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- Date:2024年11月23日
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ジャンル無差別乱発
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振動し続ける地殻のせいで、大地を降下したところで長くは持たないと判り、改造を施したタルタロスを地殻に打ち込むことでそれを止めようと計画し、改造を委託したシェリダンでは。神託の盾騎士団が待ち伏せていた。
ここは自分たちが足止めするからと言ってくれた街の人間が斬り倒されていく中、鈍りそうな足取りを叱咤しながらタルタロスへ向かう。よくしてくれた人たちの血が舞う、見るに堪えない光景を必死に振り切り、兵の手を逃れたと思った矢先、タルタロスの前に立ったヴァンに、イエモンやタマラさえも囮に躍り出た。密告した、ヴァンの後ろにいたスピノザが老人に刀を向けんとするヴァンを見て、青褪めている。
渋るルークたちを促す開発者の体がすわ切り刻まれるを見ているしかないのかと歯噛みするルークたちを、ジェイドが諭す。その眼には悔しげな光が灯っていた。
「その覚悟や………!」
ヴァンが、その動きを止めた。
乗船していたティアも足を止める。
「これは…」
街の奥から微かな声が響く。声が音を奏でる。
ヴァンやティアに続き、ルークも気づいた。初めて聴いたときは、何の言葉かもわからなかった、特別な歌。
イエモンやタマラやスピノザがその場でぐらりと倒れる。ヴァンも頭に手を当ててふらついた。
それは、あの日の再現だった。
「第一譜歌…!」
ナイトメアと呼ばれる、眠りの歌。
「兵士でもない一般人を切り捨てるのは、少し勝手じゃないのか」
「貴様…!」
「布石を置いたなら、大人しく退けばいいものを」
「アッシュ!」
刀を振り上げ、ヴァンの腕を浅く斬る青年は、それでも波立たない顔で倒れている老人たちを見る。
「退け。あなたは引き際を知っているはず」
「裏切る気か…ッ」
「裏切るも何も。初めから結託もしてない」
抜かれた刀の先でガリガリと地面を削る青年に、ヴァンは憎々しげな目で背を向けた。
青年が老人を家の壁に寄りかからせ、己も去ろうとするのへ、イオンが声をかける。
「アッシュ!」
「…………」
「協力して、くれませんかっ? あなたが既に補佐を辞め、僕に傅く理由はなくてもっ、僕たちは、僕は!」
ルークにはわからなかった。泣きそうになりながら青年を引き止めるイオンの必死さが、わからなかった。他の者にもわかるまい。
思えば廃工場からザオ遺跡まで、あの青年はイオンと多く関わる機会があったのだろう。色々と便宜を図ってくれたとイオンは自分を攫った輩を庇っていたが、それが理由だろうか。
しかし青年は歩みを止めない。イオンの声がなかったように、街の奥へ不遜に歩いてゆく。
もどかしげに鉄柵を握っていたイオンが身を乗り出して叫んだ。
「アッシュ元導師補佐役!」
青年の足が、止まる。
「導師の、命令…、です。…外郭大地降下に、全面協力しな、さい…っ」
傲慢な言葉を辛そうに叫んで顔を歪めたイオンがここまであの青年に拘る理由がわからず、そしてイオンにここまでさせた青年に、それを難じるそれぞれの目が向けられたが、僅かに傍観していたルークは目を剥いた。
青年の口元が、今までとは違って明らかにまろい孤を描いている。それも束の間、瞬きのうちに消えたが。
「責任は」
「わた、しが…負います」
「合格だ」
タラップを踏んで悠々と歩いてくる青年に敵意が刺さるが、それには介さず青年は懐から白い封筒を出してイオンに渡す。
「本来は己の立ち位置を見失ったときにでも渡せと言われてたけど、せっかく一人で決意したんだ、その後押しになればいい」
白い封筒には宛名がない。代わりに封咒がかけられている。
イオンの脇から見ていたアニスが言った。
「誰からよ」
「“前導師”からだ」
エベノス様? と同じくダアト所属のティアは首を傾げる。しかしそれは何かおかしいような気がしたが、ルークの怪訝な様子を尻目に、ひっそりと手紙を読んだイオンは、感極まったように震えて泣き笑った。
「ありがとうございます」
万感の思いがこもった言葉だった。