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- Date:2024年11月27日
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ジャンル無差別乱発
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「いない…?」
いざ森に入らんとしたスコールの前に現れたヴィンセントは、音もなく頷く。
森に入らずに済んだことは正直有り難かったが、相変わらず気配も足音も薄いこの男が森の影から滲み出るようにして現れたのには、さすがのスコールも心臓が揺れた。
「子供ができたと言って、数日エスタにいる、と」
「子供って…彼の?」
「或いは。あれは、自分が納得していれば周りを顧みることはない」
どこまでも個人主義的な奴だと些か呆れたような呟きを漏らすのが聞こえたが、こちらの都合を聞きもしない点では、スコールにとって、どちらも似た者同士に過ぎない。下手をすれば追い返されそうだと出かけた本音を呑み込み、スコールは話を続ける。
「もし妻子を持つ身なら、なぜこんな不便な場所に住む必要があるんだ。自分の家族と住もうと考えないのか?」
己の父との関係を棚にあげ、スコールは尋ねた。己の感情如何はさておいて、家族という絆があることは、とても安心できるものとは学んでいる。
ヴィンセントはゆるりと首を振った。
「…あれは、他人を養う甲斐性はあれど、他人と寄り添って生きてゆくことを知らない。…が、それでも独りが生きてゆくのに心許ないことは知ってる。私も似たようなもので、互いに難儀している」
もっとも、ここに住む理由は、そんな内々のことではないのだけれども。
ヴィンセントのか細い声は、スコールには届かなかった。
「…それで、お前はどうするつもりだ。クラウドは、まだしばらくは帰っては来まい」
「…………」
スコールの任務は、今回の調査に対して有効な情報を持つとされるクラウドに、協力者としての渡しを要請することである。スコールらの目的も聞かずにSeeDとわかると警戒を剥き出しにした彼の強硬な態度を鑑みるに、それすら叶わないかもしれないが、少なくとも情報は欲しかった。
個人としては、ガーデンに依頼が来ない限り、己から接点を持とうと思わない人柄ではあるが。
「…彼は、いつ頃に戻るだろうか」
「知らん。私はあれの扶養者でも被扶養者でもない。ひとつの家に住んでいるだけで、互いの管理などしていない」
「じゃあ、待たせてくれと言ったら、アンタは待たせてくれるのか?」
バンダナに半ば隠れた赤い瞳が剣呑に細められた。ヴィンセントはスコールの頸もとあたりをじっと眺めた後、森には入るなと釘を刺して、踵を返す。
相手を待つばかりなど、ずいぶん消極的で、らしからぬとばかりに乾いた太陽を一瞥し、スコールは車に戻っていった。
いつまでも怨めしげな目でじっとり睨んでいた女性と別れたクラウドは、苦笑を零しながら彼女の背中を見送り、滞在しているホテルに足を向けた。
生まれて間もない赤ん坊を抱えたあの子が、とりあえず不幸な暮らしぶりではなさそうであることにひとまず安心する。
まるで親の気分だが、今際を看取るよりはずっと良い。体質上どうしても、彼らより先に死ぬことが難しいクラウドだが、見送る辛さはいくら年月を重ねようが、慣れるものではない。そういう人間的なところはまだ正常で、しかしだからこそ失うことを恐怖する。
なかにはいる敏感な子供は、そんなクラウドの機敏を薄々察して、いつも周りをうろついていた。それが有り難くもあり、自分の救いようがない弱さを思い知らされるかのようで、クラウドは、それなりに辛みを知る、大人になったかつての子供たちをたまに逃げ場として訪ねる。そこでまた湧く自己嫌悪を宥めてくれる子供たちに、報いることもできていないのだと、彼女のようにこちらへ移住することを薦める人間に逢うと殊更考えるようになった。
だからティファやレノから、 「いつまで経ってもずるずるずるずる…」 とからかわれると自嘲するが、部屋に戻る頃にはいつもの突き放すが如き無表情に落ち着く。
「クラウド!」
彼女の様子を見る他にも、クラウドはすべきことがある。
手を振りながら上等なベッドにはしゃいでぽんぽん跳ねる、今年で十八になる青年を見て、顔を和らげる。
「用事を優先させて、すまないな」
「いいよ、俺、もうガキじゃないし」
「大人はベッドで飛び跳ねなんかしない」
途端に膨れっ面になる青年に、己は疾うになくした眩しげな純粋さを感じる。並んで立てばそれこそ身長は変わらないというのに、甘えたな面を素直に表してくれるのが嬉しかった。
