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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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その一瞬が押しつけがましい。

DMC4:N→D

ネタから引用。
タイトル拝借「idiot」

大筋は知っているけれど未プレイなので無茶苦茶。
使い古され、くたびれたソファに座り、アイマスク代わりに、体の露出具合がほぼ全裸に近い女が表紙の雑誌を顔に置いて午睡を貪る。仮にも営業を、生活の糧を支える仕事とする人間のする態度ではないが、生きてゆける見込みのある大きな収入は合言葉ありの大仕事だけと理解している上に、こんな人の目を避けるように建っているここに一般人が立ち入ることはまずない。


「よう、おっさん」


然るに、用向きもなく自分に声をかけるこれは大した好き者ということだ。
ダンテは雑誌が作る小暗がりの中でため息を吐いた。
彼の右手が、かつて力を欲し我を失った兄の気配がしたために、つい大人気なくからかったりおちょくったりしたというのに、この人間は何を考えてかよく自分を訪ねる。少し左右に跳ねる銀髪に目も覚めるような瑠璃色。ここまでダンテと同じ特徴の人間など、ダンテは父と片割れしか知らない。母をそれなりに(けれど悪魔という少し変わった生まれとして同族には理解されぬほど)愛していたので、父の浮気とは思えないが、父やそれに類する血が入っているのだろう。


「なあ、おっさん、おっさんってば!」
「何だ坊や」


前は声などかけずに赤の女王と冠する得物で命を刈り取るべく強襲してきたくせに、ずいぶん馴れ馴れしくされてしまったものだ。まあ、襲撃を悉く返り討ちにして地べたと仲良くさせていたから、今更手を出すつもりなどないというつもりなのだろうか。信じはしないが。


「人と話すときは目ェくらい合わせろよ!」


雑誌が取られ、薄暗い室内に差す外の光に目を眇める。扉は開きっぱなしだった。目を逸らせば持ち上げた雑誌の内容に顔をしかめる子供がいた。
この子供はつくづくダンテのなあなあな気質が気に食わない潔癖らしい。故郷のフォルトゥナにキリエという想い子がいるからか、少し誠実というか実直というか、とにかく廃れたこの街にいる人間とは毛色が若干違うと、しばらく見ていてわかった。だからといって悪魔の血や脳漿を浴びることに抵抗がないというのだから、やはり何を考えているのかわからない。
子供はダンテの顔に視線を寄越し、目をくるりとさせた。


「おっさんが若返った…」
「…………ああ」


無精髭がだらしなく伸びてきたのを見たレディがあまりにひどいから剃れと言ってきたからだ。鏡を見ると力を渇望した悲しい兄を思い出すので何となく嫌だったが、確かにみすぼらしかった。


「うわあ、別人みてー」


子供は目を輝かせてダンテの顔を見ていたが、その顔を押しのけてソファから体を起こす。小腹が空いた。


「でもなんか嫌だな」
「何がだ」


冷蔵庫には何もない。なけなしのミネラルウォーターのボトルが数本。ああ買い物に行かなければ。


「おっさんがなんか知らない奴に見える」


ボトルの中身を飲み下す喉の動きが僅かに止まる。
丸々一本を空にして、見れば子供は拗ねたような顔。胸から何か詰まるような物が込み上げて、吐き出すようにして失笑する。
はっ、


「何だよ!」
「別に」


元々そう深い付き合いではない。目的のためにかち合ったのは偶然に過ぎない。
なのにこの子供はなかなか知られていないこの場所を見つけ、何故か暇を見つけては顔を出し、図々しくも泊まってゆく回数も増えた。ちらほら目に付き始めた子供の私物に何度苦々しい思いをしたか。


「さっさと故郷に帰りな坊や。待たせ続けて女を泣かせるもんじゃねーよ」
「キリエは家族だ」
「女だろうが家族だろうが泣かすな」


ダンテは死んでも泣いてくれる女も家族もいない。実の親を亡くしたこの子供も、それの大切さは知っているだろうに。ここで新たに馴れ合う人間を増やす意味は、ない。
俺はあんたが好きなのに、と拗ねたように悲しそうに呟く声を、ダンテは聞こえないふりをした。
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