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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

誰のためにも死にたくない

TOA:逆行ルク


イオン視点
彼なりに奮闘しています。

おかしいところはスルーの方向で

ダアトに帰ったイオンはセフィロトに関する書物を探しながら、頭の中と心に少しずつ整理をつけていた。
感情を滅多に吐露しない青年の言葉は反して重々しく、イオンをその都度揺らしていたが、アクゼリュスが崩落してから、イオンは殊更青年の言葉を考えるようになった。
あのとき、超振動を暴走させようとしていた、目に色のないルークに手を添えて、青年は言った。
 

「目を閉じろ。徐々に力を手に集めるように、意識して」
 

第七音素と光の奔流に押し流されそうになるなか、よく響く声だった。分厚い掌で腕から力を寄せるように手の先へ撫でる。あふれていた奔放な光はやがて統制された一筋の光になり、制御盤へ当たる。
いつの間にかヴァンは姿を消し、力尽きて倒れたルークに駆け寄ったイオンは、自分たちのことなどに見向きもしない青年を見た。
 

「な…何をして…」
「これから言うことは他言無用だ。いいな、レプリカイオン」
「だけど!」
「アクゼリュスはどうしたって落ちる。なら、せめて被害を少なくしたい」
 

冷たくぴしゃりと言い退けられ、イオンは黙らざるを得なかった。
ユリアシティへ向かうタルタロスでも、厳しい目や言葉で詰られる青年を庇えなかったのは、その仮面の下にある目が、時折イオンを試すように細められていたのを知っているからだ。だから、自分の超振動が直接の原因だと潔く名乗り出ようとしたルークの服を掴んで引き止めたのだ。潔癖の気があるルークは、泣きそうになりながら首を振るイオンを、解せないという目で見ていたが。
後にアクゼリュスの地と人民の消失は、マルクト国皇帝と彼との間に密かに取り決められた予定調和だと知って、イオンは複雑な思いを抱いた。
あの青年は、今ジェイドたちがかかりきりになっている外郭大地の危険について確実な情報を多々持っているというのに、一度に手の内を明かそうとしないのは理由があるのだろう。美学や何やで動く人間のようには見えない。
それについても調べようと、数の限られた過去のイオンの情報まで、イオンは掻き漁っていた。
 

「精が出てるね」
 

言葉だけなら労わっているが、混じった嘲るような響きにイオンは扉を開けたその人にきつい目をくれた。
 

「いつから許しもなしに勝手に部屋を出入りされるほど、導師の位は気易くなったんですか?」
「言うじゃないかお人形。モースやヴァンの言いなりでいつも申し訳なさそうな癇に障る目はどうしたんだい?」
「それはやっかみですかシンク。僕はもう、オリジナルの影をなぞらえることはしたくないんです」
 

強気に振り向いたイオンは、しばしまごついているようなシンクと向き合った。
あの青年に比べれば、シンクだってずいぶん表情豊かである。
 

「…は、ただふてぶてしくなっただけじゃないか」
 

何とでも言えば良い。今のイオンは、前まで不動に甘んじていたイオンではない。導師としての義務と責任を負い、自立した考えをもった、過去のイオンと決別を果たした別個の存在として、この場にいる。
 

「……シンクは、これまで彼といて、何かを学ばなかったのですか」
「彼…ああ。なんでいきなりそんなこと訊くのさ」
「僕は彼に大切なことを教えてもらいました。導師としてなっていなかった僕を諫めてくれた。補佐役としてきっと僕たちよりオリジナルを知っていた彼は、僕とオリジナルを混同したりはしなかった。シンクは? あなたは僕が導師としていた二年間、彼といたんでしょう?」
 

シンクは癇に障ったような顔でイオンを見ていたが、否定はしなかった。シンクもイオンと別なところで彼との関係に執着している。
イオンは、気に入らない様子のシンクに小さく笑った。
 

「だからシンク、僕はこのままじゃ嫌なんです」
 

大切な人間を守るために無力なままでは、それも叶わぬ夢である。せめて、自分の身を守れるくらいにならなければ。
 

『味方じゃなくていい、敵じゃない奴を作れ』
 

「アリエッタを呼んでください」

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