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- Date:2024年11月23日
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ジャンル無差別乱発
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「昨日の一昼夜、何故バーコードヘアーがあんなにも哀愁かつ時の経過かつ笑いかつ(笑)を誘うのか、俺は検討してみた」
笑いも(笑)も同じだろ。
突然朝食の席で真剣な顔をして言葉を繰り出すルークに、おのおののフォークやスプーンを一度止めたのだが、彼の方を見ては、何やら関わってはならない雰囲気を察し、彼が変わる前までは面倒見の良い兄貴分と自負していた理解者もとい『生贄』に生温い視線を送る。皆、巻き込まれれば比類なきトラウマを残されるとわかって、被害を誰か一人に絞ろうと画策しているのである。
特にアニスなんかは、女子供の特権である可愛さか弱さが通じないと知ると、今まで戦闘中でも見たことのないような死に物狂さで必死にルークの故意か無邪気か全くわからない冗談の被弾を免れようとしている。その歳の子供がしてはいけない顔をして、ルークから目を背けている。
唯一爆心地になったことのないイオンでさえ、冷や汗とたおやかでない笑顔を浮かべざるを得ないルーク・フォン・ファブレ(のレプリカらしいけど何だか途中から太陽暦が主流の世界からやってきた、性格が崩れたルークになっている。彼はレプリカに対する差別意識が全くない)の冗談は、冗談の域を悠に越えていた。性格が変わってからというものの、いつも誰かしらに言い負かされて膨れっ面をする子供のような幼さは名残の気配すら消し飛んで、口でアッシュやジェイドを翻弄し(それはジェイドにはない異世界の知識を多分に含んでいるのが大半だったけれど)、新しく得た能力をフルに使って全力でトラウマをあちこち病原体のように散布しているのだ。今のところ、比較的その被害はキムラスカとダアトの一部と同行者に集中しているのが救いと言えば救いか。
一方、毎度のこと当人以外の暗黙のルールによって選出された生贄ことガイラルディア・ガラン・ガルディオス…ルーク曰く 「親友(仮)らしいけど、なんかお近づきにはなりたくない3G」 は朝っぱらから景気の悪い顔で仲間(のはずだけど最近自信がなくなってきた)に味方が誰一人いないことを知って、健康的だった顔色を病人水準にまで一気に落とした。被爆した数も多ければ、二次被害や余波まで漏れなく拾ってしまう哀れな青年は、けれども仲間の背を押してくる無言の重圧に脂汗をだらだら掻きながら、まるで猛獣を刺激しないような慎重さでそっと声をかけた。
「る、ルーク……なんだ、その、バーコードヘアーって……?」
「何だよ親友(仮)、バーコードヘアーを知らねぇの? 俺が今住んでる国で、中年サラリーマンの典型的な髪型だぞ」
「サラリーマン…?」
「あー、この世界とは基本の雇用形態からしてだいぶ違うからなぁ…説明が難しいんだけど…会社とか株とか」
「会社…? 株…?」
「スーツって制服を着て、上の命令で動く奴。地位はピンキリだけど数だけは多い。会社ってのはその組織の総称だ。株は…ああもう、面倒くせーな」
ルークの話を聞いている内に、ガイはしょっぱい気分になった。中身が違うとわかっていても、ルークの外見で小難しい言葉を連ねる彼を見ていると、何も知らなかった子供っぽいルークがとても恋しくなる。そんな体たらくだからこそ、こういうときに第一被害者としていの一番に指名されてしまうのだと、ガイは気づく気配もない。
僅かな渋面で耳を傾けるガイには気づかず、ルークは朝食のサラダを行儀悪く匙で突付きながら言う。
「その役職の人間は、新人や例外を除いて大抵が髪全体を二対八か一対九に左右に分けてるんだけど、毛根が死滅する年代になると天辺からじわじわ禿げ始めてさ、まだ禿げてない横の髪を飽きもせずに横に流すと禿げてる部分と髪でいい按配に縞模様ができるんだ。それが、俺らの世界でいう、商品情報が入ってるバーコードってのに見えるわけなんだけど…」
…にやあり。
ルークの浮かべた笑みを見て、ガイは心底背筋が戦慄した。それを戦々恐々と遠巻きに見ていた仲間も同じく。
ガルドが絡んだアニスもよく似たような顔をしているが、そんな表情を作ったら最後、人として何かが終わってしまうかもしれない。いっそ耳元まで裂けるくらい細く大きく曲がった口元は、暗がりで見てしまったらそれこそ夢に出てきそうなほどに悪どい。
「それが風とかで乱れたら面白いぜ。悲壮感も笑いも同時に取れる」
好物は人の不幸です。蜜の味がします。
そう言われても今なら信じられる。
だが、こんな口撃でおさまるくらいなら、アニスもティアもナタリアもアッシュもガイもジェイドも、果ては六神将やヴァンまでもが、胃が潰れそうになるまで彼に手を焼かされることはない。何しろ、目に見える実害すら伴ってしまうものだから始末におえない。
彼に対する打開策が、今のところ皆無なのである。
「あなたはそんなくだらないことを考えて寝不足になったのですか」
わ、バカ!
