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- Date:2024年11月23日
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ジャンル無差別乱発
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すっごい不本意だが、大筋があつらえられたゲームのシナリオに添っている。少しずつ道を外れてみても、やはり大して変わらない。ある種、預言の強制力と何ら代わり映えしないと苦々しいばかりだ。
ああムカつく。俺って人に指図されんの、嫌いなんだよな。ちくしょうあの×××××が。
ルークは鼻に皺を寄せてパネルを見た。
僅かに先の未来を覗けるパネルを夜中に一人で見るのが日課になってしまったルークは、寝不足の目をこすりながら、次の目的地に思いを馳せた。
シェリダンでジェイドたちの思惑を阻もうと謀った六神将とヴァンが、シェリダンやベルケンドの開発者を撫で斬りにすべく立ちはだかったのを前にしても、ルークは物怖じひとつしなかった。勇猛に立ち向かった老人が凶弾に倒れ、その魔手が若年の者にまで及んでも、歩みを鈍らせたりはしなかったのだ。
ただ、何かの義務のように当然の如く、魔訶不思議反則ハイスペック能力で先陣を切っていたリグレットを三角ビキニに着せ替え、背中に『おそってください』という貼り紙を瞬間接着剤で貼った後、何の有り難みもなくほいほい登場するラスボス・ヴァンの服を剥いて全裸にしてから亀甲縛りにしても、弑されるままの開発者を助けなかったルークに、批判的な目が集中したが、彼は意に介さずタルタロスで不敵に立っていたシンクをぼこ殴りにし始めたので、同行者ももう何も言うまいを徹底したのであった。
「お前の人生無駄だらけだなぁ…」
「は?」
「いや、いいけどな、人生寄り道も経験だって言うし。けどさぁ、お前すっげぇ後ろ向きだな、そんなにネガティブの経験値増やしてどうすんだよ。くだらないこと考えると毛根に至るまでお先真っ暗だぞ?」
「はっ、何それ。成功例のちゃちな贔屓目でも自慢したいわけ? ヴァンに裏切られてもまだ優越に浸れる神経はいっそ尊敬に値するよ」
「お、何だ失敗作。やっかんでるのか? ははは、許してやるさ、俺は優しいからな。存分に羨んでもいいんだぜ。サインしてやろうか?」
嘘だ。絶対嘘だ。
口には出さないものの、かつてないほど心の同調を見せる同行者。今の彼らがタッグを組むのならば、ロニール雪山区域の魔物も、ザレッホ火山付近の魔物も瞬殺だろう。
見掛けにころっと騙されそうな清々しく爽やかな笑みで笑うルーク。しかしけっこうえげつないことを言っている今なら外面に騙されることもない。
今はぼこ殴りの目にあったシンクの仮面の下は何故かこちらにいるイオンと同じ顔で、彼やあまつさえイオンまでもがレプリカであることが明かされたシリアスな場面のはずだ。確か。
「ふ…ざけんな! 誰が羨むか! 馬鹿じゃないの!?」
「ジェイド、俺馬鹿だって、どうしよう、あははははは」
箸が転がっても笑い出しそうなルークであるが、彼が黙って罵声を浴びたままなど有り得ないと知っているジェイドは、話をいきなり振られて心底困った。というか、関わらないで欲しい。
だって彼、前髪で見えないこめかみが、絶対ひくついている。
「……潰してかまわないんじゃないでしょうか。敵ですし」
「体力が少ない相手に追い討ちかけろって? さすがジェイドは言うこと違うな。この鬼畜ぅ」
だったらどうしろと。
っていうかアンタに言われたくない。
ジェイドをからかい貶めながら、ルークは歪に笑った。
あ。やばい。
彼の変化に殊更敏感なガイが小さく呟く。
