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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

誰のためにも死にたくない

TOA:逆行ルク


本編(崩落編)
ジェイド視点


いろいろおかしいのはスルーの方向で。
協会を中心に裾野が広がるように街を展開するダアトで、先行していたアニスと合流した。
どうもナタリアはイオンと共にひとつの部屋へ閉じ込められているようで、神託の盾騎士団に見つからないように、ジェイドたちは建物の中へ入っていった。トリトハイムに会う前にモースとリグレットの会話を立ち聞きし、限なく襲いくる兵たちを歌で、武力で気絶させ、進んでいくうちにふと中庭が見えた。
頭から布をかぶったような出で立ちの、重そうな黒い外套の青年と、顔半ばまで隠した身軽そうな少年が並んで何か話していた。
アニスがそれに気づいて顔をしかめる。


「げ、面白仮面コンビ」
「ははは、言い得て妙ですねえ」


明け透けで子供らしいアニスの軽口に、ガイは苦笑し、ルークは不機嫌ぎみに眦をあげた。


「ふーん。じゃあヴァンは、復讐なんてそんなくだらない理由でこんな大ごと考えたわけ?」


シンクの、若干見下すような声に、一行の進みかけた足が再び止まった。


「……ずいぶん興味深い話ですね」
「……なんか、俺たち盗み聞きスキルが上がってないか?」
「言うな…」


疲れたように嘆息するルークの声にかぶさり、彼らの会話は続く。


「あの人、人望もカリスマもあるのに、極端に走るのが欠点だよな」
「致命的じゃない。ところで、このあいだ地震があったときにルグニカの方が沈んだんだけど、これもアクゼリュスの弊害?」
「沈んだ? 崩落じゃなくてか」
「さあ。アリエッタがライガの様子を見にいってる」
「そうか…一応アクゼリュスのセフィロトは切り放したつもりだったんだけど…急いで降下させないと次はセントビナーが落ちる。だけど戦争も始まるし……」
「……アンタ、ほんとに何でも知ってるね。見えてんじゃないの?」
「何でもは知らない。知ってることだけ知ってる」
「またその言葉…人手が足りないんなら正義の味方一行にでも協力を要請すれば?」


揶揄するように笑うシンクに、青年は顔をしかめて言う。


「あいつらにはあいつらのやるべきことがある。あいつらが生きて、各地でその姿を見せることで俺は根回しに専念できる」
「ディストは? アリエッタはどうなの」
「ディストにはこの先のことを見越して、別のことを頼んでいる。アリエッタは…駄目だ、彼女はまだ知らないから」
「アンタみたいになれば世話ないよ」
「お前にも一枚かんでもらう。好奇心で首をつっこんだことを恨め」
「ヴァンに密告するかもしれないのに?」
「それぐらいで揺らぐものか」


風が吹いて、木々がざわめく。風に吹かれてまくれたフードをかぶりなおした青年と、ジェイドの目が交錯した。
ああ、自分たちがいるのを知って、今の話を聞かせたのか。


「…行きましょう。もう彼らから有益な情報を入手できないでしょう」


詰めていた息を吐き、止めていた足を進める。ガイの傍にいたルークが、ジェイドの傍らに移り、ほかに聞こえないような小声で話し始めた。


「…気になるな」
「ええ。どうも彼らは他の六神将とは違い、絶対的な忠誠・信頼をヴァンに寄せてはいないようですね。それに…」


 ―ヴァンに密告するかもしれないのに?
 ―それぐらいで揺らぐものか


何が揺らぐのだろう。


「とにかく、セントビナーが落ちるかもしれないのならば急がないと。彼はただヴァンに協力的なわけではないとはっきりわかっただけでも良しとしましょう」


釈然としない顔でまだ言及したがっているルークを黙殺し、苦々しい思いで先を進む。
自らの汚点ともいうべき過去の産物が、今になってその核に抵触するようなことばかりジェイドに当てつけるように姿を見え隠れさせている。超振動と思しき光に包まれたあの青年や、超振動を単独で使えるルークに何か邪推を思わずにはいられない。
冗談ではないと眉をひそめるのを禁じえないジェイドであった。
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