[PR]
- Category:
- Date:2024年11月23日
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ジャンル無差別乱発
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
女の子は砂糖菓子でできている
イオンが死んでしまってから、寂しさを紛らわす何かを、アニスはずっと待っていたに違いない。
思い出の多くつまったこの服を、脱ぎ捨てたくてたまらなかった。けれども衝動で服を火にくべるには、その思い出がとても甘やかで大切すぎて、いつも一歩のところで腕は止まる。
多分、苦しかったときの方が多かった。イオンといてもなけなしの良心が削れて血を流しながら悲鳴をあげるのがひどく辛くて、けれど脅されて共にいるだけではない楽しさも徐々に生まれて、すわ両親と天秤にかけるなんてことが、だんだん苦しくなった。
助けて、と言えたら良かったのに。
それと似たような雄叫びをルークがあげているのに気づいたのは、恐らくアニスが一番最初だったろう。鉱山の街が崩れ落ちたときにアニスが手酷く当たったのは、無意識の内に彼の慟哭を聞きわけたからなのだとしたら、ずいぶんと虫の良い断罪だったと今では思う。
まるで子供のように(事実彼はアニスよりも子供だった)周りを顧みず、騒ぎ不満を漏らしていた彼を、頼る者のいなかったアニスは、きっと知らず羨んでいた。何も不自由がないように見えた、独り善がりなアニスの幼稚な嫉妬。
髪を切って、苦悩しながらしがらみから脱け出そうとする彼を、ああいいなぁ、とアニスは思った。アニスはどちらも選べず、結局しがらみからぬけることなく大切な片方を喪ったのだから。
それでも再び彼を妬む羽目にならなかったのは、ひとえに、彼がどれだけ苦しんでいたかを知っていたから。身勝手で中途半端な我が儘のせいで、彼よりも責められて当たり前な結果を残したアニスを、それと知りながら頭を撫でてくれたからである。
けれどアニスは、無器用すぎる彼の優しさに報いる方法を、知らなかった。苦しんでいる彼を癒す方法を、知らなかった。レプリカだからと生まれたばかりの彼の胞輩が差別されるのを、黙って見ている傍らで、彼が音もなく傷ついていたことを知っていたにも関わらず、だ。
ルークはどうして優しくしてくれるの?
尋ねたアニスにルークは苦笑いを落として言った。
俺は優しくなんてないよ。
嘘ばかり。
アニスは思ったが、口にはしなかった。すぐ表情に出る彼と違って、ポーカーフェイスも崩れていなかったに違いない。
きっと彼は、優しいという意味を履き違えている。優しくできる人間は、絶対に間違えないと、無意識に考えている。優しいとは言えなかった自分は間違えたから、だから大勢の人間を巻き込んでしまったと、苦悩しているのだ。
それを肌で感じながら、アニスはいつも彼に笑いかけていた。彼のささやかな気遣いにアニスが救われ、アニスの笑顔に彼が救われるのなら、これくらいのコケティッシュを演じるのだって、全く構いやしなかった。
だから早くかえってきてと、アニスは今日も小さな空虚を抱えるのである。