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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

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神様に会ったらこんな風に言うんだ

TOA:ローレライなルーク


ネタ消化
そこまで仲間に厳しくするつもりはなかったんですが、ストレス発散の如くPMに辛く当たってます。
個人への批判はあまりないですが、キムラスカとかダアトとか、まあ、色々言ってます。
言い訳するなら、私はPM好きです…よ?




タイトル拝借『ワーカーホリック』

呪いあれ!
( も う 耐 え ら れ な い ! )


ルーク・フォン・ファブレは、別段癇癪持ちというわけではない。けれどもよく涙を流す人間だ。親友として、使用人として、長く彼を見つめていたガイはそう思った。
屋敷にいる間にそれが起こることは、気になるほど頻繁ということもなかったが、やはり常人よりはよく泣いた。泣き喚くどころか嗚咽すらこぼさず、子供らしからぬ弱々しい泣き方で、水底のような深い藍青のかかった緑の目からほろほろと涙を流すのだ。いつもは傲然とまでしているのに、このときばかりは、とても静かに。
けれどちょっとした事故でバチカルから遠く離れたマルクトに飛ばされてから、特にそれが顕著だったと思う。タルタロス脱出後やカイツールで、バチカルの王城で親善大使に任じられたとき、廃工場で、オアシスで。更に聞けば、タタル渓谷やチーグルの森やタルタロスに乗っていたときでさえ、悪癖に勝るとも劣らない泣きっぷりを披露したらしい。
突如流される涙にまだ慣れていない彼らは、途端に涙を流すルークに戸惑い、さえずるように間断なかった談笑の空気は水を打ったが如く神妙になる。あの人を食ったように振る舞う、悪名高いジェイド・カーティスですら、からかいもせずに、いい加減泣くのはおよしなさいと辟易した様子で眼鏡を押し上げるのであった。
しかし、いくら叱責や軽侮の言葉を言われようが、ルークは泣くのを止めなかった。何が悲しいのか聞いたとて、ただ口を引き結んで静かに、耐えるように涙を流す。あまりに悲しげで苦しげな様を、どこか怪我でもしたのかと心配したティアの回復の申し出を、何でもないと一言の下に切り捨てたルークは、次の瞬間にはいつものかしましい彼で、ひたすら険悪な雰囲気よりも、やけに歪んだ居心地の悪い空気を作り上げるのが、ここ最近の常だったのである。
だから、こんなルークは知らないのだ。


「あ、ああ、ああ・あ、あああああっ、ああ・あああ、ああああぁああぁぁぁぁぁあアっ!」


まるで嵐のように長い髪を振り乱し、絶望を表情に乗せて喉がはち切れんばかりに叫ぶルークなど、長く彼を見続けていた自分すら、知らなかった。
親善で訪れたアクゼリュスの第十四坑道の先、どうやらローレライ教団の極秘に関わるらしいものがあると言われた空間で。ルークは狂ったように咽び泣いていた。これには彼らや、会う度に辛辣な視線や言葉をぶつけていたアッシュも驚いたようで、駆け付けたその格好で固まった(無論自分も例外ではない)。
ヴァンがルークを使って外郭大地を落とそうとしているというアッシュの言の通り、座り込み、叫び、目を見開いて泣いているルークの視線の先には、生命の終わりを示すような明滅する弱々しい光を放つ、見たこともない音機関があって、傍らには、いなくなっていた導師イオンと、満足そうに寒々しい笑みを浮かべるヴァンがいた。


ようやく役に立ったな。


人としては如何がな捨て台詞を残し、アッシュを強引に連れて去って行った彼を追う暇もなく、胃の腑が体の中で跳ねるほど激しい揺れに見舞われ、慌ててティアの周りに集まる。座り込んでいたのを無理矢理ひったて、足を急がせたが、歩く気力のないらしいルークは首を振りながら音機関を見て、何かを小さく呟いた(「……ゅ、 いぁ………っ、」)
こうしてアクゼリュスは多すぎる命を飲み込み、脆く瓦解して崩れ去ったのである。

