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- Date:2024年11月23日
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ジャンル無差別乱発
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「──ということで、俺としては国家紛争の火種にはなりたくない。子供もいるんだし、ここで静かに暮らしたいだけだ。帰れ」
手で振り払う仕草を大儀そうにするとりつく島もない様子のクラウドに、スコールたちは食い下がる。
「俺たちに信用がないのはよくわかった。しかしあんただって、子供が理由もわからずに連れ去られるのを看過するのは、本意じゃないだろう? 互いの情報を開示して意見を交換した方が、」
「……勘違いしているようだが、俺は別に子供が好きというわけじゃない。ここにいるのだって、親がいない子だけだ。保護者のいる子供まで面倒を見る余裕は、ない」
「ガルバディア軍の徴兵だとしたら、どうするんだ」
「知るか。ガ軍は切羽詰まって非合法な徴兵をするほどの人材不足なのかと、笑うだけさ」
「…………」
「情に訴えて情報を引き出すのは、聴取の基本手段だな。悪いが、俺はガルバディアやエスタのどちらも、どうなろうが知ったことじゃない」
クラウドは鼻を鳴らした。
口ぶりから、彼は政治権力に関わりを持ちたくないようだ。毛嫌しているとも思える。
「戦争が始まればここも危ないのよ」
「この森が焼き払われそうになったら、我が身のことと思うさ」
ゼルが恨みがましい目で見ようが、キスティスが難じるように募ろうが、にべもないクラウドに食い下がるに難く、スコールはため息を吐いた。
「ならば、この森に危害が加わる恐れがある場合なら、協力を得られるということだな?」
「…ヴィンセント」
念を押す口調のスコールが癇に障ったのか、ソファに深く座っていたクラウドは、いらえを返さず眉を歪めて足を組み替えた。
相変わらず気配の薄い男はクラウドの後ろからスコールたちを見下ろしている。
「お帰りだ。天下のSeeD様を送ってやってくれ」
「……私がいない間に、またどこかに出向く気か」
「いや、少し様子を見る」
「そうか」
スコールたちを追い立て、居座るつもりだったらしいサイファーの襟ぐりを掴んで、ヴィンセントは戸口へ歩く。
「おい、俺はガーデンに帰るつもりはねぇ!」
「ここに居座る許可を出した覚えはない。ガーデンに帰りたくなかったら、責任者と話をつけろ。けじめもつけられないガキはお断りだ、馬鹿者」
サイファーの尻を蹴っ飛ばし、クラウドはその鼻先で扉を閉めた。二度と来るなと言わんばかりの強い拒絶に、今日のところは日を改めてとゼルやキスティスは諦めてため息を吐いた。
「森を抜けるまで送ろう。今はまだ、モンスターたちの気も静まってはいまい」
「だから! 俺は! ガーデンには帰らねぇ!」
「それを理由に、ここにとどまられては、迷惑だ」
一太刀でサイファーを黙らせたヴィンセントを追い、森へ歩きだしたスコールは、もう一度だけ、歪な家を見た。
外に出ていた子供を迎えるクラウドは顔こそ見せないが、口辺に柔らかな笑みを浮かべている。それが、昔、毎日遅くまで遊んでいた身寄りのないスコールたちを玄関先で出迎えてくれたイデアと雰囲気がよく似ていて、スコールはあんな優しげな顔付きもできるのにと複雑な気持ちに駆られた。
森はまだ冷気を残し、それに混じって血臭が時折香る。ガルバディア軍の兵士が持っていたのだろう、銃火器がひん曲がって機能を失い、打ち捨てられていた。さすがに頭ごと凍って砕けた人間のシャーベットなど、お目にかかりたいと思える代物ではなく、なるべく視線だけは前に固定して、ひたすら歩いた。
薄気味悪いほど静かだった。
鳥や獣はおろか、モンスターまでがその存在を潜め、森はいっそ厳かに静謐を保ったまま沈黙している。そして何より、草の根を分け入って歩いているというのに、先を進む目の前の男からは、足音がとんと聞こえない。
「ヴィンセント、と言ったか」
「…」
「何故彼はこんな人の行き交いが難しい場所を選んで住んでるんだ? 子供を育てるのならそれなりに入り用だろう? ここからエスタまでだって、けっこうあるのに」
