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- Date:2024年11月23日
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ジャンル無差別乱発
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TOA:レプリカンティスルーク
アクゼリュス。
ヴァンが性犯罪者みたいになってしまったような。
アクゼリュスが近づくにつれ、ルークの調子は芳しくなくなってきた。医師免許を持つジェイドが診ても、その体調の悪さの原因が判明することはなかった。熱も怪我もないが、見た限りですらわかるほど、ふらついている。うっかりイオンにぶつかって引っくり返ることもあるが、しかしてナタリアやガイたちの危惧も知らず、寧ろそれを裏切って健脚ぶりを見せつけている。ただ、ふらふら危なっかしげに体を前後するだけで。
「無理はするなよ」
「いざとなったら、アニスちゃんのトクナガか、大佐の背中に乗せてあげるからね」
「おやおや、こんな年寄りまで使う気ですか」
「仕方ありませんわ。ガイやアッシュは前衛ですし、体の弱いイオン様にはさせられませんもの」
「私でも良いけど、ルークは嫌がるでしょうね…」
未だに、完全には懐いた様子を見せない方々の中でも、可愛いものが好きなティアが沈痛な面持ちでうつむく。しかしルークはその言葉を理解した様子もなく、定位置であるイオンの背後で視線が自分に集まった理由を問いたげに首を傾げている。
「っていうか、ルークがイオン様に懐くのは良いとしてぇ、その次に大佐に懐いてるのがアニスちゃんすっごく解せないんですけどぉ」
敢えてそこに触れなかったティアが、途端に恨みがましい目をジェイドに向ける。ジェイドは仕方なさげに肩をすくめた。
過去に会ったことがあるからと言って、今回旅を共にするにあたってルークの不信感はジェイドにも等しく向けられたはずなのに、ルークはジェイドの触診には大人しくしている。脅えている節もなきにしもあらずだが。
「まあ、大人しく診察を受けてくれるに越したことはありませんがね。昔は大変でした。喚く殴る蹴るひっかく暴れるは常套手段でしたから、何とか落ち着かせることができる人間が側にいないと、危なくて」
「そんな人がいるんですか? イオン様の他に?」
「ええ、2、3人ほど知り合いで…」
となれば、同じ条件下にあったその者の方が、ジェイドよりもルークに気に入られているのだろう。人徳の差か、性格か。
ジェイドを見る目が刹那に生温くなった。
イオンがにこやかに言う。
「あ、でもミュウは別みたいですね」
いつの間にかイオンの傍から離れて、アッシュに引っ付いていたミュウに懸命に手を伸ばしている。渋面でアッシュがミュウの頭を鷲掴み、ルークに渡してやると、ミュウの首元(そんなものあってなきに等しいが)に鼻を突っ込んで臭いを嗅ぐように鳴らした。みゅ、みゅ、みゅう、とミュウはくすぐったがっている。飽きたのか今度は耳を持ったり顔を伸ばしたりして遊び始めたそんな二人を見て、ティアは悶絶していた(片耳を口に含んで噛みしだき始めたときは、さすがにナタリアが止めた)。
「魔物だから、かなぁ」
「どんな理由だそれは」
ガイの呟きにアッシュの渋面は深まるばかりだった。
アクゼリュスに多く存在する坑道の内、セフィロトというダアトの機密に関わる空間に繋がる第十四坑道の奥にて。
アクゼリュスに着くまでにすっかり気力を失い、今やくったりとしているルークは、ヴァンの腕でだらけきったまま抱えられていた。その前に、脅迫されて連れてこられたアッシュとイオンがいる。
勝算を見たヴァンが、剣を突きつけた腕の中の子供に視線を注ぎ、イオンを鼻で笑った。
「まさかイオン様に稚児を囲う趣味がおありとはね」
「どこぞの明らかに肥満通り越して生命の危機に瀕しているダングな大詠師と一緒にしないでください。名誉毀損で訴えますよ」
またその話題か。
聞き覚えのあるその話に、幼子が首元に剣を宛てがわれている緊迫した雰囲気に水を差された気がした。そう思ったのはアッシュだけでなくヴァンも同様のようで、僅かに顔をひきつらせている。
