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- Date:2024年11月23日
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ジャンル無差別乱発
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まどろむように生きてきた。
神羅が名残すら残さず消え去り、己を知る者がただ一人を除いて命の廻りに溶け、流動した大陸の形が変わり、およそ神話と呼ばれるようになる出来事が起きて、そして人は魔法を使わず、科学と疑似魔法の発展で栄え始めた。魔女というファンタスティックなカテゴリが人々の口に昇り、畏れられだしたのを知り、失笑したのを覚えている。
生まれ変わったかつての知り合いを探すのを、とてつもない不毛さだとは、長い間気付かなかった。記憶に己の姿がなければ意味がないのに、町に行けばせわしなく目を動かしていた気がする。目の前で何もできずに見殺しにしてしまったあの男によく似た子供を見つけるまで、ずっと探していた。『同じ』と『似ている』の違いを、物理的な衝撃すら伴って思い知らされるまで。
恒久に等しい長い時間に発狂したくて、けれどそうした類のしこりを胸から解放しようとするたびに、体の奥がざわめいてそれを押し留める。体質のせいで、もう、簡単に狂えもしない。そのとき感じた絶望は、今までのものとは違い、えも言われぬほどだった。
さびしい。とてもさみしい。
打ち明ける相手がいなくて、ならばこれこそ罪の償いなのだとしたら、悪夢に浸りたがるあの男は手を叩いて喜びそうだ(実際その手の感情を剥き出しにするところを、一度だって見たことがないのだけれども)。
先立つものは生きていく上でどうしたっているから(それが延々と続くなんて馬鹿らしすぎるが、緩やかに餓死するつもりもなかった)、偶発的にできた魔晄泉の傍に居住まいを手配し、運び屋を始めた(後に、魔晄泉の影響で、地図上にない大きな森ができてしまった)。何でも屋でなかったのは、どこぞの誰かが残した言葉が怖いからだ。
仕事に慣れて、その内に行く先々で戦災孤児を連れて帰り、共に暮らし出した。眠っていたヴィンセントも引きずり出して、である。名も知らぬ、わけあって空の他人に陣取られた哀れな棺桶の蓋を開けてヴィンセントを連れ出したときの彼の顔は、本当に傑作だった。いっそ秀逸すぎるくらい。
家も改築して(もうひとつ家を無理矢理くっつけた歪な外装になった)、そこに十幾人かの子供と暮らすのは、忙しくてとても楽しかった。子供を宿せない身の上で子供を望む女の気持ちもわかるように思う。誰かの棺桶をそのまま持ち込んでしまったが、例えば怖がりやではない子供たちに引きずり出されたとしても、ヴィンセントもそこそこ外に出るようになったのが嬉しかった。
「なあヴィンセント」
「ん」
「そろそろ、忘れても、いい、だろうか…」
「………それはお前次第だ」
「そうか……」
それが何よりの赦しの言葉に聞こえた己は、どこまでもずるく浅ましい男だろう。
けれど星はずいぶんと勝手で、己が星のために生きている(生かされている)ことを薄々察しづけば、また、心中はそこはかとなく憤然と荒れたが。
サイファーはあれから、今までついてきてくれた二人と共に、各地を転々としていた。
敵に回したガーデンに今更おめおめと帰るほど厚かましくはないし、向こうだっていい迷惑だろう。魔女の騎士としてかつての幼馴染みに剣を向けたことは後悔していないが、顔を合わせることに躊躇がないと言えば嘘になる。あそこは昔も今も、己にとって居心地が悪いのだ。
水と簡易食糧を買い求めに近くの町まで行くと、そこには、町の規模にしては大きな教会があった。神に何かを打ち明けるほど信心深くはない。況してや、神がいるとも思ってもいない。サイファーが引っ掛かったのは、その戸口で子供たちを連れた修道女が、切羽詰まった顔で外套を頭まで引き上げた誰かに銭札を渡していたからだ。人買いだとするなら金の流れは逆のはずだろう。
