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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

罪とはゆめゆめしいものです

TOA:逆行ルク

↓続き
六神将(一人欠員)と愉快な毎日そのに
こんにちは同類
扉を開けたのは、見たことの無い男だった。
赤錆色の髪をし、顎を半ばまで覆う首の長い固い黒の服を着ていて、顔を隠している自分が言うのも何だが、目元を仮面で遮っているその男は、とてつもなく怪しかった。
おまけに同僚の部屋を訪ねたというのに、何故か我が物顔で戸をあけたそいつに、警戒心が尖る。


「…誰、アンタ」
「お前こそ」


声からして、彼はまだ若い。けれど若干彼の方が背が高く、自然少し見下ろされるような形で言われ、腹が立った。
自分はこの職に就いてまだ日も浅く、新参者と侮られることもしばしばだが、それにしたって、第五師団を任され参謀総長の位を持っている自分を知らないとは凄まじく業腹ものだ。
手加減なく一発入れて内臓でも破ってやろうかと物騒なことを考えながら拳を握ったり開いたりしていると、目の前の人間の更に後ろから、目的の人物が声だけで在室を教える。


「シンクですか?入っていいですよ」


入室の許可がおりて(シンクも人の部屋に勝手に入るほど常識を忘れたわけではない)、少し体をずらした少年に意趣返しとばかりに肩をぶつけ、奥へ進む。無言で扉を閉めた少年もシンクの後についてきた。そんな様子を見て、最近持ち上がっている噂が頭を過ぎる。
ディストは優秀な頭脳を持っているとはいえ、日頃から何かと自己顕示欲が強い上に姦しく、それについてゆくのはやや骨が折れる。しかし少し前から、任務にすら連れて行く人間が一人、いるという。専ら新しい副官ではないかと言われているが、なるほど、ならばこいつがそれなのだろう。しかし人事異動の報告は聞かされていない。


「…ちょっと」
「何ですか」
「あいつ何。アンタの部下?だったらちゃんと躾しといてよ」
「彼ですか?彼は私個人が研究のために新しく入れた人員です。部下ではなくビジネスライクな関係ですよ」
「研究だけなら他と同じように研究室にでもやればいいじゃないか」
「…彼は少し特殊なのです」


研究のために入れた人間。少し特殊で他の研究員と違う。尚且つディストの固執する研究の主題。
手元に置くほど重宝する理由。
完全同位体。


「…なるほどね」


被験者が生存しているのなら顔を隠す事情もわかる。自由に動けもしない模造品。
シンクは鼻にしわを寄せた。
少年に目を向ける。少年の口元には何も浮かんでいない。シンクは嘲弄するように言った。


「アンタも、こんなことしないと自分に価値が見出せないの?」


せせら笑ったシンクに、しかし少年は静かに返した。


「それを言うならお前はどうなんだ。自分の狭い尺度で考えたものを、人に押し付けんじゃねぇーよ。迷惑なんだけど」


まさか両断されるとは思わなかったシンクは、そのまま何を言われたか理解が及ばずに硬直した。隣を見ると、同じくシンクに言い返すと思っていなかったのであろうディストも、目を丸くしている。少年はそれに見向きもせず、なおも言い募る。


「俺がここにいるのは自分の意志だし、ここにいて良いと言ったのはそこにいる博士だ。文句があんなら聞くだけ聞いてやってもいいけど、それでも気に食わなかったら知略謀略何でも使って追い出せば?一応、第五師団の師団長で参謀総長なんだろお前」


暗に、口先だけで肩書きが伴っていないと揶揄されたシンクは、仮面越しでもわかるほど怒髪天を衝く様相で、悔しげに歯を噛み締める。対する相手はそよともしない風を受けたが如く涼しげであるものだから、シンクの憤りもディストの身震いも止まるところを知らない。


「ちょ、あなたたち!暴れるなら余所でやりなさい!こんなところでやられて誰が被害を被ると思ってるんですか!」
「うるさいよ死神。僕は今機嫌が最悪なんだ」
「薔薇ですって!」


シンクの持ってきた書類を毟るように奪い、ディストは文句を言う暇も与えずシンクの背を押して部屋から閉め出した。明らかな邪魔者扱いに(書類を持ってきてやったというのに!)これ以上ないほど怒り狂ったシンクだが、少年が自己紹介もしていない自分の職を淀みすらなく言ったのを思い出し、急に肩から力が抜けた。
あいつ、僕のこと知ってんじゃないか!
何だかな、とシンクはバリバリ頭を掻き毟った。
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