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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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Missing reminiscence [3]

FF:7→8


そろそろ接触するかなー。

 スコールは固まっていた。ゼルは口をぽかんと開けていた。キスティスはやや汗だくになりながら、ホログラムで地図を何度も確認していた。
 目の前には、広大な森が広がっていた。時折鳥が羽ばたき、木々の間では獣の気配がスコールたちを窺っている。森より一寸離れた場所に頼りない投函箱が立っているから人が住んでいることは確かなのだろうが、こんなところに住むなんて、どんな物好きなのやら。
 ゼルは物凄く嫌そうな顔をして言った。


「おい、本当にこんなやばそうな森に人間なんかが住んでんのか?」
「そうね…そうでなくてもこんな森、今までなかったわ」


 魔女大戦から一年足らず。その間にもスコールたちは、ラグナロクでこの地域を上から見下ろしたことがある。どこまでも続きそうな白い砂地を見た記憶はまだ埋もれるほど昔ではない。なのに、何百年経ってこそここまでになるだろう大きな森は、鬱蒼とスコールたちを呑み込もうとしている。時の経過が狂ったようなこの光景は、かつてアルティミシアとの戦いの中で感じたことのあるものと似ていた。あの災厄が繰り返されるのかと考えるだに怖気がするが、立ち止まって援護を追加するほどの脅威があるとも、スコールには思えないのだが…。


「入ってみましょうよ、スコール」
「ああ。今のところ、モンスター以上の危険があるとは感じにくい」


 この森が一体何なのか、それはスコールたちが今検討するべきことではない。もしかしたら運び屋がそれも知っているかもしれない。スコールは茂みに一歩分け入った。

 


↑↓

 


〈ピッ、ガー……応答求む、…答求む……目標…AN-5054i……接触…ガガガッ…駆逐…始……待機命令…除後、……作戦行動にいこ、………ピッ、ピピッ〉


ブツン

 


↑↓

 


 森から外が見えなくなった頃から、モンスターの襲撃は絶えなくなった。モルボル、メルトドラゴン、他諸々がひっきりなしにスコールたちを襲ってくる。時には魔法を、時にはG.F.を駆使し、それでも凌ぎきることができずに装備が目減りし始め、ゼルがグラナルドを殴り飛ばしながら叫んだ。


「だー、くそっ! 棲息区域も無視してどんどん出てきやがる! これじゃキリねぇよ! なあスコール、バハムートでこの森焼き払ってくれねぇっ?」
「ここに住んでるらしい運び屋の家は、この先にあるんだ。巻き込んで損害を出したら、話を聞いてもらうどころじゃない」
「じゃあ地道に切り込むのか? ああめんどくせぇっ!」


 何とか拓けた地までたどり着き、囲まれても対応できるように背中を合わせて円になる。しかしモンスターは、平地にまでスコールたちを追い立てようとはせず、木陰から恨めしげに唸っていた。敵意はあるが、害意が薄れたのを感じ、スコールたちはそれぞれの武器をおろして息をつく。


「ど、どうなってんだぁ? 襲ってこねぇな」
「まるで、襲う場所でも決めてるみたい…」
「──だって、そういう約束だもん」


 スコールはガンブレードの切っ先を奥に向けた。油断なく見据える先、丸い平地の更に向こうの池の畔で、子供が二人、立っていた。
 一人はスコールたちより少し年下の少年で、もう一人の水桶を持った十才ほどの子供を背にかばい、スコールを睨んでいる。


「子供…?」
「あんたら、何の用だ」
「あなたたちこそ。ここはモンスターが住んでる危険な場所よ。どうして二人でこんなところにいるの?」


 見れば二人は、揃いのリボンを腕に巻くだけで、身を守るものを何も持っていない。武芸に富んだ体格でもなく、どちらかというと痩せぎすの子供は、けれどスコールたちを果敢に睨めつけ、警戒している。
 元々教師だったキスティスが武器をしまい、二人にゆっくり近付きながら問う。二人は獣のようにキスティスを威嚇した。


「…さっきの、『約束』ってなんだ…?」
「約束は約束だよ。ここから先は襲わないって、約束」
「まさかモンスターと? G.F.以外で意思の疎通ができるモンスターなんていたかしら」
「ほんとに約束したもん! クラ兄とイン兄が…」
「馬鹿!」


 少年が慌てて子供を諫める。
 スコールやキスティスはますます訝しげに顔をしかめるが、必要以上に彼らの琴線に触ったらしく、子供を抱えた少年はさっさと身を翻して森の奥に走り去ってしまった。
 木々の間をそよ風が吹く。


「……どうする?」
「行くしかなくねぇ? クラ兄ってのは、俺たちの探してるクラウド・ストライフって奴だろ、多分」
「そうだな…」
「約束って、どういうことかしらね」
「行って直接訊くしかないだろう…」


 茂みを慎重に分け入るが、モンスターの気配はあるもののそれも遠く、子供が乱暴に踏み荒らした名残しかない。本当に、この近辺はモンスターの巣窟になっていないようだ。
 身を低くして進むと、先程と似た、それより更に広い平地に出た。
 そこだけぽかりと穴が空いたように陽光が降り注ぎ、森を明るく照らしている。高い柵が一角を隔て、家は何かごちゃごちゃしいが、外に出て遊ぶ子供がいるくらい、先のモンスターの襲撃と無縁の空間がそこにあった。