アニスが思わず小さく呟くのと、ルークのうっすら隈が滲む目が冷たく眇められたのは、ほぼ同時だった。
ルークがレプリカであることとザオ遺跡までの態度に一番振り回されていたジェイドは、何だかんだと彼を相手にしてしまう。つい溢れた余計な一言で飛び火した数も、実はけっこうな割合を占めていた。
「…おいそこのインケン眼鏡」
「…はい」
自覚あるのね、とティアは低く言った。ジェイドがルークにかすかな警戒を向け、こちらに関心を払っていないからこそ言える言葉であった。アニスとガイも渋い顔で小さく頷く。
「お前いくつだっけ」
「35ですが」
「ふーん。……ちょうどいいや。髪も分かれてるし」
指を振って、青く、向こうが透けて見えるパネルとコンソールを出現させると、ルークはどこか嬉々としてキーを叩き始めた。
「やっぱ腹巻き一升瓶は標準装備だよな。眼鏡はもう付属してるしぃ、ちょっと若作りすぎるけど、まあやってみなけりゃわかんぬぇーしぃ」
白く輝く文字はこちらの世界で使われるそれではない。何を綴っているのか皆目わからないが、にやにやいやらしく笑いながらぶつぶつ独りごつその様子は、今までの経験からも勘からも、決して良いものとは思えない。既に皆、悠長に朝食なんぞを摂っていられる余裕など、すっかりなくなっていた。
わりかし風当たりの良いティアは、脇に皿を寄せながら尋ねた。
「ルーク…何をしてるの?」
「えー? 眼鏡がくだらないことって言ってたけどさァ、確かに想像じゃ限界あるわけだから、実物見ればずっと考え易いんじゃないかなーって思ってよ。まだちょっとそこまで年いってねぇけど、ジェイドならいけると思うから、髪型を変更してついでに服も装備もそれにふさわしいのに変えてやる」
「やめて下さい謝りますから好きなだけ想像して考え込んでもかまいませんから、本当に勘弁して下さい」
ジェイドが元より白い顔を青褪めさせ、パネルを透過して正面からルークのコンソールを操作する手を掴んだ。こちらからはパネルから下半身が生えたように見えるし、恐らく向こうからは上半身が生えたように見えるのだろう。かなりシュールだ。しかもやっている人間がジェイド。
ルークの顔が一瞬笑いを堪えるように歪み、しかし次にはいけしゃあしゃあとジェイドを貶める。
「でもほら、俺がずっと寝不足のままじゃ、戦闘も料理当番もろくにできないんじゃないか? 戦闘中うっかり誰かの装備を消しちまうかもしれないし、料理に失敗したら焦げたりヌルヌルしたものとか、あまつさえメイドバイナタリア並のものができるかもしれないから、やっぱりこの問題は早く解決すべきだ」
「ならば問題が解決するまであなたは優遇体制でけっこうです。戦闘も当番も参加しないでください」
そこに、問題を放棄するという選択肢は存在しない。
彼はある意味とても誠実で、やると言ったことを投げ出したりはしないのである。それがちゃんとした方向に向かえばどんなに良いかとルークを抜いた他の同行者が一同に頭を悩ませた時期すらあった。結果人為的には無理だと半ば諦めて結論づけたのだけれども。
「……そういえば、」
「はい?」
「わざわざ禿げそうにない奴を無理に禿げさせなくても、禿げそうな奴っているじゃんか」
ジェイドに腕を掴まれたまま、ルークはほんの少し目を輝かせて呟いた。
「俺、ちょっとキムラスカに行ってくる!」
きっちり千切りにんじんのみを残したサラダを放り出し、コンソールを操作してあっという間に消えたルークを呆然と見送った一行は、しばらくしてから慌ただしく宿を辞した。
キムラスカは常に共にいる同行者よりも被害が大きい。ルークが何故か生まれ故郷のはずのあそこを嫌っているからだ。
先日も、王と公爵の首から下を肌色モザイク加工して、気づかずに出た公務や視察先で周囲にまで多大な精神異常を引き起こしてくれた。それを聞いたルークはナタリアの叱責を物ともせずに笑い転げ、更に後日、懲りずにモースも巻き込んで、もっとひどい視覚テロを起こしていた。あまりにひどいそれは、人の口に滅多にのぼらないほどの悲惨なものだった。
いい加減止めてやらねばキムラスカが政治的に崩壊する。顔をこれ以上なく青くさせた一行は、偶然道中で出会ったアッシュを連れて、キムラスカの王城へ辿り着いた。
そこでは強制的に例のバーコードヘアースタイルにさせられたインゴベルト6世とファブレ公爵ととばっちりを受けた庭師のペールが、並んで土下座して這いつくばりながらその背にルークを乗せて、記念撮影をさせられていた。
ナタリアとアッシュとガイはその場で卒倒し、その他は非常に苦味走った顔で、確かにこれほど哀れで哀愁漂うものはないと、一仕事終えたと満面の笑みで大量にその写真をチラシに刷っているルークを見た。
何をするかなんて、聞かなくてもわかる。止める人間がいない間に、人目の多い場所に所かまわず貼りまくるつもりだ。