その上、モンスターが跋扈する森の奥に居を構えたりなどしては、不便さに拍車がかかるだけのように思える。
ヴィンセントはしばらく黙秘を続けていたが、ふと小さく息を吐いた。
「あの子供たちは皆、クラウドが仕事の出先で見つけてきた戦災孤児だ。………多少なりとも誰もが人間を恐れている」
「……………」
「二十歳を過ぎたらどこぞの街へと追い出すが、それまである程度人に慣れなければならない。短絡的と言えど、身近にモンスターがいる環境でショック療法でもしているのではないか」
「あんたは何も聞いてないのか?」
「あれの考えることなど、今も昔もわからん」
「付き合いが…長いわけじゃない、のか?」
「長いと言えば長いな。何かと死線も共にくぐった。だが、わからんものはわからん」
共同生活をしている間柄のわりに、あっさりとヴィンセントはクラウドに対する探求を放棄している。相互理解を求めた上での断念か、元より相手を知る気がないのか、スコールにはわからなかった。しかし、どちらも己のことに関して、自分から誰かに話そうという類に見えぬ寡黙さを潜めている印象があるからか、差し向かって歓談に耽るこの二人という図がどうしても浮かばない。
「……あんたたち、戦争屋が嫌いだって言ってたな。その死線をくぐったってときに、何かあったのか」
「お前たちに話して理解できる内容ではない」
すげない一言に眉を寄せたが、木々の影からひょこりとオチューが出てきて、仕方なくガンブレードを構えた。反して花弁と蔦、口のみの顔の植物型モンスターは、臨戦体勢のスコールたちを前にしても、物言いたげに体を揺らすだけだった。
ヴィンセントが静かに言葉を紡ぐ。
「クラウドは、しばらくこっちにいるそうだ。しかし気まぐれのあいつはいつどこに行くとも限らん。先約はしておくものだ」
心得たように花弁を揺らし、オチューは再び森の奥へと去っていった。
「…あれは、あんたたちの愛玩動物か?」
「いいや」
「つかおかしいだろ! 今あいつ確実にあんたの言ったこと理解したって!」
騒ぐゼルを一瞥し、ヴィンセントはゆっくり歩を進める。やはり足音は最低限も聞こえない。
「あれらはいつも退屈している。だから、遊んでくれるクラウドがいるか、会うたびに尋ねてくるのだ。奴らにとっての遊びが、私たちの戦闘と変わらんと、いくら言ってやっても覚えん」
加減が利かないときはどうしてくれる、と、憤然とため息を吐くヴィンセントに、キスティスが 「やっぱりそれ、ほとんどペットじゃない」 と呆れたようにひっそりと呟いた。
森を出てすぐ脇に、放射線上に黒炭となった車のスクラップが散らばっている。その中心には、何かで鋭く抉ったような跡が残っていた。
ヴィンセントはそれを見て冷たく一笑した。
「ふん。一応手加減はしたか」
「あれで!?」
中にいた人間は声を上げることもなく炭化し仰せただろう。小型のモンスター相手ならば同じ途を辿っていたに違いない。スコールのG.F.であるケツァクァトルのサンダーストームを一点に落としたような有り様だ。
押し黙るSeeDの精鋭に、ヴィンセントは鼻を鳴らした。
「クラウドや私が本気を出せば、この森の半分を消し去り、半分を焼き払うことができる。これはただのサンダーだ」
「……あんたたちは、どうして魔法を行使できるんだ」
うがったスコールの疑問に、キスティスやサイファーが息を呑む。
SeeDたちが魔法を使うには、G.F.そのものをジャンクションする必要があり、使用回数に限度がある。現在G.F.のジャンクションは、ガーデンで施設を使い、SeeDや候補生へ優先的に執り行われている。一部魔女というカテゴリにおける人間を例外に、そういった手順を踏まねばG.F.の恩恵に与かれないのである。
警戒を始めるスコールたちを差し置き、ヴィンセントは森へ踵を返した。
「確かにG.F.はお前たちの専売特許らしいがな。私たちは、それとは別の方法を知ってるだけだ」
「おい、」
「お前たちはクラウドから森に入る許可を得られなかった。ここへは来るなということだ。個人の依頼でなら、私書箱に送れば、内容次第では安全にここへ再び訪れることもできよう」
「待て!」
いくらスコールが声を張り上げても、ヴィンセントの赤らかなマントは、止まることなく木陰に消えていった。