ルークはここ最近、ずっと怒っていた。
例えキムラスカに死地へ送られたという記憶がなく、その事実を後から知らされたとしても、彼にはそれが赦せないらしい。あれだけ皇帝をトラウマの如くいじり倒しておきながら気に入ったらしく、あのままグランコクマに住むマルクトに亡命すると騒いで周りに甚大な被害をもたらしたのに、無理にキムラスカへ連れて行かれてやっぱり殺されそうになって、命からがら(というわけでもなく)逃げてきて、ついに我慢の限界(あったのか)を迎えたようだ。キムラスカだけは救うものかと息巻いていたがその甲斐なくナタリアと衝突し、渋々ジェイドたちと共にキムラスカを含む世界を救う一行としてくくられることに甘んじているフラストレーションが、今まさに爆発するのであろう。
元々異世界出身である彼はこの世界の行く末に残酷なほど興味もない。自分が死ぬかもしれない恐怖はあるのだろうが、少し勝手ができるからか、その実感も薄かった。その点で義務感の強いティアやナタリア、死にたくはないであろうアニス、乱暴な彼の言動をなだめるガイと、ことあるごとに対立し、武力行使に出ている。
その彼が、マルクトやキムラスカの肝胆さむからしめる酷薄な笑みを浮かべているのだ。わかりやすいが、それ故に規模も知れよう危険信号に、余波は免れないだろうが甲板の隅ぎりぎりまで縮こまるジェイドたちを一瞥し、ルークはゆっくり恐怖を刻むように蹲るシンクの方へ歩いていった。
「それで偉そうにご高説垂れてるテメェは何が立派なんだ? 世界の理不尽や人の醜さはレプリカなんかいなくともそんなモン、始めっからあるぜ? まさか今更なことに子供みたく不満を持ってるわけだ。そういやテメェはイオンと同じときに生まれたんだっけな。へぇー、確かに子供だな。いいぞ、もっと文句を言っても。年長者たるこの俺がテメェの訴える不満とやらを聞き届け、その上でひとつひとつ完膚なきまでに叩き潰してやろう」
何かに警戒するように身動ぐシンクの顔を蹴たぐり、背中から思いきり踏みつける。みしみしと踏みしだく念の入りようだった。
どうやら彼は、体力の次は気力をも絞り取るらしい。
「甘ったれてんじゃねぇよジャリタレ。生まれて捨てられるガキなんざ珍しくねぇっつーの。しかも大概は生き残れずに死んでゆく。母親の腹殴られて生まれることもできずに消えていくガキだっている。そのガキどもはテメェみてーに恨むことすら知らずに死んでくんだぞ!」
だから何だと果敢に睨みあげるシンクの頭を更に蹴りつけ、甲板の冷たい床に押し当てる。ごっ、と重たい音がした。
「刷り込みだろうが何だろうが、知識を持てたテメェの今の体たらくは何だ? 力が優れているとか後から取ってつけたような理由で選ばれたイオンを羨んでるばっかで、テメェはどんな大層なことしたんだ、ああ? 人ぶっ殺してただけだろうがよ!!」
「知った、ような口を叩くな…っ!」
「知ったような口だぁ? 知らねーに決まってんだろ。テメェこそ何知ってんだよ。俺の何知ってそんな口叩きやがんですかあ?」
踵でシンクの顔を抉るように捻りながら踏むルークは、やはり楽しそうである。しかしその目は炯々と悪辣に輝き、私憤に濡れている。
色街など行ったことのないナタリアたちは、子供を堕ろさざるを得ない遊女がどんな扱いを受けているのかなど、知らない。けれども彼が語る言葉はその場繋ぎな言葉でないとわかったらしく、青い顔をしていた。
「イオンが羨ましいか。だがイオンは知る権利も持たず無知のまま、体の良い改革派をうたったヴァンやモースのお人形さんだ。人をあげつらえるくらい立派で、どうこう口挟んで言えるほど偉い他人のつもりかテメェ。自分が可愛いだけだろ」
かわいそうに。
「き、さ、まぁぁああ!」
哀れみを浮かべたその笑みが決定打だった。
