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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

つぶやきは異口同音に重なった

TOA:逆行ルク

本編(外郭大地編)
オリジナルルーク視点


いろいろおかしいのはスルーの方向で。
「イオンを、かえせぇぇえええ!」


先陣を切って駆けた刀を受けたのは、見た覚えのない赤錆色の頭をした男だった。次いで見た鼻までの白面に、六神将の中でもあまり見ないあの人間だと気づく。
見る者を選ぶような明らかな人工色。泥に溶けた血のように暗く汚らしい赤。雨ざらしの髪が雫を散らし、それを少し目線で追った後に、降る拳を捌いて避ける。
刀を佩いているにも関わらず、剣を拳で迎え撃つ不利を選ぶこの男は、今の自分では相手にならないということか。一瞬昇りかけた血は飽きもせず降る雨で冷え、目の前で悠々構える男を睨み据えた。


「剣を抜け」
「嫌なこった」
「抜け!」


振り下ろした刀は、峰を掌底で叩かれ剣先を逸らされる。空いた腹に一発もらい、首の付け根を狙ったものは何とかいなす。それでも、防いだ腕が痺れる程度に手を抜かれている。
屈辱だった。


「アッシュ! 今は導師が先だ!」
「シンク…」


タルタロスに乗り込んだ烈風のシンクが、目の前の男へ叫ぶ。その横には、重そうな外套を被った導師イオンの姿があった。ああ、今この男が頭を晒しているのは、外套を導師に傘として与えているからか。


「何をしているシンク! 導師が風邪を引くだろう!」
「誰のせいでこうなったと…!」


憤慨したシンクの声が途切れる。
男が急に刀を抜き、ルークへ真っ直ぐ切りかかった。腕ごと斬砕するが如く思い斬撃に軋む肩をたわませて、男を見る。男の口から、雨音に紛れるほど小さく言葉がこぼれた。


「急げ。早く気づけ。……導師はザオ遺跡で解放する」
「……お前…!」
「 ―タービュランス!」


吹き荒れる疾風を腕で顔を覆ってやり過ごし、タルタロスから譜術を放ったシンクを睨み、目線を戻せば、既に男はタルタロスのハッチに足をかけていた。
しとやかに降る雨に濡れたその面には何も浮かんでいない。


「行くよアッシュ」
「…ああ」


重々しい音をあげ、タルタロスがこちらに背を向ける。今更我に返ったのか、叫ぶアニスを尻目に、去った男の残像を思い浮かべる。落ち着いた声はやはりどこか聞き覚えのあるもので、刀を振るう姿はデジャヴが窺えた。


「大丈夫か、ルーク」
「ああ。大事無い」


ただ、腹に食らった拳と手刀がかすめた首が痛む。ガイの心配そうな声や気遣い差し出された手を断り、伝う滴を払って刀を鞘に収めた。
一体自分に何をさせたいのだろうか、あの男は。急げ、早く気づけと何を急かし、何をルークにさせたいのだろう。
今は影しか見えないほど遠く離れた戦艦に、ルークは眉を寄せた。


「…ザオ遺跡に行く」
「え?」
「導師がそこに向かうらしい」


根拠はない。メリットもなければ信憑性もない。何しろ、敵と思われる人間が漏らした情報だ。純粋に喜ぶアニスの横で誰もが信じて良いのかと訝しげな顔をしている。ルークも似たようなものだ。しかしそんな曖昧なものしか頼るものがない現状が、なんとも情けなく歯痒い。


「まあ、情報がそれしかないのであれば、致し方ないですね」


情報を吟味・収集するだけの時間もありませんし、と薄く笑い、ジェイドが肩を竦めれば、まだ納得しきれていないながらも今後の動向が決まったような空気が流れる。


「ルーク」
「何だ」
「鮮血のアッシュとあなた、何か共通するものはありませんか」


訊く、というよりも確認のような声色に、ルークはしかつめらしい顔で振り返る。ジェイドがルークと同じく雨ざらしになって眼鏡を上げながら、ルークを見下ろした。
何故そんなことを訊くのだろう。ジェイドの後ろで、誘拐されて以来バチカルから出たことがないと知るナタリアが声高にその関連性を否定しているが、ジェイドはそれに耳を貸さずにルークを見ている。まるで、ルークの言葉で教えられないと信じないと真摯で冷たい目で。
ルークはため息を吐いた。


「知らん。あんな怪しい奴、会ったことはなかった」
「コーラル城でも?」
「ないな。俺が気絶していた間のことはわからないが…何故だ?」
「いえ。少し思うところがあるものですから」
「いえないのか、今は」
「確証がないものは迂闊に口にはできないので」


そういって口元を緩く歪ませるジェイドにルークは鼻を鳴らした。


「もったいぶりやがって」
「すみませんねぇ」


にこりと笑うジェイドに、ルークはうんざりしたように腹に手を添える。そこは熱を生んでしくりと痛んだ。
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