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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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Missing reminiscence [4]

FF:7→8


接触しましたー。

ダダダダダダッ!


 爆音と舞い上がった土煙を突き破るが如き銃弾の嵐が足元に降り頻る。飛び退り、スコールは所持したままだったハンドガンを構えたが、相手が多すぎる上に、木々の張り伸ばされた枝が狙いを定める邪魔をしている。
 主に近距離・中距離戦闘を得意とするスコールやゼルたちには、分が悪かった。


「おいあんた! これはあんたら狙いの奴かよ!?」
「わからん。恨みを買うには十分な仕事柄だからな」


 ゼルの言葉にもひどく落ち着き払った声は不思議にもつんざく銃声の中ですらスコールたちの耳に入った。男は相変わらず静かで、子供のいる家を守るように立ちはだかるわりに、反撃する様子はない。しかし、銃弾は何故か硬い音をたてて軒並みその軌道を見当違いな方向へ変えてゆく。ものすごい速さで飛び過ぐ跳弾を、頭を抱えたキスティスが小さな悲鳴をあげながら避けた。


「…プロテス!」


 ハンドガンをかなぐり捨て、魔法を発動させる。一時的にだが、銃弾を防ぐことができた。


「キスティス、ゼル! 体勢の立て直しを! シヴァ!」


 スコールの前に、魔力で凝縮された絶対零度の女王が現れる。姿なき敵にダイヤモンドダストが吹き付け、木々もろとも凍らせた。薄暗い森の中で、戸惑ったような声があがった。
 銃弾が止んだ一角からゼルが森に駆けてゆく。キスティスもまた同じく。しかし、いくらG.F.をジャンクションしているからといって、体の強度や耐久性が向上しただけで生身と変わらない。弾が当たれば血も出もするし、動きも鈍る。
 スコールは高みの見物を決め込んでいる男に尋ねた。


「あんたは戦えないのか?」


 男はまた静かに返した。


「私がここから離れたら、誰が子供たちを守る」
「それはそうだが……けれど防御一点では向こうの攻撃も止まないだろう」
「然り。だが、私はお前たちSeeDと共闘したくはない。本来ならば、お前たちは手を出してはならないはずだった」
「どういう……っ」


 魔法の効果が薄れるのを感じ、スコールは続けてプロテス、シェルを放つ。仲間の姿がどこにあるかわからない今、迂濶に攻撃魔法を放てない。
 スコールは歯噛みした。これではこちらが消耗するばかりだ。


「…ふん。来たか」


 男が呟いた。
 日向の平地が大きく翳る。何事かと空を仰げば、空を旋回する巨大な影が陽光を遮っていた。そこから、何かが三つ、落ちてくる。銃声の中では聞き取り難いが、口汚い罵声が紛れているようだ。


「ぐぁっ」


 落ちてきた金髪頭が、件のクラウド・ストライフかと思ったが、続け様に見知った二人が降ってきて、スコールは僅かに目を見開いた。


「サイファー!?」
「ってぇ…くそっ、あの野郎いきなり蹴飛ばしやがって! レビテトがなかったらあばらの一本くれぇイッテたんじゃねぇかっ?」
「何であんたがここに……」


 腰を撫でていたサイファーは、ようやくスコールに気がつき、顔をしかめて言った。


「テメェこそ。いつからバラムガーデンの指揮官殿は小間使いになりさがったんだ?」
「俺は任務で…いや、そうじゃない。行方不明になっていたあんたが、どうして空から降ってくるんだ」


 サイファーは不機嫌面に青筋を立て、空を睨みあげた。しかし、あの影は最早なく、照り付ける太陽が再び平地に光を運んできているのみである。


「俺だって知らねぇよ! ついてきたらこれだ!」
「ついてきたらって……誰にだ?」
「知るかくそっ! 風神、雷神、そこにいるおっさんとガキどもを守れ!」


 苛立たしげに頭を掻き毟るサイファー。どうやらかなり扱いに不満があったようだ。名前も知らない人間に、魔女の騎士として勇猛を奮っていたサイファーがのこのこついていくはずもないのだが、半ば自棄になってガンブレードを握って駆け出している。スコールも後を追った。


「落とされてみりゃ、何だよこりゃ。こんな森にガ軍は何しにきたんだ?」
「ガルバディア軍…だと?」


 訝しげなスコールに、サイファーは眉を寄せる。


「テメェらしくもねぇ。相手も知らずにやりあってたのか?」
「いきなり一斉掃射だったからな…」
「ハッ、SeeDの筆頭がこんな平和ボケしてんじゃ、ガーデンの先は決まってんな」


