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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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Missing reminiscence [1]

FF:7→8


まだ一話目なのに展開が早い、かな…?

 スコールとキスティスは、とある町にいた。できるだけ目立たぬよう、スコールは特に額から鼻梁に渡る傷が見えぬよう、注意を払って。
 キスティスのウィップは足ではなく腰につけたポーチに忍ばせ、スコールにいたってはいつものガンブレードを今回に限り手放し、挙句の果てにハンドガンである。可能な限りG.F.をジャンクションしてはいるものの、手慣れた状態ではないとさすがに違和感だらけだった。
 長く黒いかつらを垂れ流したスコールは、ほとんど変装を施していないキスティスを、恨めしげに見遣る。


「仕方ないじゃない。あなたは今や良い意味でも悪い意味でも有名なんだから、せめてかつらくらいは我慢してちょうだい」


 スコールの無言の抗議を、キスティスは正確に読み取って弁明した。


「いくらガンブレードは目立つからといったって、ハンドガンは心もとないと思うが」
「わたしだって、使いにくいったら。でも今回は戦闘じゃないのが救いだわ。教会や孤児院から、子供がどんどんいなくなっている原因の調査だもの」


 調査を要請したのは、ガルバディアに近い、エスタの領土にある孤児院だった。昔にセントラで『石の家』と呼ばれる孤児院を開いていたイデアと交流もあり、身元は確かだそうだ。
 その孤児院はもちろんのこと、比較的ガルバディアに近い教会や孤児院から、複数人子供を連れていく団体が出てきたとか。子供を渡せないと知るや、武力暴力に訴えようと見せかける場合も、多からずだがあるらしい。傷害や損害はあまりなく、所詮慈善事業からの申し出にはまともに取り合わない知事もいて、知らせが遅れたという。手際の悪さに、さしもの穏やかなアーヴァインもぶつぶつと文句を言っていた。
 遅まきながら報告を受けた政府がエスタ全域を対象に調査を開始したものの、ガルバディアと折衝が起きかねないこの町だけは、SeeDが調査することをガーデンに望んだのであった。


「…大きいわね」
「ああ」


 その辺りの一般住居より頭ひとつ抜きんでている古い屋根の先に、手を広げた天使のシンボルマークがそびえたつ。何の神を奉っているのかは知らないが、ずいぶん長いこと人々の信仰を集めたようだ。ステンドグラス仕様の細長い窓がいくつも並んだ荘厳な外観に呆けていた二人は、そそくさと教会の重い観音の戸を開きを押した。
 祭壇の前にある長椅子に、紺色の修道服を着たシスターが座っていた。麗若いシスターは、栗色の長い髪と穏やかそうな同色の瞳でこちらを見て、不思議そうに首を傾いでいる。


「…? 本日のミサは終わりましたが」
「ええっと、違うんです、わたしたち──」
「この教会には、身寄りのない子供はいませんか」


 スコールが強引に割った声に、シスターの顔が強張った。白い頬が青褪め、ふるふると震え、視線をあちこちに走らせる。


「何を仰有っているのか、よくわからないですが、ここに子供はいませんよ」
「そうですか。既に誰かの元へ、というわけではないですね?」


 シスターが目に見えて怯え始めたのを察したキスティスは、尋問の口調になりだしたスコールの爪先を踏んで睨む。


「突然で申し訳ありません。わたしたち、バラムガーデンから調査にきましたSeeDです。最近身寄りのない子供がいずこかへ連れて行かれるらしく、何かご存知でないかと……」
「知りません。わたしは何も、知りません」


 すっかり怯えてしまったシスターは、うつ向いて首を振るばかりであった。埒が明かないと悟った二人は、後日改めて、落ち着いたときにまた訪れると言って、教会を出た。


「スコール! あくまでこれは調査であって、あのシスターさんは協力者になってくれるかもしれなかったのに…」
「ああ、すまない。どうもああいう手合いは苦手で、つい急いてしまう。けれど、あの様子だと何か知ってるだろう」
「まあ…そうね。明日にでも、また行ってみましょ」


 ふと擦れ違った外套姿の人間が教会へ行くのに、スコールは目がいった。
 旅装束に身を包んでいるくせに、肌が弱いのか、防塵布で鼻まで覆っている。顔はよく見えなかったが、フードから漏れた前髪は煌々しい金髪だった。
 その夜、件のシスターは教会ごと火にかけられた。

 


↑↓

 


〈ピッ、ガー……こち…、W-45…リア……応答求………ガガ、…W-45エリア……回収ならず。……答求む………ピピッ、ガー、〉


ブツン

 


↑↓

 


 ガーデンと連絡を取ったスコールは、苦々しい顔付きで窓の外の教会を見る。
 昨夜の火事で、古びた教会はあっという間に炭化してしまった。あれだけ美しかったステンドグラスは煤け、ところにより破片が振ってくる様だ。身寄りがないと明らかになったシスターは、共同墓地に埋葬されるようだ。自らと同じく身寄りのない子供たちを連れて行かれる一連を、彼女はどう思っていたのか、最早知ることもできなくなったのだ。
 重苦しいため息の余韻がなくなる頃、町を回っていたキスティスが戻ってきた。


