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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

つぶやきは異口同音に重なった

TOA:逆行ルク

本編(外郭大地編)
ガイ視点


微妙にギャグパート
いろいろおかしいのはスルーの方向で。




*****
これで外郭大地編は終了。
抜けている部分は、後々話の中で補足していく予定です。
時系列がおかしい・欠けてる理由としては、ある意味この長作は、それぞれから見た他人の認識の食い違いがテーマですので。
ガイは戸惑っていた。
探し人がマルクトの軍人と一緒にいたというからようやくあたりがついたと、何やら物々しく、戦を思わせるすえた臭いが立ち込める戦艦に侵入を果たしたまでは良かった。自分は腕に覚えがあるので特に命の遣り取りの心構えはあるのだが、探し人は行儀見習いでたしなみ程度の剣しか知らない。こんな場所にいたら、もしかして人を殺してしまうかもしれない。擬似長振動で今まで触れたことのない外の世界に出た挙句がそれなんて、あんまりすぎる。
だから誰かしら捕まえて居場所を聞いてやろうと刀片手に意気込んでいたものの、艦内にすわ入って見れば、何故か人っ子一人いない。これでは尋ねることもできず、ガイはやたら新しい血飛沫に嫌な顔をして歩いていたのだ。


「こっち」
「 ! 」


さすがに叫び声はあげなかったが、心臓が一時停まるかと思うほど驚いた。
服の端を控えめに掴む人間は、全身黒ずくめな上に真っ黒なフードを被って、目元を隠している。こんな怪しいナリの人間だというのに、ガイは刀を抜こうともせず、ただ茫洋と彼を見つめていた。目の前にいるとわかっていても、気配がひどく薄い。


「ルーク・フォン・ファブレを探してるんだろ」
「ど、どうして…知ってるのか?」
「だから、こっちだって」


強引にガイの腕を言葉少なにひく人間は、予想外に背が低い。ちょうど、ガイが探していた件のルークと同じくらい。


「訊いてもいいかな」
「ん、」
「何故俺が探している人がわかったんだい?」
「……………」


彼は少し黙ったまま、前を向いた。


「……お前、オラクルでもマルクト軍でもない格好してるじゃん。こんな血生臭いところで逃げもせずわざわざうろついてんだから、目当てが他にあると思ってさ。外部の人間でこれに関わってんのは、巻き込まれたキムラスカの公爵子息だけだ」
「そう言う君はどうなんだ。オラクルか、マルクト軍人か?」
「俺? 俺は水先案内人」
「へぇ」


笑えない冗談を真顔で言われ、ガイは少しだけ不快に思いながら刀に宛てた手は外さないままにしておいた。
相変わらず人はいない。青年の腰に佩かれた剣に手が伸ばされることもなく、ガイが警戒する間も与えずにさっさと角を曲がっていく。必要がないとばかりに先を急ぐ青年に、ガイは首を傾げた。


「どうして誰もいないんだ?」
「いないわけじゃない。ほとんどは外と左舷昇降口だ。このタルタロスは今、使い物にならないんでね。後は、まあ、色々と」


意味深な言葉は悪戯っぽい響きがあるが、見える口元は一文字に引き結ばれたままだった。どこかちぐはぐした雰囲気の青年の、のっぺりとした背中を見ていたガイは、ふと、過ぎる個室に時折扉がぐんにゃり歪んだものがあることに気づく。


「…ここは? 何か入ってるのか?」
「お前、けっこう暢気だなァ……預かり物だよ。他の連中が入らないように溶かしてくっつけた」
「…どうやって出すんだ」
「方法なんていくらでもあるさ」


青年はガイを一顧だにしない。
よく晴れた空が窓から見えた。


「ここを真っ直ぐ行って上へ昇れ。そこから左下を見ればお前の探してる奴がいるはずだ」
「そうか…わざわざすまなかったな」


青年はからりと手を振って応え、さっさと元来た道へ踵を返した。
それが一度目。







二度目(正確には、あちらを一方的に見たのはセントビナーと廃工場を含めて四度目になるわけだが…)に彼と対面したときもまた、ガイは戸惑っていた。彼を目にする度、募る違和にどうにも心が疼いた。
ザオ遺跡で再び会った彼は、他の二人のようにこちらへ敵意を剥き出しにするでもなく、辛そうに目を閉じているイオンに寄り添っている。廃工場では見られた頭はまたフードの下に押し込められていた。


