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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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Missing reminiscence [2]

FF:7→8


早いようで遅い。
キスティスをかいてるとき、何故かティアを思い出した。

 時はその日の午後に遡る。
 うっかり不審者として自警団にお縄を頂戴される羽目になってしまったスコールとキスティスは、バラムガーデンの指揮官や指揮官代理にあるまじき失態に、駐在所で頭を垂れていた。スコールのおざなりな変装もさっさとかなぐり捨てた今、前の大戦の立役者の登場に青くなるやら目を瞠るやら、気まずげな人間が異常に増えたが、それは割愛する。
 気さくな取締役には快活にこそ笑われたが、こんな話がガーデンで出回れば、向こう当分不名誉な泥を被ったまぬけな指揮官と言われてしまうに違いないと思うと、やはり己は人に命令する仕事など向いていないのだと自信をなくしてしまう。どこまでも無表情ではあるが。


「そういうことが最近多発しているので、何か情報がないかと思ったんですが、その矢先にこんなことになってしまって……亡くなったシスターさんにはお悔やみ申し上げます」


 自警団の人間に、めぼしい情報を持っている者はいなかった。自分たちの町が無事ならと、多くがそれを知らなかったのだから、当然の帰結である。


「それで、最後にあのシスターに会ったらしい、外套を被った金髪の人って、ご存知ですか?」
「金髪…?」


 眉を寄せた取締役は、無精髭に指を宛て、軽く掻きながら目線をキスティスの頭上に傾ける。そこに探し人が立っているかのようだ。


「…ああ、あの人は怪しいモンじゃないよ。ナリこそ怪しいが、一応あの人は運び屋だ。ずいぶん前からいろんな場所に何かしらを届けてるみたいだな。うちも急ぎの知らせのときには世話になってるよ」
「運び屋?」
「危険な場所でも荷物に傷のひとつも付けずに運べますって歌い文句の、アレさ。もちろん非合法な商売だが、非合法なモンは運ばねぇ、義理堅ぇ兄ちゃんでな、無愛想だが腕前は立派よ。若ぇのに、感心なもんだ」


 町の人間には、どうやら既知の仲の様子。絶えかけた人物像が再び浮上し、スコールとキスティスは人心地つく。


「それで、その人の店は?」
「さあ…依頼するときゃエスタの私書箱に書留だから、店を持ってんのかすら…あの人が住んでるところを知ってんのはシスターぐらいだったんだがなぁ」
「そう、ですか……」
「名前ならわかるぞ。クラウド。クラウド・ストライフだ。偽名か本名かは、知らねぇがな」


 駐在所から解放された二人は、人目のつかない物陰に入って無線を取り出した。チャンネルを合わせてしばらく雑音をやりすごすと、元気の良い声が飛び出す。


『はいはーい! こちらセルフィです。どうぞ!』
「スコールだ。至急調べて欲しいことがある。端末は今使えるか?」
『スコールはんちょ? 了解了解! 何調べるん?』
「端末チャンネルはα-35159に変更。調べて欲しいことは、運び屋のクラウド・ストライフについて、現住所と彼の経歴だ」
「エスタのどこかに私書箱を貸し切っているらしいわ。そこから辿れると思うけど…」
『んー、じゃ、絞り込みに時間食うかもしれないから、少し時間ちょうだい。わかり次第そっちに報告するから、チャンネルは変更後そのままで』
「ああ。頼むぞ」


ブツン、


 送信ボタンを切り、町を見遣る。時間帯はすっかり西日になった頃で、まだ教会は黒く色を変えて、そこに佇んでいる。町のどこからでも眺められる景観は、一夜の内に様変わりしてしまった。


「やりきれないわね…」


 キスティスが呟く。スコールも同感だった。
 その一本向こうの道で、サイファーと探し人が捕物劇を興じていたとも知らないで。

 


↑↓

 


〈ピッ、ガー………答…む、応答求む……目標…動…始……ガガッ……ピー、ガガガッ…こち…3029…応答………標行動開……ガー……ピピッ〉


ブツン

 


↑↓

 


 セルフィから連絡を受けたスコールは、端末から縮図のホログラムを映し出す。セルフィの情報と照合して、スコールは眉を寄せた。
 何もない、荒涼とした砂地が続く場所の真ん中に、件の人物の住まいがあるという。
 名前からして恐らく男。十何年か前、スコールたちが生まれて少し経った頃に運び屋を始めたらしい。初めは信用も何もなく、下請から徐々に信用を広げたようだ。金髪の頭を時々晒すくらいで、いつもゴーグルで目元を隠して、顔を見せないため、年齢は不詳だが、若いのではと彼を見た者は口を揃える。現大統領就任後のエスタの戸籍に彼の名前は挙がらず、セルフィ曰く、ガルバディア出身で大戦後に流れてきたかもしれないとのこと。今後の行動に響く可能性があると、キスティスは顔をしかめた。


