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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

誰のためにも死にたくない

TOA:逆行ルク


本編(崩落編)
たぶんオリジナルルーク視点

おかしなところはスルーでお願いします。


まともにあらわになったシンクの顔は、攻撃の手を止めるには十分すぎる威力を伴っていた。後衛の人間は、手を出さなくなった青年の隣で痛みを耐えるように表情を歪めている、イオンを見た。


「イ、イオン様と同じ顔…」


呆然と呟くアニスに、イオンは苦しそうな顔で笑った。


「いいえアニス、僕たちがイオンと同じ顔なんです」
「どういうことですの…?」


イオンは青年をちらりと見たが、青年はさして驚いた様子もない。当然だ。青年は、イオンが導師になる前まで、アリエッタと共に本当のイオンの傍らにいたのだという。


「僕たちは…モースとヴァンによって、二年前に崩御した本物の導師から生み出された、レプリカなんです」
「それで、能力が一番高かったそこの導師を除いた他の…僕も含めた他のレプリカたちは、捨てられたんだよ。ゴミみたいに、ザレッホ火山にね!」


殺意も生温いほどの怒気をイオンと同じ色の目に宿して、シンクは叫ぶ。兄さん、とティアは自失してこぼした。


「所詮僕たちレプリカはお前たち被験者にしてみれば、都合の良い道具だろう! 能力でその価値を一方的に測り、適わなければ簡単に処分される。どうせ第七音素に戻るだけなんだから、後始末だって楽だろうさ!」


事実明け透けなオリジナルの悪意をイオンも知っている。黙らざるを得ないイオンとは別に、ティアやナタリアは首を振る。


「そんな…あなただって私たちと変わらないじゃない! 道具だなんて…」
「運良く生き残っただけの僕を、ヴァンは使えるというだけで手元に置いた。妹のお前に今更何か言われたって、信じられるか! レプリカのことを満足に知らないお前たちに、何も知らないお前たちに、何がわかる!」


せつない叫びだった。
見かけが他と大差ないからこそ、それと知れれば必要以上に忌避の目で見られる。その実態を知らないルークたち、オリジナルの眼鏡に適ったイオンの言葉など、シンクには傲慢にしか聞こえない。シンクの慟哭は、知っているだろうただ一人に向けられていた。
真っすぐ憎悪の目を向けられる青年は、しかしシンクの様子に訝しげだった。


「シンク、お前…」
「何さ。いつまでも後生大事に補佐役の証なんかつけて。アンタだって、僕やそいつにオリジナルを重ねたことはあるだろう!」


青年は肩を揺らし、手首に手をやった。それはシンクが激昂するには十分で。


「お前、ヴァンに洗脳を受けたな」
「うるさい!」


満身創痍な体のどこに余力があるのか、シンクは青年に向かって足を蹴り上げた。思い切り壁に打ち据えられた青年は、ぶつけた頭を押さえてふらふらと体を起こす。仮面が僅かに欠け、獰猛な目が垣間見える。


「……こ、の、クソガキ…!」
「そういえばアンタと本気でやったことはなかったね。そのムカつく鼻っ柱、圧し折ってあげるよ」


防戦一方の青年を肉薄し、拳を握るシンクの勢いは凄まじく、ルークたちは攻めあぐねてしまう。


「迂闊にヴァンに近寄るなと、言っただろ!」
「うるさい! 保護者面するな!」


青年の白い仮面が弾かれ、髪を振り乱した顔が一部曝される。その顔を見てしまったシンクが、拳を緩ませた。間髪入れずに青年がシンクの右手を止める。物言いたげなシンクに、しかし暇を与えず右手の甲で頬を張った。緩んだシンクの拳に無理やり割り込み、親指を掴んで外側に捻り、手首ごと破砕した。
たまらず飛び退いたシンクは、目を見開いて忘我したように首を振った。


「隙を見せるなんて珍しいな」
「だって…だってアンタ、その顔……!」


ルークたちから、背を向けるその青年の顔は見えない。しかしルークは見てしまった。初めて見た青年の顔は、見覚えがありすぎるものだった。


「…ああ。お前は俺の顔を見るのは初めてか。ディストは知ってるからうっかりしたな」
「うっかりって…アンタ、もしヴァンに見つかったらアクゼリュスで殺されてたかもしれないのに!」


息を呑む。
それほどヴァンに危険視されていた人物なのか。それなのに、彼は六神将としてヴァンの傍らに長くあり、命を常に晒していたというのは、半ば信じがたい。けれど青年の顔を初めて見たらしいシンクの取り乱しようは尋常ではなかった。
頭が冷えたのか、青年は静かに言う。


「殺される、か。それもまあいいけど、きっと大人しく死なせちゃくれないだろうな。やるべきことは、まだ、終わってねえから」
「何言って…」
「じゃあシンク」


青年はシンクの折れてない方の手首を掴む。


「一緒に落ちるか」
「なっ」
「どうせ俺は地殻に用があったから、ちょうどいい」
「用って…」


戸惑うシンクの手を引き、青年は壊れた鉄柵から迷わず飛んだ。
ルークたちが止める暇もなく。

 

 

 

 

思えば青年の声を聞くたびに、どこか違和があった。聞き覚えがあるのは当然、それがルーク自身の声だから。けれど他人の口から自分の声が出てくるなど、普通はあり得ない。決定的だったのは、シェリダンでルークと彼の声が重なって、それがルークにとって一人分の声のように思えたことだった。
薄々感じていた恐怖は確実になった。自分は偽物かもしれないという、恐怖。


「ヴァンは、この大地を滅してレプリカにするつもりだったんだろう。大地も、家も、人も。だとすれば、オリジナルルークは邪魔でしかない。元々アクゼリュスは崩落が詠まれていたし、何もかもあの泥の中に沈んじまえば身元照会も何もあったもんじゃねえ。殺すには一番都合が良い場所に見える」
「…それで、もし本当にあなたがレプリカだとしたら、どうするんです」
「…他の奴にはまだ黙っているつもりだ。ヴァンを倒す前に蟠りが残って連携を崩れるのは、お前も望むところではないだろう」


本物のルーク・フォン・ファブレとして憎み、そして認めてその胸を打ち明けてくれたガイには申し訳ないと思う。何せ七年もの長い時を、ルークのために振り回されたのだ。
そういうと、ガイは複雑そうにしながらも、笑ってルークの頭を撫でてくれた。


「俺にとってはお前がルークだ。確かに七年前まであいつがルークだったかもしれないだろうけどさ、復讐を忘れさせてくれたお前が、俺にとってのルークだよ。他の誰でもない、俺の目の前にいるお前が」
「それに、何を言ったところで今更、何の用かは知りませんがアッシュは地殻に落ちてしまいましたからね。どうしようもありません。何をしようとしていたのかも、何故譜歌が歌えたのかも、結局わからずじまいです」


地殻に落ちてしまったら、生きて戻ってこられるとは思えない。しかし彼は明確な目的を持って地殻に落ちて行ったように捉えられるだけに、自らの言葉に納得がいかない顔をしているジェイド。
イオンもオリジナルと過ごしていた彼と積もる話でもあったのだろう。悲しげで、惜しがり、悼むように俯いている。
空気はどこか重かった。

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