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- Date:2024年11月23日
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ジャンル無差別乱発
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導師イオンの腰に、見慣れないてるてる坊主みたいなものが張り付いていた。真っ白い、教団支給の外套。サイズが合っていない上に、フードを深く被っているものだから、そんな印象を一目で受けた。よくよく見ればそれは十歳程度の子供で、敵氣心もあらわに周りを威嚇している。
謁見のときには、こんな子供はいなかったはずだが。
そう思って、導師を見たが、何を勘違いしたのか、苦笑して言った。
「すみません。ついていくと言って聞かないので…ご迷惑はおかけしませんから、一緒にいさせてくれませんか?」
お前の守護役が、誘拐されたお前を助けてくれと言い出した時点で既にご迷惑こうむってるんだが…。そう言えたらいいんだが、子供になんて冷たいと文句を言うどこぞの軍人どもが最低二人はいる。あれ、そういえばどちらも両方ダアトの人間じゃないか。ダアトは俺の胃と毛根を死滅させる気か。ふざけるな。
幼名ルークことアッシュは、しかし謁見の間以前とどことなく雰囲気の違うイオンに何も言えなかった。本能のどこかで、逆らってはいけないと警鐘が頭の中で響き渡る。
「……わかった」
「ありがとうございます。改めまして、この子はルークと言います」
捨て去ったはずの名前が他人のものとしてでも蒸し返されるのはあまり良い気がしない。極力この子供に近づかないようにしようと決意したアッシュを余所に、それに反してティアやアニスが彼らに近寄る。
「こんな可愛い子、教団にいましたか?」
「っていうかイオン様、いつこの子を連れてきたんですか」
「ああ、元々ルークとは一緒にいることも多かったんですが、バチカルでモースが手籠めにしようと連れているのを見つけたので、可哀想だから一緒にきたんです」
うっかりモースのお稚児趣味が暴露され、顔を引きつらせる面々を放置して、イオンはルークの頭を撫でる。
しかし、外套は足元すら覆い隠すほど大きい。いくら砂漠の熱射病対策だとはいえ、これでは滅多な風も通るまい。暑くはないのかと思い、ルークを見れば、わりかし平気そうにしている。
「おや、ルーク、久しぶりですねぇ。私のこと、覚えていますか?」
「大佐知ってるんですか?」
「ええ。以前もイオン様とお会いしたときも、一緒にいましたね……っ」
「ははは、旦那嫌われてるんじゃないのか?」
笑うガイが見る先は、指先を思いきりかじられたジェイドの手である。それをなだめようとして頭に手を乗せたガイの腹にも、けっこういいパンチが入る。ガイが唸ってよろめいた。
「ぐるぅるるるうう…」
腹の底から響くように威嚇し続けるルークに、ナタリアが膝をついて目線を合わせる。
「いくら怒ってるとはいえ、人にいきなり噛みついたり、殴ってはいけませんわ。わたくしたちには、神が等しく与えたもうた言葉というものがあるのですから」
子供にその叱り方は如何がなものだが、ルークはさっさとイオンの背に隠れて、また唸り始めた。嫌われたかと消沈するナタリアに、とりなすようにイオンは言う。
「すみませんナタリア。この子は、言葉を話せないんです。いくら教えても、話そうとしないんです…」
「あら、そうでしたの。わたくしったら…」
「でも、もしかしたら話したくないだけじゃないのか?」
「僕もあまりにも言葉を話さないので、ジェイドの診察を受けさせてみたのですが……」
「あのときは酷いものでしたね。暴れるわ、ひっかくわ、噛みつくわ、火を吹くわ」
「火を吹く?」
それくらい凄まじい勢いだったのですよとジェイドは胡散臭い笑みを撒き散らして懐古する。
「精神面も未熟だったので、過去に虐待か何かあったのかもしれないと、それ以上は詮索しなかったんです」
「そうでしたの…わたくし、軽率だったようですわね」
未だにイオンの背に隠れているルークに、ナタリアは淡く微笑んで寄る。またぞろ噛みつきやしないかとひやひやする婚約者に気づかず、ナタリアはしゃがみこんでルークへ笑った。
「申し訳ありません。少々大人げなかったですわね。わたくしと、お友達になって下さる?」
ルークは数回鼻をひくつかせると、不安げにイオンを見上げた。イオンが許可を与えるように頷いて頭を一撫ですると、ルークはナタリアの服を掴んで抱きついた。それにアッシュが逆上する。
「こンの、……! ……っ!」
「あーあ、婚約者取られちゃったね、アッシュ」
「あははははは、青春は心の青痣ですねぇアッシュ」
「うるせぇ屑が!」
にやにや笑ってからかうアニスやジェイドにいいように遊ばれるアッシュの手に、追い討ちをかけるが如く、ルークが噛みついた。