「本当にそんなところにいるのかしら」
「私書箱を借りる際に名前と住所は不可欠だ。人が住める場所として、承認されたということだろう」


 一先ずエスタに戻り、預けていたガンブレードを返してもらい、スコールは肩の力を抜いたようにため息を吐いた。


「援護に、誰か手空きの者を呼ぼう」
「ええ、そう思って、連絡を入れたわ。ゼルが来るそうよ」


 暴れたいみたいねと笑うキスティスに、スコールも本当に小さく苦笑いをする。


「26分後の急行で来るって言ってたから、今の内に車をチャーターしましょう」
「仕事が早い補佐官で助かる」
「ふふふ」


 果たして、ゼルは文字通り列車から急ぎ勇んで飛び降りてきた。駅前で車を停めていたスコールたちは、手を振り振り駆けてくるとさか頭に、苦々しいなりおかしいなり、笑みを溢す。


「任務内容はわかってるな?」
「最近の児童誘拐事件に関与の疑いがある人物のさし抑え、だろ?」
「まあ、間違ってはいないわね…」
「言う通りジャンクションしてきたけどよぉ、そんな危険な奴なのか?」
「場所問わず仕事を請ける輩だ。腕は確かなようだから、防衛には長けている。向こうの出方次第では戦闘行為に発展するかもしれない」
「うっひゃあ! そういうの、久しぶりじゃねぇか?」
「平和解決に越したことはないわ」
「任務開始時刻だ。行くぞ」


 車のエンジンもすわ高らかに響いた。

 

 

 

 

 サイファーは、まだ、町にいた。
 屁理屈こねて相手を引っ張り込んだ一軒の宿で、風神・雷神と共にたった一人を囲んでいる様は、カツアゲを行うどこぞのチンピラさながらである。某指揮官が見たら目眩を起こすのではないだろうか。
 囲まれた一人の男は、外套は脱いだものの、未だにゴーグルをはめたまま、恐れもせずにサイファーたちを観察している。一端の兵士であるサイファーたちに物怖じしないその得体の知れなさに、サイファーは知らず嫌な汗を流した。


「誰だお前」
「それはこちらも訊きたい。だが、先に訊いたこちらに答えもせず、そちらばかり回答を得ようとするのは、些か無礼なんじゃないか」
「ああそうかい。テメェの格好が怪しいからだろうが!」


 掴みかかろうと腕を振り回すサイファーを、雷神が後ろからすがって止める。男はやはりサイファーの剣幕に物怖じした様子もなく、ゆったりと寝床に腰をかけて足を組む。見下ろしているのはこちらなのに、見下されているようだ。


「そのガンブレードはSeeDの使う武器だろう。SeeDが一体何の用だ?」
「俺はあいつらとは違う!」
「違う……? ああ、アルティミシアの騎士になったSeeDって、お前のことか。確か名前は、サイファー・アルマシーだったか?」
「な、」
「商売柄情報の入手は必須なんでな。一応、この前の大戦は大まかにだが知ってるよ」
「テメェ!」


 眉ひとつすら動かない能面の顔に頭が沸騰しかけるが、武器を持っていると知って尚の、その落ち着き振りに、サイファーの頭は一気に冷えた。風神・雷神の二人をいなし、しかしやり返さなかったのは、できなかったからではない。サイファーたちに町中で武器を使わない程度の分別があるのを悟り、尚且つ武器を使われてもやりすごせる自信が、彼にはあるのだ。


「さて、SeeDであろうがなかろうが、戦争屋に追い掛け回されるような失態はしてないはずなんだが、お前たちは何故俺を追う?」
「……昨日教会が燃えたの、見てただろう」
「ああ」
「俺は、ちょっと前に、あんたが教会に立ち寄ってんのを見たことがあんだよ」
「へぇ、それで?」
「あんた、教会で金をせびった方か、ガキども連れてった方か、どっちだ?」


 正直、一度目と二度目の違いに確たる根拠はない。ただ、そうじゃないのかという程度に僅かな違和が頭に残っていたくらいだ。
 男は驚いたらしかった。口を微かに開き、次いでサイファーを眺め回す。


「……頭に血が昇れば騒ぐだけの獣かと思えば、なかなかよく観察してるじゃないか。改めて訊こうか。名前は?」
「サイファー・アルマシー。こっちは風神と雷神だ」
「そうか。俺はクラウド・ストライフ。運び屋をやってる」


 男は微笑んだようだ。その微々たる笑みに、バラムガーデンが誇る指揮官を思い出した。

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