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飽かぬ別れ

ジャンル無差別乱発

罪とはゆめゆめしいものです

TOA:逆行ルク

六神将(一人欠員)と愉快な毎日そのよん
お互い探られて痛い腹持ち
何やら怪しい研究員を侍らせているようだな。
疑わしげな視線を投げつける共犯者に、ディストは振り返る。栗色の髪をひとつに束ねた男が鋭く暗い目で睨んでいた。腕が震えそうになるのを堪え、ディストはいつもの神経質そうな顔で鼻息を荒々しく吐いた。


「怪しいとはずいぶんじゃありませんか、ヴァン。彼は私の協力者ですよ!」
「ならば任務にまで連れて行く必要はないはずだ。ただの研究員なのだろう?」
「ただの、ではありません。彼は私個人がわ・ざ・わ・ざ!護衛と兼用で雇っているのです!まあ、私のカイザー・ディストに欠陥があるとは思えませんが、あのジェイドを倒すのですから、なるべく隠した方がいいでしょう!」


話題を懸命に、それとなく逸らすディストをどう思ったのか、おかしげに口角を歪めてヴァンは笑った。
件の人間が何をしようとしているのか、ディストはほとんど知らない。けれどそれがひっそりと内緒話でもするかのように呟いたディストが知らない部分のヴァンの計画を知ったとき、盲目にヴァンを慕って従う師団の人間が、正直言って、この世に多くいる預言狂信者と何ら変わらないのだと気づき、その危険性を苦く思った。
よくよく考えてみれば、ディスト以外の者は良かれ悪しかれ預言に関わっている。預言に対して燻って形にならなかった悪感情が、ただヴァンという指標がそれらの前に立つだけで、統率のとれた軍隊にまで膨れ上がった。預言をこの世からなくすという、壮大に見えて単純で難しい(本当に怖いのは、恐ろしいのは、預言を信じる人の心だ)目的に隠れたヴァンの真意と、それの後に作られる世界に考えも向けない彼らは、真実ヴァンの傀儡である。
あまり預言に心を預けていない(それは崇拝でも憎悪でも同じという意味で)ディストだからこそ客観的に理解できた危機感。
この男は色々な意味で危うい。
ディストはしばらく、ヴァンとそれを取り巻く環境から一歩離れて様子を見るつもりだった。その腹の内すら読んだのだろう、ヴァンは笑ったまま言った。


「そんなに手元に置きたいのなら尚更、師団の副官として入れよう。なかなかに使える人間であるようだ」


柄にもなく、ディストは舌打ちしたくなった。
この男、彼を抱きこみにかかっている!
神託の盾騎士団として籍を置くのなら、その最たる上司は主席総長であるヴァンだ。上司としての言葉なら聞かないわけにはいかないし、報告などで接触する機会などいくらでも作れる。問題の年まであと一年と少し。ゆっくりゆっくり篭絡してその方向を変えていけば、遅かれ早かれ私兵が出来上がる。それでなくとも彼がレプリカと知られてしまえば、最悪、あの逃げ出した計画の要となるルーク・フォン・ファブレの完全同位体と知られてしまえば、預言の脱却を図るヴァンのこと、被験者と挿げ替えて超振動を使わせることなど想像だに難くない。元来からだを構成する第七音素の結合が緩いレプリカにそんなことをさせたら、ただでさえ不安定な存在は完全に消滅してしまうのに。
レプリカ大地を作ると大それたことを言うわりに、レプリカを平気で消耗するヴァンの矛盾に、ディストは眉を寄せた。


「一応打診はしましょう。しかし彼は今、あくまで個人契約です。彼が決めた方針に口を出す権利は、私にはありませんからね!」
「良かろう」


言外に、彼の決めたことに関して、それについて何かを追求される責任はないと保身に走る言葉に底が見えたのだろう。今はそれで十分なのか、ゆったりと笑ったヴァンは踵を返した。
耳鳴りがするほどの閑静が降りてきた通路で、ディストはため息を吐いた。
きっと、ヴァンはディストがあれを神託の盾騎士団に関わらせたくないという浅い思惑を見抜いている。専門的な知識の量は多かれど、研究に没頭して人間相関を疎かにしたディストと同じく、計画に必要な知識のないヴァンは、しかし人の機微を悟り、それを操る術に長けている。
こういう駆け引きは嫌いなのだと、ディストは唇を噛んだ。
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