 敵愾心を剥き出しに、サイファーは嗤う。
 彼の中では、あくまでバラムガーデンは箱庭のままだ。
 遠くで、爆音が響いた。
 そして腹の底にずんとくるエンジン音が掻き鳴らされる。そちらに目を向けると、外套をきた金髪の男が中型のモンスターほどもあるバイクを走らせ、やってきた。その後部座席でゼルがヒステリックに叫び、男の前でキスティスがタンクにぶら下がっている。無茶な三人乗りのバイクは真っ直ぐサイファーとスコールのいる場所まで突っ込み、そのまま二人を平地に引き戻した。


「何故SeeDがここにいる…?」


 低い声が聞こえた方を見れば、癖の強い金髪の男がバイクからキスティスとゼルを引きずり落としていた。今まで一歩たりとて動かなかった黒髪の男が、マントをなびかせ歩いてくる。


「お前に用があるらしい。お前が零式から突き落としたそっちの三匹はどうだか知らんがな」
「これは勝手についてきただけだ。仕事には関係ない」
「そうか」


 落ち着いた口調のわりに、その横顔は若々しかった。黒いゴーグルでやはり顔を窺い知ることはできないが、スコールたちより少しだけ年上のような気がした。
 話がついたのか、男はスコールに向かって尊大な声を出した。


「俺に何の用かは知らんが、まずはこのうるさい蝿どもの始末が先だ。邪魔になるからお前たちはそこにいろ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 一人よりも多勢の方が…」
「下手に動く弱い奴を守りながら戦えるほど、俺は器用じゃないんでね。巻き添え食って死にたくなきゃ、さっさとすっこんでろ」


 キスティスの申し出を即座に切り捨てた男にスコールは衝撃を覚えた。先の魔女大戦の主戦力となり、かつアルティミシアを下した決定打となりえたスコールやキスティスやゼル、スコールと同等の力を持つサイファーを、言うにこと欠いて『弱い奴』とくさしたのだ。何を言われたのか理解しきれなかった他のSeeDの面々は、目と口を中途半端に開けて、背中を向ける男を凝視していた。


「ヴィンセント。余波が行くかもしれないから、シールドの二重展開を任せたい」
「シェル、プロテス、リフレク、それだけじゃ足りんのか」
「家まで凍らせたくない」
「…わかった」


 ヴィンセントと呼ばれた男は、腰が抜けたままのゼルとサイファーを引きずって家の戸口傍まで寄る。スコールは傷だらけのキスティスに肩を貸してやり、座らせてケアルをかけた。
 家を中心に平地の半ばに円を描いた何かが、一瞬白く輝く。円の外にいる男は、様子を窺い止んでいた銃撃に、晒されようとしている。
 だが。


「…ブリザガ」


 急速な魔力の収束に鳥肌が立ったかと思えば、刹那のけぞるほどの強い衝撃が我が身を襲った。男の足場とヴィンセントが守る場所を残して、分厚い氷の波が森を覆う。体の芯まで一息に凍りついたものは例外なく、砕け散る。パン、パンパンパンッと小気味良く砕けるものが人か獣か植物か、区別のつかぬまま欠片となって地面に散らばった。


「………すげ、」


 冷気で白く濁った息を吐きながら、ゼルが呆然と呟く。
 スコールや魔法の得意なセルフィや、魔女のリノアでもここまで容赦のない凍てつく息吹は使えない。G.F.のシヴァに匹敵するか否かの差である。
 防護を解いたヴィンセントが言った。


「……何故、全滅させない。逃がした奴らからこの場所が割れるかもしれんぞ」
「森の外にあった通信機器は、任務成功の誤報を流した上で先に壊してきた。モンスターどもには、ここから逃げようとする人間全てを食らう許可を出してある。事実上は全滅さ」
「…そこまで徹底させる必要はないんじゃないか」


 割って入ったスコールの小さな抗議の声に、ヴィンセントと男の目が集まる。
 ヴィンセントの鋭い人間らしからぬ赤い目と、ゴーグルの下にある男の目が無機質に光ったような気がして、スコールは少し目線を落とす。


「……この場所を害す気を持つ人間は、全て皆殺しだ」


 どちらともある冷徹な声は、知らず百戦錬磨のSeeDたちを怯ませるには十分すぎるほどだった。

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