「ちょっと聞きたいんだが…」
「……!」
「イン兄ー! イン兄ー! 外の人がきた! 外の人がきたよー!」


 小さな子供は皆程度こそ違えど、一様にスコールたちの姿を見た途端、蜘蛛の仔を散らすように家の方へ逃げてしまった。代わりに出てきたのは、赤いバンダナと裾がぼろぼろにほつれた同色のマントの、仄暗い目付きの男だった。黒髪の間から覗く赤い目がスコールたちを射抜く。


「よそ者が、何をしにきた」


 ひどく落ち着いた、低い声。スコールたちの持つ武器が目に入らないはずもないだろうに、まるで怯える様相はない。


「えっと、…わたしたち、クラウドっていう人に用があって…」
「依頼は私書箱を通して請け負う流れになっているはずだが?」
「ち、違うんです! 少し聞きたいことがあるんです!」
「あいつは今仕事で不在だ。機会を改めて出直せ」


 とりつく島もない。出鼻をくじかれたスコールたちは、話をどう繋げるかとまごついた。
 男は、億劫そうに言葉を続ける。


「お前たち、SeeDだろう。私もあいつも戦争屋は好まない。お引き取り願おう」
「それじゃあ、こっちの都合が悪いんだ」
「お前たちの都合に合わせてやる義理はない。…子供たちが怯えている…さっさと帰らなければ、強引にでも追い出すぞ」


 マントが不穏に揺らめき、その下に既に銃を握っている腕がぶら下がっているのを目聡く見つけ、スコールたちも武器を構えた。
 男の目が剣呑に細められ、

 


地響きと轟音が辺りを包んだ。

 

 

 

 

 サイファーたちは、何故かエスタにいた。
 ガーデンと懇意にしており、SeeDが他より多く出向くこの国に、何故自分はいるのか、何度自問しても埒が明かなかった。俺は何をやっているんだろう。何でこいつについてきているんだろう。
 簡易な自己紹介が終わったあれから、クラウドと名乗った男が場をうやむやにしたまま去ろうとした後を追いかけた結果が、このザマだ。冷静に考えれば即座に理解できるほどどうしようもない自業自得だが、我に帰るのをサイファーは拒絶している。
 目の前を走る超重量級のモンスターマシンを駆る男は、急いで車を借りたサイファーたちの苦労も知らないで、とんでもない馬力のエンジンをふかしながら猛然とギアを回し続ける。こちらを一顧だにしないその背中には 『ついてくるなら勝手にしろ』 と書いてあるような気がした。
 もちろん今更引き返すという選択肢はない。俺何やってんだと半ば呆れつつも、クラウドのバイクをしっかり追っている。
 その内、遠くに黒い何かが点々と見えてきた。しかしサイファーの記憶では、ここは木の一本も生えていない、まっさらな砂地が続くはずだった。なのに近くに寄るにつれ、それがどうしたって青々と茂る森に見えるのだから、最早サイファーの視力を疑う余地はない。
 サイファーがため息を吐いたと同時に、クラウドが、突如バイクを急停止させた。
 風に煽られた外套が太陽を照り返す。クラウドがそれ以上森に近寄ろうとしないのに、ここでいきなり発進したりしないだろうなと戦々恐々、サイファーたちも車から降りた。


「おいどうした」
「…ガルバディアの軍人がいる……」


 森はまだ遠く、その全容すらはっきりと目に見えない。だのにこの男の視力は一体どうなっているのだ。
 サイファーがクラウドの後ろから目を凝らして森を注視すると、花火が弾けるような、腹の底から打ち鳴らされる力強い響みが火柱と共にあがった。ひとつだけに飽かず、続いていくつも。


「お、おい、なんかあそこやべぇんじゃねぇか?」


 サイファーがクラウドに声をかけるより早く、クラウドはバイクの腹から六本もの刀を取り出しひとつの大剣に組み立て、腰の後ろに挿していた。


「おい?」
「黙っていろ」


 クラウドが色とりどりの珠がはまったバングルのある腕を前方に差し出せば、黒い炎のような靄が手から立ち上る。渦巻くようにたゆたい、クラウドの周りをゆるりと囲むと、クラウドはその名前を呼んだ。


「零式」


 浮かび上がった、円が幾重にも重なった陣がうごめき、巨大な竜が咆吼を轟かせながら現れる。サイファーも知るG.F.のバハムートによく似ているが、こんなものは見たことがない。
 クラウドがバイクごと乗り上げたのには、サイファーは目を落としそうになった。
 G.F.は高潔な魂を好み、気高く、人間に傅かない。ただでさえ扱いが難しいのに、それを、バイクに足蹴にされても大人しくしている価値があると思われるほど、クラウドはG.F.にとって魅力ある魂なのか。そもそもG.F.を独占的にジャンクションできるのはSeeDだけだというのに……全て、クラウドという固有名詞の前では霞んで見えるのはどうしてだろう。
 うっかり遠い目になりかけたサイファーは、慌てて竜の尾にしがみついた。

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