのはお前だろう。この譜業バカ」
「きぃぃいいいっ! 復讐日記に書いてやりますからねっ!」


すでに鉄屑にされてしまっているであろう、自らのかわいい作品を救出せんと、ディストは痩身に似合わない敏速さで駆けてゆく。それを兄妹は微笑ましげに見送った。


「ディストさんもアッシュさんも、もうこの街になじんでますね」
「そうか」
「おじいちゃんたちも、アッシュさんたちのことを気に入ってますよ。おじいちゃん頑固ですけど、ディストさんのこと、骨のある奴って言ってましたし」
「アッシュさんはオイラの命の恩人っすから」
「…助けられて良かった」


柔らかい声に、アニスたちはぎくりとなる。
ヴァンに従っている六神将は、世界が混乱すると知って外郭大地を崩壊させようとしている。それと同じ括りに入る彼らもそうだと、どこかで思い込んでいた。
彼らが、人に親切をすることなどないと。


「それじゃ、荷物は俺が運んどくから。ノエルはゆっくりでいいから、ギンジさんを支えてやってくれ」
「はい、ありがとうございます」


青年の、ともすれば気圧されそうな無表情にも惜しみなく笑顔を向けて、二人はゆっくり歩き出した。その背をしばし見送って、青年は立ち尽くすアニスたちに目を向ける。


「六神将ともあろう方がこんなところで慈善活動ですか。暢気なものですねえ」
「……………」
「あなたには聞きたいことがあります。お互い、街中で騒ぎなど起こしたくないでしょう?ご同行、願えますね?」


うわ、えげつない。アニスが呟き、青年は町人の歩く猥雑な街道をぐるりと見回し、両手に抱える工具箱やらの荷物を揺らす。


「少し待ってろ。これを置いてくる」
「逃げる気?」


ティアのきつい言葉に青年は剣呑な雰囲気を滲ませ、一行を見る。


「貴様ら自分の格好を顧みろ。キムラスカの王族とマルクト軍人が共にいるだと? この街はまだ戦端が開かれたばかりで目をつけられていないんだ。この街の人間をさらに不安にさせる気か」


耳の痛い言及に、ルークやナタリア、ジェイドは厳しい顔つきながらも沈黙する。しかしティアは手を緩めない。


「じゃああなたはどうなの」
「俺は個人的にここを訪れている。お前らのように、軍服なり何なり、身を明かすようなものは身につけていない」


ジェイドは仕方なさげにため息を吐く。


「ならば、アニスを随行させてくれませんか」
「えっ、あたしですかぁ?」
「ええ。アニスならば、立ち振る舞いでわかるナタリアや、音機関で我を忘れそうなガイ、ダアトのどこの所属かわからないティアよりは町の人を不安にさせることもない。いかがです?」
「好きにしろ」


アニスはジェイドに蹴りだされるようにして、こちらを一顧だにしない青年の背中を追う。振り向いたアニスは、何食わぬ顔で手を振るジェイドにむかっ腹を立てながら、トクナガに手をかけた。
町の人間は、顔も見せないこんな怪しい輩が街道を闊歩しているにも関わらず、怪訝にしてる様子もない。相当慣れているのだろう。
そこまで思ってアニスはうんざりした。いっそ言質をとられてもいいと思うほどに。


「ねえねえアンタさ、」
「……」
「あたしがモースに密書を送ってるの知ってるでしょ」
「……」
「パパやママを、マルクトに引き留めてるって、皇帝陛下から聞いたよ。それって、あたしがパパやママを人質に取られてるってこと、知ってたからでしょ」
「……」
「…なんか言いなよ」
「ここで待ってろ」


そう言って、青年は工房へ入って行った。
そういうことが聞きたいのではないのだと、アニスは頬を膨らませた。
彼はアニスの弱みを握っている。それもとびきりの。モースと同じように脅すことも、他の者に広めてアニスの身を破滅させることもできる。彼はアニスの首に易々と手をかけることが可能なのだ。
アクゼリュスが崩落した後に渡された手紙に、両親からしばらくグランコクマで布教しに王宮周辺で滞在するとあった。後見として、青年の名も。状況は前と変わらないのに、しかしアニスは何か切迫したものとは別に、何の要求も強いる気配もない青年に不気味な印象を感じた。敵か味方か以前に、アニスは彼は苦手だった。
青年が出てくる。いつも手にあった刀は、今度もない。


「……これは俺の独り言なんだけど」
「なによ」
「手紙は誇張や捏造があってもわからない。タルタロスのことは、利用できるから助けただけだ。俺は無駄なことが嫌いだからな」
「……」
「さっきの二人も、アルビオールの乗り手と知ったから恩を売った。それだけだ」
「……」
「…イオンを慕ってくれてありがとう。これからも、あいつの傍にいてやれ」
「それは、元補佐役だから言うの?」


青年の歩みが鈍る。真意のわからない細面よりも如実な気がして、アニスは密やかに呼気を吐いた。
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