ばねのように体をしならせ、弱っていたのが嘘だと思うくらい力強くルークの足を振り切ったシンクは、彼の胸ぐらを掴んで甲板に叩き伏せ、殴りつけた。
ガイがかまえるが、彼の目がそれを押し留める。
シンクは獣の如き雄叫びをあげながらルークの頬を張り倒すが、それでもルークの目には楽しげに嘲弄する光は消えない。しまいには声をあげて笑い出したルークを気味悪がるようにして、シンクはようやっと殴る手を止める。ルークのぷっと吐き出した血がシンクの顔にかかり、ルークはシンクが怯んだ隙に彼の脇腹に足を差し入れ、ひょいと退かす。
立ち上がったルークは、やはりにやにやと笑っていた。
未知を目の前にしたシンクの、仮面に覆われていないその顔は、白く青褪めている。
「……んなんだよ、アンタ…」
弱々しく呟かれた音は、確かに恐怖していた。
「それはお前の方がよく知ってるだろう?」
「だって、アンタ、なんなの…………、」
「大体あのチキンもテメェも、鬱陶しいんだっつーの。生まれてきたくなかったら独りで死ね。自分が生まれた原因を憎め。お門違いなんだよ、テメェも、あのうじうじわけのわからん理屈こねて独り善がりに浸ってるチキンも。こぉんな無垢なレプリカ捕まえて、弱い者イジメして楽しいのかねぇ」
いや、あなたは間違いなく強者ですけど。
アニスの隠れた突っ込みが炸裂する。
おさまったらしい彼の圧倒的な剣幕に、ジェイドたちは知らず詰めていた息をゆっくり吐き出す。
だから、油断、した。
「てなわけで、お前邪魔」
シンクが、タルタロスから放り出された。後を追わせるように、ルークは歪んだ仮面を続けて投げる。
イオンの悲鳴が甲板に響いた。
「ルーク! なんてことをするのですか!」
「んだよ、アレ敵だろ? これからの展開に、何かしら役立つ情報もアイテムも持ってないだろ」
「だからってこれは、あんまりですわ!」
「いいじゃん。あいつもこれ以上くだらないことにかかずらわなくて清々してるんじゃねぇの?」
にこやかに告げるルークに、皆、一様に怪物を見る目付きをしている。
こうもあっさりと。こうも軽々しく。
命の等しさを語る口で、いっそ鮮やかなほど同じ命を蔑ろにしてみせたルークの気が知れない。
「生憎俺は発達心理の専門ではなくてな、あいつの言う、生きるために必要とされるっていう必要性が理解できないし、それが成長過程でどう心身に作用するのか詳しく知らないんだ。死を理解できないってゆーお前と、ある意味お揃いだな」
甲板の端で落とされたシンクの姿を探す心優しい仲間とは別に、目を厳しくさせていたジェイドにルークは笑いかける。
「あなたとなんて、一緒にされたくありませんね」
「ははは、俺もいや。ま、この世界にまだ必要とされたら、生きてるだろうさ」
軽く笑った後、ルークは眩しそうに言った。
「自分が生きる意味なんぞ、自分で探すもの。自分の居場所なんぞ、他人と自分で妥協したり騙し合って作るものだろ」
なびく彼の赤く短い髪に風の流れを見ながら、ジェイドの胸中は複雑だった。
彼がこれほど他人を介さない性格でなかったら。彼がこれほど自分に自信がなかったら。彼がこれほど周りを信用していなかったら。彼がこれほど知識を持っていなかったら。
彼が、彼である前のルーク・フォン・ファブレだったら。
こんなにも残酷で敵を容赦なく薙ぎ払わず、こんなにも冷静で人の命を見捨てず、こんなにも恐ろしげで仲間を虐げず、こんなにも安定してレプリカである体を受け入れていなかっただろう。
強く光る目や真っ直ぐ佇む背中は、ジェイドの訝しげな探る視線をいなして、悠然としている。彼の口から語られる言葉は迂遠であまり大切なことは言わない上に人の心に爪を平気で立てるのだが、絡む思惑に波風ひとつ立たない強さがある。
「…両頬を腫らして言っても格好つきませんよ」
「ぶっ殺すぞ」