「本部は、なんて?」
「引き続き調査次第、逐一報告を送ることになっている。今回の件に関して、抽出したメンバーで並行して会議を開くそうだ。俺たちはこの町を拠点に調査を再開する」
「二人でなの?」
「基本はそうだが、協力者を調達しても構わないそうだ」


 しかし、それもこの町では適わないだろう。ただでさえ町の外から来た人間、というレッテルのせいで、昨夜の火事の疑いを、もうスコールたち外部の人間に当てはめる輩もいる。
 確かに当日教会を訪れたスコールたちの疑わしさを否定する術は持たないが、しかし、最後にシスターと会ったのは、スコールたちではない。


「…探そう」
「え?」
「外套を着た、金髪の人間だ。見間違いでなければ、俺たちの後に、教会へ行った奴だ。何か知っているかもしれない」
「金髪? 金髪なんてこの町では珍しくないわよ。わたしだって、金髪だし」


 そう言いながらも、転がるように宿を出る。
 そういえば、今はガーデンにいないが、サイファーも金髪だった。大柄の、先の大戦で敵として姿を見せた幼馴染みを思い浮かべる。
 戦闘力でトップクラスのスコールでさえ両手で使うガンブレードを、片手で振り回し、片手でファイアを目眩ましに放つ、えげつない攻撃が得意だった。あげつらってやると似たような憎まれ口を叩き、攻撃と悪口の応酬に発展していくのが常だったが、スコールと肩を並べて競いあうくらい、強かった。
 今は行方が杳として知れないが。

 

 

 

 

 サイファーは、まだ町にとどまっていた。なんとなく居心地が良くなって、風神・雷神の二人と共に、だらだらと町の周辺をのさばっていたのである。
 他人に不干渉な町の空気は良い。他人の目を気にしないで済むのは良い。バラムガーデンとは大違いだ。


「あ…なんかあっちの方が黒いもんよ」


 雷神が町の西の方を指す。目を向ければ、確かに家々よりも背の高い建物が、黒々と染まっている。風に乗って、灰の臭いまで飛んできた。


「感火気」
「ありゃ教会じゃねぇか」


 先日見た、外套を被った人間がふと浮かぶ。むすくれた顔で、サイファーは教会に足を向けた。
 教会はひどい有り様だった。屋根がところどころ焼け落ち、崩れている。天使像が固定されている場所は炎上を免れたらしく、煤にまみれて汚れた、いつかは金色だった天使像は斜陽を浴びて鈍く光っている。
 この火事で、ここに勤めていた修道女が亡くなったらしい。何でも、火事が起こった日の午後に、黒髪と金髪の男女が訪ねてきたそうだ。その話を溢した町民は、既にそれらの人間に目星をつけているようだが、真か否か、サイファーには采配がつきかねる。
 他の野次馬に倣って寂しげな教会をぼんやり見ていたが、少し目をそらしたところで、外套頭が町民に添うように頭をもたげているのが見えた。


「あいつ…」


 サイファーがじろじろ睨み回していたのが悪かったのか、身動ぎしたその人はさっと身を翻して歩き出してしまった。


「追うぞ!」
「是」
「あっ、待つだもんよ!」


 汚れていたとしても、外套はよく目立つ。それも全身に纏っていれば尚更だ。
 ひょいひょい身軽に人を避けて歩く器用さに歯噛みしながら、サイファーは後ろの二人を置いていく勢いで足を進めた。町の入り口に停めているバイクに向かっていく相手に、今度こそ焦る。バイクなんてものに乗られたら、人間の足では到底追い付けない。


「……っ、確保!」


 風神が飛び出す。
 町中で武器を取り出すわけにもいかず、怪我程度で抑えられれば恩の字だ。肉薄を試みる風神の手が常人には霞んで見える速さで伸びるが、しかし相手は上手だった。風神の手の甲に肘を添えて弾き、半歩退がればもうサイファーたちと向きあっている。続けて詰め寄る雷神はさすがに弾くだけで済まないと思ったようで、似た動きで腕をそらした後に、腹へ掌底を一打入れて転がす。その頃には、サイファーは息を整え、静かに相手を見据えていた。
 初めてまともに見たが、大きめの外套で体型がわからない。フードの隙間からサイファーよりも柔らかい色の金髪がはみ出ている。鼻と口元を覆う布のおかげで肌はほとんど見えないが、時折風に煽られ、捲れ上がる外套の下は黒衣である。
 身を起こした雷神と体勢を立て直した風神、それとサイファーに挟まれ、けれど相手は平然としていた。しばらく小さな捕物劇を演じていたこちらを窺う町民が落ち着いたのを眺め、ようやくアクションを起こす。


「誰だお前ら」


 もっともな言葉である。

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