「じゃあ、行くか!」
「ああ」
彼らは、仕事を探しにきたのである。
ごった返す大通りから追いやられたようなうらぶれた小さな食堂で遅い昼食を摂ったサイファーは、このままガーデンに戻るのも何か癪で、うだうだと惰性に任せてエスタに留まっていた。何の面白みもない、ただの混雑にバラムガーデンの寮同様、やはり苛立ちつつ、押し合いへし合い歩く。
恨めしいほど快晴の空。しかし、雷神や風神と共に見上げるのとでは、気の持ちようも違うらしく、あのとき若干感じた清々しさは微塵もない。エスタにくるのだってキスティスが何やら小うるさく、つくづく集団に馴染めない性格であるとそこまで考え、あまりの不毛さに思考を打ち切るが、することがないので、退屈を紛らわせるために見たくもない人混みに目を向けた。
「……おいおい、今度は男かよ」
整った顔立ちだろうに、ごついサングラスで目元を隠した明るい金髪が、人混みを物ともせずに悠々歩いている。隣には先ほどの落ち着いた印象を持つ女性とは反して、騒がしそうな、サイファーやスコールと同じ年頃の青年が、飛び跳ねるようにして並んでいる。顔立ちや外見は全く違うが、ゼルと似たり寄ったりな雰囲気がある。機嫌が良いのか、青年は騒いで叱られても嬉しそうな顔をしている。並ぶクラウドも、何やら真剣には怒っていないようだ。
サイファーは、スコールたちが何の用であんな鬱蒼とした森に行ったのか、詳しくは知らない。ただ、クラウドが行き詰まった依頼を進展させるに足る有力な情報を持っている可能性が高いらしいから、協力ないし情報の買収でも持ちかけようとしたのだろうとサイファーは考えている。結果はサイファーも知っての通り散々、門前払いに近い扱いを受けただけであったが。
その少し前からサイファーはクラウドに関わっているが、SeeDのトップクラスたるサイファーたち三人に囲まれても顔色ひとつ、眉毛一筋も変わらず、いっそ傲岸なほどサイファーをくさしたクラウドに、サイファーは良い印象など持ってはいなかった。
けっと唾を吐き、拳の裏で青年の頭を叩くクラウドに背を向ける。
とにかく関わりたくない。
ゼルは唸っていた。
ゼルの知る限り同年代で唯一の魔女にして、スコールと淡い想いを育んでいたリノア・ハーティリーの父親である、ガルバディア軍所属のヒューリー・カーウェイ大佐から情報を得るための繋ぎを取ることに、まず苦心した。
あの森で襲ってきた軍隊もガルバディアのものと既にわかっていたため、直接連絡をつけねば傍聴や盗聴の恐れが懸念される故である。何より大佐本人の与り知らぬ余所の部隊だとしたら、内部紛争の種になりかねない。もはや撒かれた後のような気もするが、注意を払うに越したことはないのだ。
ようやっと大佐と連絡がつき、(違反ではあるが)事情を掻い摘んで話し理解を得られたのが、任務開始時刻から三日も経過してからだった。
「そんで、なんでまた停滞するんだよ!」
大佐からの情報を簡単にまとめたくしゃくしゃの報告書を睨みつけ、癇癪を起こしたゼルは、昼食のバーチャミューズリーのごみを、ガルバディアで間借りした部屋の壁に投げつけた。昼に食べるにしては心許ない昼食は、育ち盛りのゼルには明らかに物足らなかったようである。
カーウェイ大佐は、ゼルの私情混じりな話を、寝耳に水といった様子で聞いていた。話し終え、何か知らないかと尋ねたゼルに、本当に件の部隊はガルバディア軍だったのかと再三聞き直したほどである。襲撃されながら彼らの着ていたミリタリージャケットの端にあった国旗と識別番号を確認した張本人のゼルは、狼狽にしろ困惑にしろ、少し取り乱した大佐に食ってかかる勢いで反論して、ようやく本題に入った。
ところが、肝心の情報は、ガルバディア軍が行軍したという記録や物資の流れ、消費した武器の補填や死傷者に払われる見舞い金すら、形跡のひとつも見つからなかった。現在、大統領代理として軍務よりも政務に比重が傾いている大佐は軍部の水面下がどのように移り変わったか、長らく把握をしていないそうな。
ガーデンでもかつて似たようなことがあったためにその難しさを多少なりとも知っていたゼルは、文句を言うのだけは止められたが、憤懣やるかたない思いが募っていった。
「つーか、こういう情報系統って、普通はセルフィじゃねぇ?」
SeeD科で戦術や情報操作の一通りを学びはしたが、誰しも好みというものはある。残念ながらセルフィはゼルが任務から帰ってきた翌日に、アーヴァインとツーマンセルを組んで、モンスター討伐任務のため出払った。
「あーあ、どうせなら俺も討伐任務が良かったなぁー」
その日の夜半、物資の消費加減と経過報告を最後に、セルフィとアーヴァインの持つ端末機との連絡が途絶え、二人の消息は杳として知れなくなった。