外套姿は金を勘定したあと、何もせずに去っていった。
まあ、いい。
サイファーは思った。自分には関係のないことだ。
届いた電報を見て、クラウドは眉を寄せた。それを見咎めたヴィンセントが問う。
「何かあったのか」
見れば遊んでいた子供たちも、その手を止めてクラウドを見ていた。少しばかりの無茶を無茶と思わない節がクラウドにあることを知っている子供の中には、心配げにクラウドを窺っているものもいた。
クラウドはため息を吐く。
「依頼だ」
↑↓
シドから呼び出しを受けたスコールは、イデアから渡された依頼内容の概要を簡単にまとめた書類を見て、眉を寄せた。
問題のある場所が、ちょうどエスタとガルバディアの勢力の中間点だったからである。
「事の真偽を確かめ、こちらに報告した後に、次の指令まで、そちらで待機していてください」
「ずいぶんと慎重ですが、緊急ではないのですか?」
「緊急、ですが、それ以前に波風を立たせてしまえばエスタとガルバディアの正面衝突が勃発しかねません。今、ガルバディアには大統領が長らく不在のため、主だった政治思想がなく、内部の勢力競争が激化している最中です。過激派思想の者たちが先走る隙を与えないよう、慎重に構える必要があります」
「……わかりました。もしものときを考慮し、アーヴァインとセルフィとゼルを残します。こちらはキスティスを」
「ええ…よろしくお願いしますね」
「了解しました」
昼時とあってか、食堂は混雑していた。しかし、探し人を探すのにはちょうど都合が良かった。
一角を占めて椅子に座る彼らに近づく。
「あ、スコールはんちょ、呼び出しあったんでしょ? あたし、メンバー?」
「いや、今回は少々勝手が違うようだ。隠密を優先するため、同行はキスティスだけに絞るが…」
難しい顔で黙り込むスコールに、パスタを巻いていた指を止め、キスティスは首を傾げた。セルフィもアーヴァインもTボートを足でいじっていたゼルも、怪訝そうな顔をする。
「どうかしたのか?」
「ああ……今回の任務は、下手をすればエスタとガルバディアの国交を潰し、ガーデンの存続に関わるかもしれない。万が一のために、戦力は温存させておきたいんだ」
声を落として囁くスコールに、キスティスやゼルが苦々しい渋面を作る。
「なに、そんなに難易度高い任務なの?」
「そういうわけではないんだが……話はまた後で、どこか部屋を使って話す」
「あーあ、珍しくみんな揃ってたのにねぇ」
セルフィやアーヴァインの残念そうな声に、スコールは肩をすくめただけだった。
サイファーたちは、またもこの町にやってきていた。
エスタやF.H.にはSeeDが多くいるし、ガルバディアの軍部には、魔女の騎士として活動していたサイファーたちの顔を知られている。彼らの目をすり抜けるのもなかなか苦労物で、その点この町は二大勢力のどちらに偏っているでもない。自治区として町ひとつで成り立っているわけではないが、それでも後ろ指を指されるのを厭う、事情のある人間はそれなりに多かった。
サイファーが再び教会の傍を通りかかったのは全くの偶然だったが、教会の前では何故かまた、似たような光景があった。
砂っぽい平原を越えてきたのか、やや埃の目立つ外套で頭を隠した男が、修道女と話している。しかし前と違い、その男の周りを子供らが囲い、しきりに外套を引っ張って注意を引いていた。前に修道女の後ろで警戒しながら固まっていた姿はない。修道女も感極まったような様子で目元に手をやりつつ微笑んでいる。
修道女はどうやら金一封を男に差し出しているようだった。男は制すように手を前に出し、首を振っているらしい。けれど結局押し切られ、渋々受け取り頭を下げ、数人ばかりの子供を連れて歩いていった。
孤児の厄介払いかと邪推するも、泣き笑いながら修道女が後ろ髪引かれる子供たちの頭を撫でて促す様からは、そうにも見えない。子供らや男の姿が視認できなくなるまで手を振り続けた修道女は、涙をひとつ落として教会に戻ってゆく。
一体あれはなんなんだ、と、サイファーは不機嫌気味に顔をしかめた。