 


「……取り返しのつかないことになってしまったわ…」


タルタロスの甲板で、ティアは悔やみきれないという風に目を伏せた。
生温い、気分の悪くなるような風が吹き、辺り一面は瘴気と呼ばれる汚染された第七音素が立ち込めている。
何でも、今栄えている世界はいわゆる外郭大地という、2000年前に打ち上げられた仮の大地であり、本来の大地は瘴気が蔓延して住めない状態にまでなっているらしい。皮肉にも魔界と名付けられ、秘匿とされたその存在が明るみになったのは、ティアがその土地で唯一だという街の出身だからとか。そしてヴァンは、前々からその外郭大地を落とすつもりだったらしい。その計画の要になったのが、ルークの超振動という力とされたようだ。


「…じゃあ、本当に悪いのは総長と…、」


誰もが、敢えて考えようとしなかったことを、子供らしい潔癖故にか、アニスは口にした。甲板の隅には、ルークがまだ泣いている。そのあまりに哀れみを誘う姿にアニスは怯んだが、それでも気力を奮い起たせ、ルークに詰め寄った。


「……っ、何泣いてんのよ。アンタのせいで、アクゼリュスが落ちちゃったんだよ!」
「そうですね、せめて相談してくれたらこんなことにはならなかったでしょうね」


それぞれの消化しきれなかった悔しさ口惜しさをめいめいルークにぶつけ、艦内へ戻ってゆく。イオンが最後までルークを気にしていたが、アニスに強引に連れられ、やはり艦内へ戻って行った。ティアも呆れ、そしてガイも、言葉にならない何かが沸き起こるのを耐えられず、声をかけることなく甲板を去った。
まだ響いている彼の嗚咽が、何もできなかった自分たちを責めているような気がして、ガイは乱暴に壁を叩いて目を閉じた。奇しくもそれは、自分の非を認め、頭を垂れている様子に酷似していた。

 


ユリアシティに着く頃には、ルークも泣き止んでいた。恐らく腫れている瞼は長い前髪で隠れ、タルタロスをおりる彼らを暗い目で見ていた。泣いていないにも関わらず、いつものように騒がしくないルークを気味悪がり、けれど相手にしなくて良いのだと、どこか安心して、ガイたちは街へ歩を進めて行った。


「とことん屑だな! 出来損い!」


六神将の、鮮血のアッシュが、歩の遅いルークに向かって言った。彼の目には、嫌悪や憤怒が隠れることなく浮かんでいる。


「お前か」


向き直ったルークは、どこか疲れたような声で応える。それは今までにはなかった様子で、何事かと戻ってきたガイたちは、眉をひそめ、首を傾げた。


「ヴァン=グランツはどうした?」
「はっ、裏切られてもヴァンか! さすがは劣化レプリカだな」
「…………」
「どうして俺とお前の顔が同じか、教えてやろうか」


元は、彼はキムラスカの貴族だったという。彼がダアトにいたのは、偽者にいるべき場所を占有されたのだと、アッシュのその言葉に、何人かは悟ったように目を見開いた。


「お前は俺のレプリカなんだよっ!」
「ええっ、じゃあアクゼリュスは人間じゃない奴に落とされたのっ?」


ルークに反感を抱いていたアニスが、真っ先に反応して、ルークに噛みついた。
しかしルークはそれに傷ついた様子も、自分は人間ではないのだと取り乱す様子もなく、ただひたすら澱んだ目でアッシュを見ていた。


「…もう一度訊く。ヴァン=グランツはどうした」
「…貴様…!」


斬りかかるアッシュを現実味のない目で見ながら、ガイは思った。師として尊敬していた彼を、ルークは決してそんな他人行儀な呼び方で呼ばなかった。今目の前にいるルークは、ガイの知るルークではない。そんな気がした。
降る剣を避け、疲弊したため息を吐いてルークはアッシュを見る。その目にはうっすらと悲しみと失意が覗いている。


