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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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つぶやきは異口同音に重なった

TOA:逆行ルク

本編(外郭大地編)
オリジナルルーク視点


タイトル拝借「F'」


***
あらゆる大事な部分を飛ばしてます。矛盾とかおかしなとこもあります。すみません。
あとさらっと仲間にも厳しく、ちょっとチーグルに風当たりが強めです。
ご注意ください。
別にチーグルが嫌いというわけでもないんです。
ただ、彼らはユリアという前例に何を思って人間を捉えているのか、わからなくなって…
一部(長老とか)人間以上にユリアに傾倒してはいまいか。
苔むした木が柔らかでまろい光が照らす、幻想的な空間。小さく可憐な花々やそれらを飛び交う虫の数々。落下物がところどころに散っていなければ、とても安らぐ景観だったに違いない。
何故こんなことになったのだろうと、ルーク・フォン・ファブレは頭を抱えた。
予定にはない剣の師の訪問と稽古。ここまでは良い(いや、導師が行方不明なのに自分如きが彼の時間を割いてよかったものなのか)。しかし公爵邸に押し入った馬鹿者と刀を合わせたとき、擬似超振動だか何だかでどこぞに飛ばされてしまったのである。目覚めた場所はタタル渓谷と言われるセレニアの白く美しい花が咲き誇っているところ。乗った馬車はあろうことか長年敵国だったマルクト行き。戻りたくとも橋は落とされ(あの戦艦と辻馬車、許すまじ!)、慌てて途中下車をすれば行った先の村で泥棒容疑で引っ立てられ、村の責任者の家ではマルクト軍人と行方不明とされていたはずの導師がいた(しかもその軍人、先程の戦艦の総責任者だと!?)。何でも、自分たちと間違えた泥棒の実行犯は近くの森に住むチーグルらしい。翌朝そこへ乗り込もうとした導師を見つけた連れ(なのかどうやら、何せ前述の襲撃してきた馬鹿者というのはこの女だ)が息巻いて共を申し出て、何故か自分まで巻き込まれ、森へ足を踏み入れたのだが。


「…みゅ?」
(…うっとうしい…)


そのつぶらな瞳を向けるのはやめてほしい。そのままごろりと落ちてしまうのではないかと不安になる。
どうもこそ泥紛いにはちゃんと理由があるようで、チーグルの仔が火を吐く練習をしてうっかりライガの住む森を焼いてしまった落とし前をつけているその結果らしい。つけるのは結構だが、如何せん人間の村の食糧、それも商品に値するほど上等なものを献上したのはまずかった。これでは、魔物同士の諍いに人間が介入(退治)する口実をくれてやっただけだ。
この愛らしい外見は見かけだけで、実はチーグルは害獣なのではないか。中身は極悪人も真っ青なほど凶悪なのではないか。
ライガを取り仕切っているライガクイーンは、怒っていた。当然だろう。
報復という下心もあるが、出産を控えてどこか安全な場所で静かに暮らしてゆきたいであろう矢先に、勝手を知らない人間が、何の提供もなしに出て行けと言う。これではチーグルの言う交渉などではなく、立派なかつ一方的な退去命令だ。女の方は必要以上にライガの神経を尖らせ、戦闘態勢に入っているし、導師は悲しげな顔をして後ろに下がっている。更に王族が前衛に立たされているこの状況は、やはりおかしいだろう。
降ってくる瓦礫を払い、剣を構えてライガクイーンを見据える。雌と言えど誇り高く雄々しいライガの長を不条理に殺すのは心苦しい。しかし無為にこちらの命をくれてやることはできない。後ろで詠唱を始める柔らかい声に一度目を閉じ、走り出した。


「っ、 ルーク!」
「ぐっ」


持っていた剣が勢いよく回り、詠唱していた女の足元に刺さる。詠唱が途絶え、目の前に翻った黒い外套の向こうが見えた。
右に佩かれた片刃の剣。こちらの刀を峰で叩き落されたとわかる逆手持ち。深いフードで頭は見えない。背をルークに向け、真っ直ぐライガクイーンを見つめていた。


「クイーン」


威嚇を制するような落ち着いた声。今にも噛み付かんとする牙に頓着することもなく足を進める何某の背に、止めようとした導師イオンの声が届く。歩を止め振り返るその顔は冷たいくらい何もなく、目元を覆う仮面はひたすらに無機質だった。
男がまさか、降ってきたのではあるまいな。入り口はこちらが背にしているし、だとすれば上の洞からということになる。上を向くと、遥か遠くに鳥が旋回しているのが見える。


「おいチーグル」
「みゅ?」
「みゅ、じゃぬぇーよ。何のために来てんだお前。お前の腹だか胸だか腰だかについてるリングは何だ。浮き輪か?通訳すんだろ。さっさとこっち来いブタザル」
「ちょっ…、いきなり現れて何のつもりっ?」
「うるせぇ。魔物同士の問題に人間がしゃしゃり出て、あまつさえ被害者のクイーンに譲歩しろだ?ふざけんな。そもそも人間が出てきたのだって人間にチーグルが頼んだからだろ」
「でも、チーグルはローレライ教団を象徴する聖獣で…」


どこか縋るような導師の声に、しかし男はあくまで冷ややかな反応を寄越した。


「本気でチーグルを擁護するつもりなら、それこそ教団に打診しろ。でなくても被害額相当くらい捻出しろよ」


唾棄しそうな勢いで言った怪しい風体の男は、それでも無表情だった。結局足元に寄っていったチーグルを伴い、さっさとライガクイーンの方へ踵を返す。
まだ食って掛かりそうな女を宥め、導師は、先程とは違った意味で悲しげに俯く。きっと、導師の立場故の難しさと責任を痛感したのだろう。師から聞く限り、派閥のひき交々と厄介が多いらしい。


「久しぶり。前に一度会ったきりだけど、俺のこと、覚えてるか?」


静かな、どこか聞き覚えのある声が響く。ライガクイーンまで後数歩、彼女が体を伸ばせば致命傷をもらうには十分なほど近すぎる距離で足を止め、見上げた男はどうやら仮面を取ったようだった。


「においは変わらないって言ってますの」
「そうか。アンタの娘から伝言を預かってる。北の方、ルグニカの土地に良い場所を見つけた。いくらかが先行してるそうだ。身重のアンタに移動なんて無茶、悪いと思うけど、海を越えさせるようなことはできないと。俺も餌になるものは道中できるだけ置いてきた。卵も、風に当たると悪いから、俺の外套を使ってくれて良い。アンタの存在が知られれば、今は卵を死守できたとしても、人間たちが別の編隊を組むかもしれない。チーグルに誇りを傷つけられたアンタの怒りは正しい。人間の言うことを素直に聞くのは業腹だとは思うけど、アンタやその卵が死ねばアンタの娘が悲しむ。お願いだ。聞き分けてくれ」


そう言って頭を下げたその背は、丸まっていても、どこまでも真摯に見えた。
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