「シンクッ、イオン様をかえして!」


アニスの声の悲壮感たるや、ナタリアが強く共感を抱くほどであったが、シンクはその叫びを嘲るような一笑で退けた。皮肉げなそれが癇に障ったのか、アニスが早くもトクナガを肥大化させ、戦闘態勢に入る。つられるように思い思いの武器を取り始め、ガイも何か釈然としないと思いながら、刀を抜く。
空気が硬くなっていく中、ちらりと青年を盗み見たが、まるで頓着せずイオンの背を撫でていた。見なければ良かったとさっそく後悔した。
何故かあの青年とルークの相違をことあるごとにガイに尋ねるジェイドも、何だかんだとあの青年が気に食わないらしいルークも、アニスに続いて強襲する。
戦闘に参加する気すらないのか、青年は被害を被りそうな流れ弾だけを剣で弾き、イオンを背に庇っていた。…なんだかこちらが悪役のようである。


「むぅ…」


唸って、ラルゴが膝を冷たい地につける。ラルゴに回っていた分の戦力もシンクに集中し始め、シンクもラルゴに倣ったのはそれからそう時を待たずしてだった。
青年はそれをただ眺めている。あまりに静かで、寧ろイオンの方が不安げに青年の外套を掴んでいた。
静寂を湛えた青年の口が、ゆっくりと開く。


「気は済んだか?」


それはあまりに投げ遣りで、ルークもナタリアもアニスもティアも、ジェイドですら動きを止めた。ラルゴは満身創痍で苦笑する。


「そう言うな。シンクとて…」
「二人がかりで何やってんだ! 屑が! とでも言えばよかったか?」
「うる、さいなっ、」
「俺言ったよな? 導師はザオ遺跡でお引取り願うと。なのにお前ら勝手に戦い始めるし。待ってるしかぬぇーじゃん」


何だこれは。軽い仲間割れだろうか。青年の隣にいるイオンも目を丸くしている。シンクは肩で息をしながら、ふらついて立ち上がった。


「こ、の…っ、単独行動もいい加減にしろ!」
「うるせーな。そんじゃイオン、あまり無理はすんなよ。いざとなったら公爵子息でも盾にしろ」


長く立てなかったのか、また崩れ折れたシンクがぶるぶる震えている横を、ルークが抜き身の刀片手にすり抜けた。愚弄されたと思ったのだろう。
ジェイドが苦い顔をしてこちらを向いた。こっち見るな。あの沸点の低さは俺の責任じゃない。ガイはしょっぱい顔でジェイドを見返す。
流れるように本構えから振られる刀。あれは確か、彼が初めて修得したアルバート流剣術だったか。冷たい仮面で見返す黒服は、その刃先を慌てず見送った後、おもむろに腰の剣に手を伸ばして


ガツンッ!


ルークと同じ技で刀を弾いた後、青年は音もなく剣を鞘に戻した。そのままルークを振り向きもせず、崩れるようにしてしゃがむ六神将にヒールを施す。やり返さない青年にルークの眉はいよいよつり上がる。


「てめぇ、その技…!」
「早く導師を休ませろ。俺たち諸共生き埋めにされてーか」


ルークは喉を詰まらせたように口を噤んだ。それに満足気な吐息を静かに吐くと、青年はイオンを見て、軽く頷いた。心得たような表情でひたと視線を合わせたが、なかなか進みだそうとしないイオンの背をルークに押しやり、忌々しげにしているシンクを助け起こす。
沈思していたジェイドだったが、自力で立っているといえど、顔色がかつてないほど悪いイオンを優先したのか、行きましょうと無機質にガイたちを促す。アニスやティアはイオンに寄り添い、手出しする気配のない彼らを睨めつけて歩いてゆく。青年を険しい目で見続けるルークの腕をそっと取り、ナタリアも暗い小道に足を向けた。ガイが最後に青年に目をやると、青年が小さく何か言っているのが見えた。
それがガイ個人に向けてか、親善大使一行に向けてかは知らないが、半分もその言葉を理解できなかったガイは、能面のような青年の雰囲気が、何故か笑っているように思えた。


( 彼の支えとなってくれ。この先彼が……… )


そして数日後、親善大使一行を呑み込んだまま、アクゼリュスが落ちた。
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