アクゼリュスに来るまで、穏やかだと覚えていたイオンの気性が、薄皮を剥ぐような微細さでどんどん凶悪になっているような気がする。体が弱いとか言いながら、これまで一度も歩みを鈍らせたことも戦闘で邪魔になることもなかったイオンに、そろそろアッシュの不信感は頂点だった。
ヴァンにぞんざいに抱えられているルークは、ひ、ひ、と浅い呼吸を繰り返している。薄目を開けてイオンをいじましいほど見つめているが、ヒエラルキーがイオンとその他に別れているルークにとって、アッシュは眼中に入れる価値すらないらしい。相変わらず好悪がはっきりしすぎてムカつくクソガキだが、だからといって放っておくほどアッシュは人間を止めたつもりはなかった。
「さてイオン様、扉を開けていただきましょう。この子供が生きてる内に、ね」
完全に悪役に浸っているヴァンを睨めつけるイオンの目は度がすぎるほど剣呑だ。憎々しげですらある。
嫌々なのが明白だったが、一先ず扉は大人しく開けられた。
イオンに使った脅し道具を今度はアッシュにも適用するつもりのようで、ヴァンはまだ子供を抱えたままだ。顎をしゃくって中に入るようアッシュを促す。
パッセージリングの前に立ったアッシュを満足げに見遣り、もう用無しと言わんばかりにヴァンは猫の子を放るようにルークを投げ捨てた。石の床に勢いよく衝突したルークが、小さく声をあげる。
「ヴァン、貴様…っ」
「ルーク!」
「ルーク……?」
ルークの体を支え起こし、具合を診るイオンたちに目を向け、ヴァンはせせら笑った。
「ほう、預言に記された聖なる焔の光の名を、再び聞く羽目になろうとはな」
「何を言ってる?」
「アッシュ…この世は実にくだらない。お前もティアも視野がまだ狭く、その意味をわかりかねるやもしれん。しかしいつか、理解するはずだ。この世が如何に預言に支配されたむなしいものかを」
何か語り出しちゃったんですけど。
イオンが白々しい目に凍りつくのに冷や汗を垂らしながら、アッシュは剣を抜いた。そこへ、ゆらりとルークが立ち上がる。
「ぅ・ぅ・ぅ・うぅー」
ふるふる震えるてるてる坊主は、端から見ればいたいけな少年が泣くのを我慢しているように見えるが、ルークの気の短さを知っているアッシュはそっとヴァンとルークの延長線から外れる。イオンの顔は燦然と輝いていた。
「うあああぁぁぁあぁあ!」
ルークの姿がドップラー現象を残して消え、身構えたヴァンがすっとぶ。最終的にセフィロトの壁にめり込んだヴァンを尻目にしながら、アッシュは二次被害を免れたことに安堵する。
初対面のときに軽いパンチでガイをうめかせたように、ルークは些か同年代の子供よりも力がずいぶんと強い。本気を出せばミュウアタックの比ではないが、ミュウアタックがどれほどの威力かまだはっきりとは知らないアッシュであった。
さっきの大音声で、外にいる仲間もこの坑道の存在に気づくだろう。
顔面から埋もれたヴァンに目を向け、唸りながらイオンにすがりつくルークに目を向け、非常に清々しい笑顔でルークを誉めそやし撫でるイオンに目を向け、手持ち無沙汰になった剣を鞘に納める。
「どうしたの!?」
タイミングは良好と言ったところか、駆け付けてきた仲間はアッシュを見てイオンとルークを見て、ヴァンを見てからイオンと似たような笑顔になった。彼らも大概毒されている。
「可哀想に、怖かったでしょう?」
兄さん、子供受けする顔じゃないから、と唯一の肉親であるところの兄を平気で貶めるティアに、何故か実感の篭った相槌で頷くガイや、ダアトでやらかした武勇伝(主に悪い方の)を言って聞かすアニス、それを聞いて思わぬ方向に悪評を転がすナタリアや、めり込んだ深さと目測の飛距離とルークの体重と腕の長さ足の長さで運動量を計算する暇なジェイドに、和平の親善大使一行がこんな個性派で良いものかと思う。
調和が抜群に良いというわけでも、況してや成り行きで寄り集まった集団なのだから人に自慢できるほど協調性があるというわけでもなかったのだが、ルークという格好の偶像崇拝対象物ができてから、妙なことで同調する仲間にアッシュの心境はどこまでも微妙だ。アッシュの脳内に、同じ穴のムジナなんて言葉はない。
もしかしてヴァンは敵対するのではなく哀れむべきなのかとまで思い始めた頃に、アクゼリュスは崩壊した。