うたう虫 Category:SS Date:2009年01月17日 ↓のネタで小話 『駄目。壊れて』肩の辺りで輝く甲虫。何もかもが凍ってゆく。恐れる人、人、また人。『ああ、ルーク様は化け物になってしまわれた…』ルークは悲鳴をあげた。刀を合わせ、互いの顔がはっきりわかるほど接近して、相手が目を見開いた。むべなるかな、相手と己は同じ顔だ。この世に似た人間はあれど、同じ顔などまず有り得ない。だけれど、相手はコピーだから。自分の情報を元に作られたコピーだから。ふらり、とルークの足元があぶなかっかしく揺れる。目の焦点が、合っていない。どうしたものかとルークを見たが、ルークはそのままふらふらと後退って刀を取り落とした。落とした刀に目もくれず、掻き毟るように顔の横に手を添え、そしてガイが後ろで叫んだ。「にげ、」「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」雨滴が雪になり、雹になる。譜術の類ではない。これは純粋な水の変化。見ると、ルークの肩には銀色の固いフォルムの尻から口にかけて氷りづいた、歪な円を象るムシ…瞳孔もない目が鈍く赤く光っている。強い吹雪が吹き荒れた。「お前…」ムシツキか。ルークの肩が震える。今まで散々化け物だの奇病だのと言われていたのだろう。ムシツキは押し並べてそうだ。かくいうアッシュ自身も。『来ないで…怖い…』ムシが小さな声で言った。ああ、ムシまでもがひどく臆病な。アッシュの裡にあった恨み辛みは嘘のように消えていた。あるのは憐憫と同族意識による小さな喜びだけだった。 PR