「答える気はないのか…では、違うことを問おう。今年に起こるとされたアクゼリュス崩壊の預言、お前は知っていたのか?」
「だとしたらどうする!」


易々といなされる剣に業を煮やして、アッシュは自棄気味に叫ぶ。ルークは悲しげに目を眇たが、次いで目から重い涙をごろりと落とし、叫び返した。


「ならば何故、ヴァン=グランツの計画を知ったとき、至急キムラスカへ帰還しなかった!何故キムラスカ王家へ奏上し、奴の危険性を訴えなかった!」


涙を流しながら激昂したルークのその様は、いつもの癇癪とは類の異なるもので、ガイの違和感はますます募った。


「何のためにユリアが預言に崩壊を記したと思っている!フォニック・ウォーの苦汁や辛酸を舐めてまで実行したフロート計画が、永劫ではないと後世に知らしめて、警戒を促したからだろう!」
「お前…誰だ?」


ガイの言葉を、落涙に暮れながら嘲笑い、ルークはアッシュを睨んだ。


「預言にもたれかかり内政を怠る腐った王家。裏切りに苦しみ自決したダアトの潔癖とその遺志を継がず、セフィロトの公開をしなかった教団。戦争に飽かぬ愚かな人間ども。何の冗談か、ユリアの子孫がそれの筆頭とはな。ユリアの言葉は、まるで無駄だったらしい」


それはまるで、ユリア自身に会い、言葉を交したかのような口ぶりだった。
アニスがわめくのを抑え、ジェイドが改めてガイと同じ言葉を繰り返す。


「あなたは誰ですか?」
「誰でも良いだろう。そこの人間どもは、私が偽者のルーク・フォン・ファブレであれば十分のようだからな」


睨むよりも余程恐ろしい昏く深い目を涙で濡らしながら笑い、ルークはそれぞれを見た。


「人間を嫌ってやるなと、皆が皆、悪人ではないのだと、ユリアの言葉を信じて見ていたが、もう、止めだ。お前らなど、預言に殺されて、死ねばいいんだ。もうお前たちの言葉に、私たち第七音素は従わない。譜術にも、預言にも、使わせない。これ以上は、ユリアに顔向けができぬ世界を見るなど、ごめんだ」


先ほどの覇気がなかったように消沈して、力なく泣きじゃくるルークの足元から、ぽつぽつと淡い炎が沸き上がる。徐々に燃え広がり、それがルークの足の半ばまでを包むと、ジェイドは慌てたように言った。


「その末に、公爵夫人やあなたの親友や、大切な人が死んでも構わないと?」
「知らねぇよ」


ジェイドを睨むルークは、今更いつもと同じように顔をしかめて、眉をつり上げた。それは嫌になるほど屋敷でよく見た、拗ねたルークと同じで、ガイの胸が嫌な音を立てて軋む。


「そんなこと、これからのお前らの行動次第だ。俺は困らねぇし、俺の知ったことじゃ、ねぇ」


既に炎は体の半分を燃やし尽し、髪と溶けあって奔放に揺らいでいる。落ちる涙は光の粒子となって空気に漂った。
ルークは絶句するイオンやナタリアやティアやアニスを睥睨して、最後にアッシュを静かに見た。


「じゃあな、ルーク・フォン・ファブレ。ヴァン=グランツに伝えておけ。貴様のご執心の超振動や大譜歌は、もう使えない、と」


その一言の最後通喋と共に、一気に彼の頭まで包んだ炎はやがて光となり、かすかな残滓を残して輝きながら消えていった。誰も口を開けない状態で消えた光がまだそこに残っているかのように凝視し続けている中、泣き叫ぶ子供の声が聞こえた気がした。
人が血を流すたびに涙を流してその世界を憂いた彼は、真実子供なのだと今更に理解する。
あの子の声が、耳から、頭から離れない。

 


神様に会ったらこんな風に言うんだ

title/ワーカーホリック

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