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- Date:2024年11月23日
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ジャンル無差別乱発
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アクゼリュスが住人を巻き込んで魔界へ崩落することが預言に詠まれていたというテオドーロの話は、ただでさえアッシュという青年が言った、両国が戦争を起こすという、半ば眉唾物の話に恐慌していた親善大使一行にとどめという形で刺さった。中でも恐らく、ティアの心中は測れないほど傷ついたに違いない。預言は守られるべき、なぞらえられるべきと昏く濁った目で語った祖父に、遠回りにお前たちは死ぬべきだったのだと言われ、裏切りにも似た気持ちを感じたことだろう。
その話を聞いた青年は、驚き沸く一行を、一線引いた場所で傍観していた。まるで最初から知っていたとでもいうような泰然とした有り体でひとつ頷くと、さっさとどこかへ去っていった。追いすがろうとしたが、超振動を使った影響か、ルークが倒れてしまったことにより、それも適わなかった。何より、目の前で光に消えてしまっては手の出しようもない。
本来第七音素士が複数いてやっと起こせる超振動を単独で扱える、ローレライの完全同位体で、キムラスカの次期国王の地位を約束された公爵子息。人柄もやや生真面目だが、民に向ける視線は、将来施政者になるには申し分ない。
しかし。
(彼は、自国に殺されるために?)
バチカルで謁見を申し出たとき、先にいたモースは、確か、和平を妨げるためにローレライ教団の最高指導者をダアトに縛り付けていた。他に知られれば身の破滅は確実であるのに、そうまでして和平を邪魔し、キムラスカに入り浸る理由。
(それはまだ…)
しかし預言に詠まれていたアクゼリュスの崩落を、ああもマルクトを敵視するようにキムラスカに進言し、預言を妄信しているモースが知らないはずもない。謁見の間で詠まれた預言が半端に切れていたのは、全てを教えてしまえば、ルークの身を案じる王女を筆頭に、渋る人間も多かったから。そして、出奔紛いの暴挙に出た王女を追いもしないのは…
『戦争が始まる』
(戦争の理由に、親善大使のみならず王女まで使う気か…)
戦争をと内政に干渉していたモースがすんなり親善を受け入れたのには、それが成功しないことと、戦争の理由にできることが多分に打算に含まれていたからに違いない。福祉に力を入れていたという王女の死は民衆を煽るには十分で、おまけに親善大使一行が死んだとされる地はマルクト領土。人知れずマルクトがキムラスカの使者を謀殺したと噂になれば、マルクトに悪感情を持つ人間が便乗するのは明らか。それならば戦争勃発の壁になるイオンとナタリアを幽閉するのも頷ける。
完全に後手に回ってしまった。
(ならば彼の情報に嘘はないと考えるのが妥当か)
『それぞれの国に手紙を早く送って自分の無事と現状を報告するのを勧めるぜ』
(どこまで見えているのやら)
それは、ヴァンやモースの見聞と思考を、これ以上なく正確にトレースできるからか。
何にせよ、足りない情報を握っている青年は、今はいない。ルークがまだ本調子ではない今、即戦力が欲しい。青年の戦闘振りは明らかに前衛向きで、願わくば共にいて欲しかった。ジェイドの思惑を知れば、他の者は良い顔などしないとわかりきってはいるが。
恐らく今後顔をあわせるたびに、彼ら(特に女性陣)は聞くに耐えない罵倒を口にする。アクゼリュスを落とした大罪人だと、これ見よがしに責め立てるだろう。しかしジェイドは、彼女らのように目の前に転がっていた状況証拠だけを単純に信じられなかった。
あのとき、パッセージリングに投影されていた文字は、ジェイドの見間違いでなければ、『警告』とあった。あの文字は今を生きる人間に一体何を伝えたかったのだろうか。
それ以上に頭の痛い問題が点在しているというのに。
ベルケンドで、ヴァンが頻繁に出向いていたという研究所に赴き出会った研究員、確かスピノザと言ったか、その人物が、ルークを見て、成功例かと呟いた。それから慌てて口を噤み、ろくな情報などほとんど漏らさなかったが、イオンが痛ましげに目を瞑ったのを見て、看過してはいけない、空気のように実態のない確信を得てしまったような気がした。
スピノザと他の研究員との会話を盗み聞いてワイヨン鏡窟(嫌な名前だと、つくづく思う)へ行き、ホドのレプリカ情報と、黄色の毛色をしたチーグルのレプリカを見つけた。ここを管理しているらしいあれは、未だにレプリカを作って恩師を蘇らせたがっているようだ。全く、愚かしい。
けれど、レプリカ研究に執心なスピノザがルークを成功例かと言った。彼は、十歳以前の記憶がないらしい。誰も彼も忘れて、一時は手もつけられないほと暴れてくれたと、ガイは苦笑していた。誘拐された影響だと医者は診断したと、さすがにひどかったのか、ナタリアも失笑したのをばつが悪そうな顔でルークは聞いていた。
ジェイドの中で、誰かが催促するように、焦れたように心を叩く。目をそらすな。そう、じりじりと。
ヴァンのことにしても、ルークのことにしても、レプリカやディストや六神将にしても、ワイヨン鏡窟であった地震にしても、どれもこれも厄介なものだ。
誘拐されたイオンとナタリアを救出するためにダアトへ向かう最中、ジェイドは眉間にしわが寄っていたのを自覚し、ため息を吐いた。