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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

罪とはゆめゆめしいものです

TOA:逆行ルク

六神将(一人欠員)と愉快な毎日そのろく
まだ慕っているのです。
どうにも、身分のはっきりしない人間が、人にも言えない悪事を画策している己のテリトリーにいるのは、あまり快く思えない。
敵とわかるのなら、利用できるか否かで裁可すれば良い。しかしどこの手の者か、目的もわからぬ人間を野放しにして安心できるほど、ヴァンは自惚れても愚かでもなかった。
見慣れぬ黒い服と頭を半ばまで覆うフードと、どこぞのサーカスが使いそうな奇妙な仮面をつけて、自ずから他人に近寄らせない空気を作り上げている少年は、意外なことに実は知り合いだったらしい(あんなに他人との接触を倦厭していたというのに!)アリエッタに、アッシュと呼ばれている。雇用主のディストや、それから日頃被験者憎しを豪語していたシンクも憎まれ口を叩きながら奇襲をかけ、なし崩しに鍛錬しているようだ。
専ら肉弾戦のシンクほどをあしらう強さは、なかなか魅力的である。周囲にこれが神託の盾騎士団の者という認識が浸透しつつあるが、噂に疎いのか気にかけないのか、全くといって良いほど欲目を滲ませることがない。
そろそろ篭絡にかけてもよろしいのではと、巡礼者が通る道を日向で見つめるその背中にそっと近づく。


「ここが気に入ったか」
「…、ああ、どうも。ディストならまた、変な人形を作ってますよ」
「いやいや、私は君と話をしてみたかったのだ。ディストは君を研究員としても、傭兵としてもいたく気に入っているそうじゃないか」
「………」


何が目的だと不躾に探る目が、仮面の奥で光った(気がした)。あまりに明け透けなそれに失笑をこぼし、次いで冷たい目を向ける。
ヴァンが思ったよりも、少年は体格が良かった。寧ろ体は青年の域に差し掛かっていて、子供にはない重量感がある。ふと、ヴァンが剣の指南を施している公爵子息を思い出した。
腕はまだにしても、その眼光の鋭さは、軍職に従事する公爵顔負けである。記憶をなくしても勉学に励み、貴族ゆえの傲慢さはあるが、しかし周りの人間をよく見て顧みる姿勢は、施政者として、また人として好ましい。愚かにも預言を念頭に置かなければ手元に残しておきたいほどだ。レプリカさえ上手く作れたなら、きっとそうしただろうに。


「…君は預言をどう思う」
「……そういうあなたは?」
「私は殉教者だ。質問に質問を返すとは、答えたくないことでもあるのか?」
「立場を笠に着ないで下さい。そんな質問をすること自体、あなたは預言に懐疑的ということになりますよ」


思わぬ鋭い舌鋒に、自分の目が底冷えしてゆくのがわかる。それでも、彼は怯まない。


「ディストは何か、言ったか」
「何も。研究に協力さえしてくれたら、好きにしろと」
「主に何の研究だ?」
「さあ。尋ねたければディストへどうぞ。あなたの部下でしょう?」


とりつく島もない。声を大にして言える話ではないので、のらくらといなす少年の言葉が歯痒い。彼の様子から何か拾えないかと窺えば、無表情も良いところな素っ気ない口元に、かすかな萎縮が浮かんでいた。
自分の立場はまだ彼より上らしい。
ヴァンは僅かに口角を上げ、擦れ違う敬虔と言われる巡礼者を眺めながら歩いていった。
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